アベ批判、タブー視1?(2015年10月23日中日新聞)

2015-10-23 09:17:37 | 桜ヶ丘9条の会
アベ批判、タブー視!? 

2015/10/23 朝刊

安倍政権への批判をめぐって、過剰ともとれる反応が相次いでいる。安全保障関連法に反対するシンポジウムが、「政治的」という理由で立教大(東京都豊島区)から会場の利用を断られた。放送大学は、政権への批判の記述がある試験問題を公開時に一部削除した。北海道では、職員室にあった政権に反対する文言が記されたクリアファイルを道教委が問題視している。

安保反対集会「場所貸さぬ」

 シンポジウムは、一万四千人を超える学者・研究者が加わる「安全保障関連法に反対する学者の会」が、学生グループ「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」などとともに企画。「岐路に立つ日本の立憲主義・民主主義・平和主義-大学人の使命と責任を問い直す」と題して今月二十五日に開く予定だった。

 関係者によると、立教大の教職員らでつくる「安全保障関連法に反対する立教人の会」に先月末、協力を依頼した。立教人の会は、池袋キャンパスのホールを使おうと、大学側と協議を重ねたが、今月上旬になって「主催団体の従前の活動から見て政治的な意味を持ちうる」として「会場使用は不可」とされた。このため、学者の会は法政大市ケ谷キャンパスのホールを代替会場として確保した。

 立教大教授で精神科医の香山リカ氏は「会場が変わったのは本当に残念でならない。千人以上の来場を見込んだ大規模なシンポであり、歴史的にも意味がある行事。立教大が会場に選ばれたのは本来、光栄なことなのに…」と落胆の色を隠さない。立教大は自らのホームページで「自由の学府」「開かれた大学」と強調しているだけに、「大学の理念を考えれば、開催実績を積極的にPRしてもいいぐらいだ」(香山氏)。

 本紙が立教大に取材したところ、広報課の担当者は会場の使用申請を却下したことは認めた。その理由については「学外団体には原則、施設の貸し出しをしていない」と説明した。だが、立教大では今年五月に、憲法学者らによる学会「全国憲法研究会」が記念講演会を開催していた。

 その点をただすと、広報担当者は「五月の件は承知していない」とした上で、「施設管理は総務課が担当しており個別事案ごとに総合的に判断している。詳しい事情を話す必要もない」と回答。立教人の会との交渉過程で「政治的」という理由を持ち出したことについては「大学の公式の見解ではない」とけむに巻いた。

 「表現の自由」の問題に詳しい内藤光博・専修大教授(憲法学)は「大学は開かれた公共機関のはずだ。なぜ施設が使えないか明らかにすべきだ」と指摘する。「『学者の会』は政治団体というより、研究者たちが学術的な視点から憲法問題を語る集まり。そのような活動を制限すれば、学内で自由に意見が交わしにくい空気ができてしまう」

 明治大でも昨年六月、日本ジャーナリスト会議やマスコミ九条の会が平和をテーマに企画した集会で会場使用が拒否されている。

 今回のシンポに報告者として登壇する予定の中野晃一・上智大教授(政治学)は「自由は人が根源的に重きを置くべきもの。人を育む大学で軽んじていいのか。自由を軽んじる大学から、自由で豊かな発想が生まれるのか」と憤る。

 今年四月に改正学校教育法が施行され、私立大を含め学長のリーダーシップ強化が盛り込まれている。中野教授は「国主導の大学改革でトップダウン型の大学運営に切り替わった結果、権力者の意をくむ忖度(そんたく)が広く蔓延(まんえん)しつつある。しかし大学自らが自由をないがしろにすることは、自殺行為とも言えること。そのことを肝に銘じてほしい」と強く求めた。

