ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

ウソつき

2011-04-07 | 義経絵巻-芭蕉夢の跡-
能子「…はい」と、目を伏せた。
池田「御自分を大切になさって下さい」
能子「あなたも…」
池田「…」少し間が空き、にっこり笑って「…そうですね」と返事した。
能子「ウソつき…」
池田「え…?」
能子「自分を大切にしようなんて…これっぽっちも思ってないくせにっ!」
池田「…」不意に繭子の“守るべき者を残して、死ねない”という言葉を思い出し、深く美しい青色の日本海に目を細め、陽が映って銀色に輝く水面を見つめた。
能子「どうして、あなたが、松殿に?」
池田「御存知でしたか…」
能子「危ないじゃないッ!」
池田「フッ…」と笑ったから、
能子「その、笑顔がウソつきだって、言ってるの!」
池田「クッ」と笑みをかみ殺し「資盛(すけもり)が死んで…どの道、これしかない」と冷たく言い放った。
能子「何も…、やつの懐に入らなくても…」
池田「源氏の懐に入った平家のあなたが、お説教ですか?」
能子「…」キッと池田を睨んで、
池田「すみません…言い過ぎました」と頭を下げて謝罪し「昨夜…俺のために舞ってくれた、と思いました」と話を逸らした。
能子「誰のためでもなく自分のために舞ったの。それが生き残った私の役目だと思ったから」
池田「そう…」と目を伏せ、懐から小さな紙の包みを取り出し、能子に渡した。
能子「え?」と戸惑いながら、それを受け取り「何?」と問うように、池田を見つめたら、
池田「鎮痛剤です。お腹を痛めた子がいたでしょう」
能子「賀茂女ちゃんの…。ありがとう」と池田に微笑みかけたら、
池田「フイ…」と能子から視線を逸らし、防風林に目をやり「それと、昨夜、忍びやすかったです。ありがとうございます」と礼を付け加えた。
能子「え?」と防風林の方を見ると、
継「バレてたか」と、ひょこっと顔を出した。