ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~筮竹と易者、見えぬ未来~

2012-09-27 | 散華の如く~天下出世の蝶~
足を戻し、息を調えようとしたが、やはり恐い。
川が、舟が…私を急き立て、不安を囃し立てる。
信長「ほれ」
ふらつく私を見て、しょうがない奴だ、と屋形船に乗せる。
帰蝶「…すみません」
揺れの小さい中央付近に座り、す…、袂から手拭いを取出し、額に押し当てた。
意識とは無関係に脂汗が吹き出す。熱いわけじゃない…なのに、顔だけ火照る。
気分が悪い、降りた方が、い…
「あ…」
船頭が、ぐっと竿で岸を押し、船は瞬く間に川の流れに乗ってしまった。
途中で引き返す事の出来ない歴史という川に、箱舟は流されてしまった。
川の水の音を船が掻き分け、ぎぃ…ぎぃ…、軋む音が船を左右に揺らす。
大事ない、大事ない…夜風に当たれば、気分も晴れる。
何もない、何ともない、何も心配する事は無い…新吾も、ややも、大事ない。
そう言い聞かせ、水上舞台 鵜匠の鵜舟を探した。
暗幕を破り、篝火が屋形船に、ぐいぐい、近付き、
バシャ、
篝火の下から、一匹の鵜が急に踊り出た。
げげげ、ぐぁぐぁ…、
濁った声で騒ぎ立てる鵜たち、それを紐でさばく鵜匠。
私には、鵜匠が筮竹(ぜいちく)をさばく易者に見えた。
バチバチ…
唸る松明から、ぶわっと火の粉が火の鳥のように舞って、闇の川に放たれた水鳥が、
バシャンッ、水しぶきを上げて、潜り込む。その刹那、鳥は魚に変化し、鮎を喉に捉えて、水から上がった。鵜の喉は、魚一匹分膨らんでいた。
くいと、鵜匠に紐を引かれ、舟に連れ戻された鵜は呑んだ鮎を、ぐぇ、ぐぇ、吐き出し、誇らしげに喉を鳴らした。ギラッ、鵜の目は鋭く、不気味に青く光った。
そして、次の獲物を捕らえんがため、黒い川に再び、その身を投げた。
鵜たちは暗い闇の川を、如何に泳ぐのであろう。
見事なまでに利く、その夜目で何を見据えているのだろう?