◆大学の試験問題「不適切」

 放送大で問題になったのは、七月にあった「日本美術史」の単位認定の試験問題の文章だ。

 戦前、戦中に弾圧を受けた画家らについての文章の冒頭に「現在の政権は、日本が再び戦争をするための体制を整えつつある。平和と自国民を守るのが目的というが、ほとんどの戦争はそういう口実で起こる」などと記述されていた。

 この冒頭部分について、大学側は政治的公平を定めた放送法に基づき「不適切」と判断。試験後に問題を学内専用サイトで公開する際に削除した。

 出題した放送大で客員教授を務めている東京大の佐藤康宏教授(美術史)は「自分自身の問題としてとらえてほしいと思って書いた。総務省は『法的問題はない』としている。大学側の過剰な自主規制だ。試験問題まで制約されるのは極めて遺憾だ」と憤慨する。この削除を受け入れられないとして、佐藤教授は本年度で客員教授を辞任することを大学側に伝えた。

 試験は、六百七十人が受け、大学側は「学生から疑義があった」として、サイト掲載前に削除や修正をするよう求めたが、佐藤教授は拒否した。来生新(きすぎしん)・副学長は「意見が分かれている問題を、一方的に取り上げており不適切」としている。

◆教員のファイル「政治的」

 北海道では、北海道高等学校教職員組合連合会(道高教組)が、組合員の教職員約千五百人に配布した「アベ政治を許さない」と印刷されたクリアファイルにクレームがついた。

 このファイルが職員室にあったことを道教委は「禁じられている公務員の政治的行為」として問題視。今月中旬、所持者や使用実態の調査を始めた。道高教組は「組合員のみに配っており、機関紙と同じ組合活動の一環。政治的行為ではない」と反発している。

 また、国会で安保関連法の審議があった七月から先月にかけて、東京都内で落書き騒ぎがあり、警察が動いた。

 都内の複数のJR駅トイレに安倍晋三首相を「戦争好き」などと揶揄(やゆ)する落書きが見つかったことで、警視庁が器物損壊事件として捜査。この件とは別に、首相のポスターにナチスドイツのヒトラー風のひげを書いた男性が、器物損壊容疑で現行犯逮捕された。

 政権や与党への批判や反発はいつの時代にもあること。過剰ともいえる反応は異様に映る。コラムニストの小田嶋隆氏は「落書きはいけないことだが、現場裁量でお目こぼしでもいいぐらいの話だ。一つ一つの動きは大事件とは言えないが、それがこうして同時多発していることを軽く見てはいけない」と警告する。

 「おそらく現場が忖度して『こうすれば、覚えがめでたい』と動いている。戦前、戦中の言論弾圧も、上からというより末端の先走りで厳格化された。それと同じ空気を感じ、気味が悪い」

 法政大の水島宏明教授(メディア論)は報道のあり方にも問題を感じるという。「落書きはルール違反だが、逮捕が妥当かどうかという視点が重要。逮捕者を擁護しようものなら批判の嵐だろうが、それでは本質が見えない」と指摘する。

 前出の佐藤教授も「自主規制で当面のトラブルを避け続けることが、どんな結果を招くのか。よく考えてほしい」と訴えている。

 (榊原崇仁、鈴木伸幸)

防衛官僚と軍需産業、緊密化加速(2015年10月21日中日新聞)

2015-10-21 08:06:33 | 桜ヶ丘9条の会
防衛官僚と軍需産業、緊密化加速 

2015/10/21 朝刊

安保関連法の成立直前に経団連が公表した「防衛産業政策の実行に向けた提言」
 防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大の五兆九百十一億円を計上した。安保関連法の成立で勢いづいた形だが、同法成立直前の先月中旬、経団連は防衛(軍需)産業関連の提言を発表。武器の製造やセールスで、政府に一層の財政援助などを要望し、平和主義への逆行をあらわにする。財界と防衛官僚の間には、汚職など黒い歴史が横たわる。それを無視するかのように、両者の緊密さは加速している。

