防衛官僚と軍需産業、緊密化加速(2015年10月21日中日新聞)

2015-10-21 08:06:33 | 桜ヶ丘9条の会
防衛官僚と軍需産業、緊密化加速 

2015/10/21 朝刊

安保関連法の成立直前に経団連が公表した「防衛産業政策の実行に向けた提言」
 防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大の五兆九百十一億円を計上した。安保関連法の成立で勢いづいた形だが、同法成立直前の先月中旬、経団連は防衛(軍需)産業関連の提言を発表。武器の製造やセールスで、政府に一層の財政援助などを要望し、平和主義への逆行をあらわにする。財界と防衛官僚の間には、汚職など黒い歴史が横たわる。それを無視するかのように、両者の緊密さは加速している。

◆経団連、武器輸出の支援要望

 「国家が公然として『死の商人』の背中を押す。経団連が求めているのはそういうことだ」

 NPO法人「ピースデポ」の田巻一彦代表がそう批判するのが、経団連が先月十五日に発表した「防衛産業政策の実行に向けた提言」だ。

 一言で言うと、政府に軍需産業の振興策を多角的に求めている。「防衛装備品の海外移転は国家戦略として推進すべきだ」と訴え、関連予算の拡充や輸出手続きの簡素化、輸出を視野に入れた武器開発の促進を提案する。

 具体的には国内生産・技術基盤の維持を名目に、将来戦闘機F3(仮称)や無人機システム技術、新型護衛艦の研究開発などを求めたほか、最新鋭ステルス戦闘機F35の他国向け生産、東南アジア諸国が南シナ海で海洋監視能力を強化するための情報通信技術(ICT)の共同開発などを要望する。

 田巻代表は「かねて、経団連と政府は共同歩調を取ってきた」と振り返る。

 経団連の防衛生産委員会は昨年二月、武器輸出三原則の大幅緩和のほか、英国や韓国にならい、武器輸出の専門部局を設置することを盛り込んだ提言を自民党国防部会に示した。これに呼応するように、政府は同年四月、輸出容認に転じる「防衛装備移転三原則」を閣議決定し、今月一日には防衛装備庁を発足させた。

 武器輸出の地ならしは着々と進められてきた。その一つが二〇一一年度からの「能力構築支援」だ。自衛隊が培った地雷や不発弾の処理といったノウハウを東南アジア諸国などの軍隊に伝える事業で、他国軍との結びつきを強める内容になっている。

 一二年の第二次安倍政権発足後には、顧客となる開発途上国に武器購入資金を低金利で貸し出す案や、政府が軍需関連企業から武器を買い取り、相手国に贈与する案も検討された。

 先月末には防衛省の有識者会議が武器輸出に関する報告書を出した。売るだけではなく、維持や整備、運用の教育までを「装備システム」と見なし、一括して売り込む手法を提示。自衛隊で不要となった中古品の払い下げを提案し、公的な貿易保険を武器輸出に活用する他国の例も示した。

 慶応大の金子勝教授(財政学)は「人口減や所得減に直面する国内を見捨て輸出に頼るのが、いまの日本経済。政府が柱に据えた原発輸出は米国などで需要減少が顕著で、東芝の例でも明らかなように原発事業部門が不良債権化するケースも出ている。残った選択肢が防衛産業だ」と語る。

 防衛装備移転三原則は「わが国の安全保障に資する場合」を武器輸出の条件の一つとするが、安保関連法の成立で、自衛隊を地球の裏側まで派遣できるようになり、この縛りも無効化された。

 「国内の防衛産業が生産体制や技術力を維持し、利益を出し続けるには、恒常的に武器の需要、つまり日本が関与できる戦争が必要になる。それをにらんで、今日の状況がつくられたとも言える」(金子教授)

◆汚職の歴史、でも続く天下り

 財界と防衛省の緊密化を支えるのは人だ。その象徴が連綿と続く天下りだ。

 防衛省が先月に公表した「自衛官再就職状況」によると、一四年度に天下りした一佐以上の幹部自衛官は百四十九人。当然、国内を代表する軍需関連企業への天下りが目立つ。

 契約額が上位二十位内の軍需関連企業に天下りした自衛官は二十八人に上る。陸上自衛隊武器学校長は三菱重工業、海上幕僚監部装備部長は富士通、中部航空方面隊司令官はIHIのいずれも顧問などに就いた。軍需品の調達にかかわる関連団体への再就職もあった。

 任務の性質上、各種保険に加入することが多いからか、第一生命や三井住友海上火災など保険会社に二十四人が天下り。地方自治体の危機管理部門に再就職したケースも少なくない。

 だが、防衛省には汚職や官製談合を繰り返してきた汚れた歴史がある。

 一九九八年の装備品代金水増し請求事件以降、東京地検特捜部が六回にわたり摘発。一二年には陸自の二佐二人が、ヘリコプター開発で川崎重工業が有利になるよう働きかけたとして、官製談合防止法違反罪で略式起訴された。同社には直近六年間で三十四人の自衛官が天下り。「(防衛省側の)再就職受け入れ先への配慮が背景にある」(当時の検察幹部)という指摘も強かった。

 防衛省は旧防衛施設庁廃止(〇七年)のきっかけとなった〇六年の官製談合事件を機に、事件に関わった約六十社への再就職を全面的に自粛した。しかし、一四年七月に一転、二佐以下の自衛官らは自粛対象から外すと宣告した。

 防衛省広報課は「建設業界から『震災復興事業などにより人材不足が深刻化している』という声が寄せられた。防衛省としても貢献すべきだと判断し、一部自粛を解除した」と話す。

 幹部自衛官の再就職は百四十九人だった一四年度以前も、百五十四人(一三年度)、百五十五人(一二年度)と大差ないが、公表されない二佐以下については「着実に増えている」(同省広報課)という。

 経団連の提言では、汚職防止のために進められた一般競争入札を見直し、官民癒着の温床とされた随意契約を「活用すべきだ」と強調。防衛省の有識者会議の報告書も「自衛隊OBの活用も含めた幅広い検討が必要」と天下り推奨とも受け取れる提案をしている。

 新たに発足した防衛装備庁は、自衛隊施設の取得や管理を担っていた旧防衛施設庁の機能に加え、従来、陸海空の自衛隊がそれぞれ担ってきた武器の研究開発や購入、民間企業による武器輸出の窓口役まで一元的に担う。直接契約は年間約一兆六千億円、自衛隊の地方調達分を合わせると二兆円の予算規模だ。

 既存の防衛監察本部とは別に、庁内に「監察監査・評価官」を設けたが、約二十人の職員は「身内」。肥大化する「防衛ムラ」の腐敗を防げるのだろうか。

 全国市民オンブズマン連絡会議事務局長の新海聡弁護士は「公平な第三者の目によるチェックが不可欠。身内によるアリバイ的な監査には何の意味もない」と切り捨てたうえ、「防衛産業は新規参入が難しく、天下りが進めば進むほど、談合などの不正は生まれやすい。利益優先の政財界の姿勢を見ると、腐敗は免れないだろう」と懸念する。

 一方、防衛省は装備品研究で大学をも巻き込む。軍事技術に応用できる基礎研究に税金を投じる安全保障技術研究推進制度を新設。百九件の応募中、五十八件を大学が占めた。今年は東京工業大や神奈川工科大、豊橋技術科学大などの九件が採用された。

 安倍政権下で進む軍産学の協同体制。新海弁護士は「戦争を商売にすれば、いずれ平和は失われる。その代償は計り知れない」と、警鐘を鳴らしている。

(池田悌一、榊原崇仁)