ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~いざ、出陣~

2012-09-04 | 散華の如く~天下出世の蝶~
信輝は、唐突に告げた。
可成様は、信濃に妻子を残しておいでだ、と。
池田「まだ顔も見ていないとか」
美濃の内乱が起きて二年。その間、妻と離れ離れ。生まれた子の顔すら拝めない。
帰蝶「そう…だったのでございますか」
知らなった。いや、家族あって当たり前。分かっていたはず…なのに、
私は国の事ばかり、殿の御無事ばかりを祈って、
当主の妻としての役割を忘れていた。
戦に駆り出されている者全て、故郷に残された家族のために祈らねばならない。
一国一城の妻たる私が、しっかり御役果たさねば…。私が、しっかりしなくては…。
グッと握った拳が、ふるふると小刻みに揺れた。
握った拳と覚悟の裏で、私は不安に襲われていた。
もしかしたら…、という不安で、
池田「声を掛けなくて、よろしいのですか?」
帰蝶「…」
殿に掛ける声が、無い。
声を上げれば、涙が溢れ、不安が露呈する。だから、
「殿なら…、大丈夫じゃ」と笑顔で返した。
池田「…。そうですか」なんとも腑に落ちない…という顔で、私に一礼した。
「出陣します」
彼の下がった頭が、スゥ…と持ち上がって、私を見た。
帰蝶「頼みますよ」
私も礼をした。すると、彼の具足が目に入った。
先陣隊…大地駆け抜けるその足で帰れる否か、その確証も無く…。
やはり、私は祈るだけ…それしか出来ない。
「武運を祈ります」
天命など、誰も分からぬ。
神仏のみ、その命を知る。
我らは、定めに従うのみ。
それ故に、空しかった…。