◆経団連、武器輸出の支援要望

 「国家が公然として『死の商人』の背中を押す。経団連が求めているのはそういうことだ」

 NPO法人「ピースデポ」の田巻一彦代表がそう批判するのが、経団連が先月十五日に発表した「防衛産業政策の実行に向けた提言」だ。

 一言で言うと、政府に軍需産業の振興策を多角的に求めている。「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」と訴え、関連予算の拡充や輸出手続きの簡素化、輸出を視野に入れた武器開発の促進を提案する。

 具体的には国内生産・技術基盤の維持を名目に、将来戦闘機F3(仮称)や無人機システム技術、新型護衛艦の研究開発などを求めたほか、最新鋭ステルス戦闘機F35の他国向け生産、東南アジア諸国が南シナ海で海洋監視能力を強化するための情報通信技術(ICT)の共同開発などを要望する。

 田巻代表は「かねて、経団連と政府は共同歩調を取ってきた」と振り返る。

 経団連の防衛生産委員会は昨年二月、武器輸出三原則の大幅緩和のほか、英国や韓国にならい、武器輸出の専門部局を設置することを盛り込んだ提言を自民党国防部会に示した。これに呼応するように、政府は同年四月、輸出容認に転じる「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、今月一日には防衛装備庁を発足させた。

 武器輸出の地ならしは着々と進められてきた。その一つが二〇一一年度からの「能力構築支援」だ。自衛隊が培った地雷や不発弾の処理といったノウハウを東南アジア諸国などの軍隊に伝える事業で、他国軍との結びつきを強める内容になっている。

 一二年の第二次安倍政権発足後には、顧客となる開発途上国に武器購入資金を低金利で貸し出す案や、政府が軍需関連企業から武器を買い取り、相手国に贈与する案も検討された。

 先月末には防衛省の有識者会議が武器輸出に関する報告書を出した。売るだけではなく、維持や整備、運用の教育までを「装備システム」と見なし、一括して売り込む手法を提示。自衛隊で不要となった中古品の払い下げを提案し、公的な貿易保険を武器輸出に活用する他国の例も示した。

 慶応大の金子勝教授(財政学)は「人口減や所得減に直面する国内を見捨て輸出に頼るのが、いまの日本経済。政府が柱に据えた原発輸出は米国などで需要減少が顕著で、東芝の例でも明らかなように原発事業部門が不良債権化するケースも出ている。残った選択肢が防衛産業だ」と語る。

 防衛装備移転三原則は「わが国の安全保障に資する場合」を武器輸出の条件の一つとするが、安保関連法の成立で、自衛隊を地球の裏側まで派遣できるようになり、この縛りも無効化された。

 「国内の防衛産業が生産体制や技術力を維持し、利益を出し続けるには、恒常的に武器の需要、つまり日本が関与できる戦争が必要になる。それをにらんで、今日の状況がつくられたとも言える」(金子教授)

◆汚職の歴史、でも続く天下り

 財界と防衛省の緊密化を支えるのは人だ。その象徴が連綿と続く天下りだ。

 防衛省が先月に公表した「自衛官再就職状況」によると、一四年度に天下りした一佐以上の幹部自衛官は百四十九人。当然、国内を代表する軍需関連企業への天下りが目立つ。

 契約額が上位二十位内の軍需関連企業に天下りした自衛官は二十八人に上る。陸上自衛隊武器学校長は三菱重工業、海上幕僚監部装備部長は富士通、中部航空方面隊司令官はIHIのいずれも顧問などに就いた。軍需品の調達にかかわる関連団体への再就職もあった。

 任務の性質上、各種保険に加入することが多いからか、第一生命や三井住友海上火災など保険会社に二十四人が天下り。地方自治体の危機管理部門に再就職したケースも少なくない。

