ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

すみか

2011-04-19 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
斯波が案内してくれた場所は雛の湯から少し離れた、紅染め体験工房[くれないの館]だった。
斯波「お~い、すみかぁー」と呼んで、
すみか「はぁーい」と顔を出したのは、15、6の女だった。
斯波「こいつに染め、教えてやってくれ。館長には俺から言っとく。じゃ」と背中を向けた。
すみか「はい」と同時に、深々と頭を下げた。
義経「ペコッ…」と俺も頭を下げた。ゆっくり頭を上げたと同時に、
すみか「ほなら、いこか?」と俺の腕を掴んで「え…?」と表情が一瞬、固まった。
義経「…」サッと彼女の手を振り払い、ササッと頭巾で顔を隠した。
すみか「クス…」と笑って「いこか」と紅染めコーナーに案内された。
すみかと呼ばれた女は、紅餅(染めの原料)での染めの工程を教えてくれた。分かり難い所は繰り返し二度教えてくれる。覚え難い所は、パンフレットに注意点を書き込んでくれる。
義経「んー…(親切な子だぁ)♪」とコツを掴み始め、いい気になっていた昼頃、
すみか「”あれ以来”始めて…」ポツリとつぶいた。
彼女は絹糸を紅く染めていた。冷水で赤いのか、染めて赤いのか…手は赤く染まっていた。
義経「…」水から手を引き上げて、自分の手を見たら…自分の手も染まっていた。
ちゃっぷ…んと再び紅色に染まった水に手を付けた。まるで、夕陽と血と平家の紅旗で染まった壇ノ浦みたいだ。
すみか「ねぇ」と作業しながら「お話出来ないの?」と話し掛けて来た。
義経「…(お話しちゃダメなんだよな…)」と困った顔をしていたら、
すみか「私ね、すみか。す み か、よ。私、名前が無かったから、斯波さんが付けてくれたの。うち、貧しくてね。12の時…遊郭に売られたの。そこで、斯波さんと会ってね。お前みたいのが働く所じゃねぇって、いきなり怒られて…」
義経「え…」と、作業の手を止めて、すみかの話に聞き入ってしまったら、
すみか「無駄口叩いているのは私よ、お話してないあなたは手を動かして!」と注意された。
義経「コックン(一理ある!)」大きく頷き、黙々と作業再開し、すみかの話の続きを待った。
すみか「斯波さん…私の借金を肩代わりして。ここ…働く場所も紹介してもらったの」
義経「…」
すみか「久しぶりに、斯波さんに会えた…。ありがとう」
義経「ブン!ブン!(礼なんて、いいよ)」と首を左右に振ったら、ほっかぶりがポーンと飛んで、ヤベッと急いでほっかぶりを取りに行った。