 だが、防衛省には汚職や官製談合を繰り返してきた汚れた歴史がある。

 一九九八年の装備品代金水増し請求事件以降、東京地検特捜部が六回にわたり摘発。一二年には陸自の二佐二人が、ヘリコプター開発で川崎重工業が有利になるよう働きかけたとして、官製談合防止法違反罪で略式起訴された。同社には直近六年間で三十四人の自衛官が天下り。「(防衛省側の)再就職受け入れ先への配慮が背景にある」(当時の検察幹部)という指摘も強かった。

 防衛省は旧防衛施設庁廃止(〇七年)のきっかけとなった〇六年の官製談合事件を機に、事件に関わった約六十社への再就職を全面的に自粛した。しかし、一四年七月に一転、二佐以下の自衛官らは自粛対象から外すと宣告した。

 防衛省広報課は「建設業界から『震災復興事業などにより人材不足が深刻化している』という声が寄せられた。防衛省としても貢献すべきだと判断し、一部自粛を解除した」と話す。

 幹部自衛官の再就職は百四十九人だった一四年度以前も、百五十四人(一三年度)、百五十五人(一二年度)と大差ないが、公表されない二佐以下については「着実に増えている」(同省広報課)という。

 経団連の提言では、汚職防止のために進められた一般競争入札を見直し、官民癒着の温床とされた随意契約を「活用すべきだ」と強調。防衛省の有識者会議の報告書も「自衛隊OBの活用も含めた幅広い検討が必要」と天下り推奨とも受け取れる提案をしている。

 新たに発足した防衛装備庁は、自衛隊施設の取得や管理を担っていた旧防衛施設庁の機能に加え、従来、陸海空の自衛隊がそれぞれ担ってきた武器の研究開発や購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担う。直接契約は年間約一兆六千億円、自衛隊の地方調達分を合わせると二兆円の予算規模だ。

 既存の防衛監察本部とは別に、庁内に「監察監査・評価官」を設けたが、約二十人の職員は「身内」。肥大化する「防衛ムラ」の腐敗を防げるのだろうか。

 全国市民オンブズマン連絡会議事務局長の新海聡弁護士は「公平な第三者の目によるチェックが不可欠。身内によるアリバイ的な監査には何の意味もない」と切り捨てたうえ、「防衛産業は新規参入が難しく、天下りが進めば進むほど、談合などの不正は生まれやすい。利益優先の政財界の姿勢を見ると、腐敗は免れないだろう」と懸念する。

 一方、防衛省は装備品研究で大学をも巻き込む。軍事技術に応用できる基礎研究に税金を投じる安全保障技術研究推進制度を新設。百九件の応募中、五十八件を大学が占めた。今年は東京工業大や神奈川工科大、豊橋技術科学大などの九件が採用された。

 安倍政権下で進む軍産学の協同体制。新海弁護士は「戦争を商売にすれば、いずれ平和は失われる。その代償は計り知れない」と、警鐘を鳴らしている。

(池田悌一、榊原崇仁)

安保法NOで共闘 世代や地域、党派を超え(2015年10月19日中日新聞)

2015-10-19 08:14:57 | 桜ヶ丘9条の会
安保法NOで共闘 世代や地域、党派を超え 

2015/10/19 中日新聞


 あきらめない-。安全保障関連法の成立から1カ月を前に、中部の各地でも18日、あらためて安保法に反対し、廃止を求める声が上がった。

 名古屋市中区新栄のライブハウスでは、安保法に関する勉強会があり、明治学院大非常勤講師の木下ちがや氏が講演。成立過程での強行採決を「市民運動の力にあらがえず、与党が追い込まれた結果」と分析した。安保法の批判を続ける若者グループ「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」について「市民が参加しやすい環境をつくった」とたたえた。参加したシールズ東海のメンバーで日本福祉大三年の橋谷喜恵さん(21)は「ここからがスタート。継続的に法廃止を訴えたい」と意気込んだ。

 岐阜市では、市民団体「岐阜・九条の会」のメンバーら約四十人が、十一月に開くイベントで発表する詩「命(ぬち)どぅ宝」の朗読を練習した。沖縄の方言で「命こそ宝」という意味。九条の大切さや沖縄戦の悲惨さを伝えようとつくった詩で、代表世話人の吉田千秋さん(72)は「朗読することで安保法の廃案を訴えたい」と語った。

 長野県松本市のJR松本駅前でも、安保法反対の集会があり、マイクを握った同県上田市の主婦山本妙さん(39)が「戦争に正義などない。自分たちの子どもを戦争に行かせてはいけない」と呼び掛けた。集会後、参加者約三百五十人が「戦争法廃止!」などと書かれたプラカードを手に駅前を行進し「命を守れ」とシュプレヒコールを上げた。

 廃止に向け、市民だけでなく、野党勢力が“共闘”を目指す動きも広がっている。

 名古屋市では野党支持者らでつくる「政治を考える市民の会」が集会を開き、来夏の参院選愛知選挙区(改選数四)で反対派の候補者が議席を得るにはどうすべきかを意見交換した。

 共産、社民、新社会の各党県組織、緑の党・東海の幹部らが参加。安保法廃止と脱原発の二点での共闘が提案され、十一月に具体的な方針を決めることも申し合わせた。

 十八日、「シールズ」が東京・渋谷駅前で開いた集会では社民、民主、共産、維新、生活の五野党の国会議員もマイクを握った。福島瑞穂議員(社民)は「戦争法廃止、改憲案ノー。野党と、できれば与党にも食い込んで大きく手をつなぎ歩んでいこう」と呼び掛け、福山哲郎議員(民主)も「野党協力して、安倍政治を倒すために声を上げ続けなければならない」と語った。玉城デニー議員(生活)は野党が結集する「オリーブの木構想」を挙げ、「皆で(選挙名簿に)名前を連ねていこう」と提案。会場から自然と「共闘、共闘」とコールが起こった。

解釈の余地なくせ 非戦への「新9条」(2015年10月17日中日新聞)

2015-10-17 08:48:53 | 桜ヶ丘9条の会
解釈の余地なくせ 非戦への「新9条」 

2015/10/17 朝刊

 ノーベル平和賞の有力候補とうわさされた「憲法九条を保持している日本国民」と「九条の会」は受賞を逃した。だが、集団的自衛権の行使も容認されるようになった今、平和賞に値するのか疑問もある。安保法成立に憤る人たちの間からは、新九条の制定を求める声が上がり始めた。新九条案では「専守防衛の自衛隊」を明確に位置づける。

 なぜ、平和国家を志向する人たちが「改憲」を持ち出すのか。

 「集団的自衛権の行使容認に転じた安倍政権の“解釈改憲”は度を越している。一方、『自衛隊は合憲』という歴代政権の主張も九条を素直に読めば無理がある」。ジャーナリストの今井一氏が自戒を込めて切り出した。

 そして、九条の条文と現実の乖離(かいり)は、安保法の成立で極まった。「立憲主義を立て直すことが先決という危機感から、解釈の余地のない『新九条』論が高まっている」(今井氏)

 九条の生い立ちを考えると、原案は自衛権も放棄している。その後の修正案で「国際紛争を解決する手段としては」などの文言が挿入され、解釈の余地が残った。「九条は人類の理想。ただし、もう自衛隊の存在をあいまいにすることは許されない」。そんな今井氏が構想するのは、「専守防衛」の自衛隊を明記した新九条案だ。

◆「自衛隊」明記を

 まず一項で侵略戦争を放棄。二項で個別的自衛権の行使としての交戦権を認めるが、集団的自衛権の行使は放棄する。三項で「前項の目的を達するために」と縛りをかけた上で自衛隊の保持をうたう。「米国の戦争に巻き込まれたくないが、日本が攻め込まれたら応戦するというのは国民の多数派の意見ではないか」

 米軍基地の受け入れなどには衆参両院の総議員の三分の二以上の賛成とともに住民投票での過半数の同意を条件とした。辺野古新基地計画のような民意無視の安保政策への歯止めだ。「ときの政権に都合のいい解釈や、軍隊の暴走を防ぐため、多くの国では防衛・平和に関する条文や条項は細かく規定されている」

 安保法に反対する「改憲派」の小林節・慶応大名誉教授は「自衛隊は本来の憲法解釈の範囲内で合憲」との立場だが、政権の恣意(しい)的な解釈を避けるためにも、自衛隊の存在を明文化するべきだと考える。小林氏の新九条案では、侵略戦争の否定と、個別的自衛権を明記する。

 「海外派兵は認めない憲法の本旨を明確にするため、自衛隊の役割として、日本が襲われたときに反撃する『専守防衛』と、国連安保理の決議がなければ海外に出さないことを書き加える。同盟国の要請では海外には出ないので、集団的自衛権の行使は認めない」

 国連の平和維持活動(PKO)などで紛争地に関わってきた伊勢崎賢治・東京外語大大学院教授は「消極的な護憲派」を任じ、「護憲でも改憲でもいいが、日本が戦争に巻き込まれなかったのは九条のおかげだ」と評価する。だが、「立憲主義に無謀に挑戦する政権」が登場した結果、「『違憲』のままで戦争に送られる自衛隊を何とかするには改憲すべきだ」と感じるようになった。

 伊勢崎氏の新九条案は、国連憲章と国際法を前面に打ち出している。ポイントは自衛権の考え方だ。個別的自衛権のみを自国内に限定して行使するが、その場合に交戦権は認める。「国際法では、自衛権は交戦権と同じこと。交戦権のない自衛権という議論は国際的に通用しない」

 一方、国連の活動であっても、海外での武力行使は禁じる。国連の集団安全保障を誠実に希求するものの、武力行使は放棄する。在日米軍は、海外での武力不行使の例外にしない。新九条に先立ち、米軍駐留に関する日米地位協定を「在日米軍基地が日本の施政下以外の他国、領域への武力行使に使われることの禁止」などと改定する。「在日米軍にまで徹底しないと、本物にならない」

 もっとも、新九条実現までの道のりは遠い。憲法改正には、衆参両院で総議員の三分の二以上の賛成を取りつけた上、国民投票に持ち込む必要がある。衆院で三分の二以上を占める現与党が、新九条案に賛成するはずがない。

 小林氏は「当面は『安保法制は憲法の破壊』という観点で戦っていく。その先にあるのが政権交代だ。護憲派の中にも専守防衛のための自衛隊なら合憲だと考える人は増えている。野党が結集して来年夏の参院選で自民党を敗北させれば、いずれ新九条を提起できる政権が生まれるだろう」と見通す。

◆予備的国民投票を検討して

 選挙しかないのだろうか。二〇〇七年に制定された憲法改正国民投票法は付則で、条文改正に直結しなくても改正につながりそうな問題については、国民投票の前に広く意見を聞く「予備的国民投票」の検討を求めている。法的拘束力を持たない諮問型の国民投票と解されているが、いまだ導入するか否かの結論は出ていない。

 今井氏は「自衛のためなら戦争をするのか、そのためなら軍隊を持つのか。政府は来夏の参院選に合わせて予備的国民投票を実施し、安保法制への賛否を国民から聞くべきだ」と訴える。

 その上で、国民の議論がさらに深まった数年後、あらためて現九条、新九条案、「海外でも活動できる国防軍」の創設を盛り込んだ自民党案のいずれが望ましいか、予備的国民投票にかけるべきだと主張する。「九条が空洞化してしまった今だからこそ、国民も主権者としてどのような国にしたいかをよく考え、主張していく必要がある」

(中山洋子、池田悌一、佐藤圭)