言葉の戦中回帰(2015年9月29日中日新聞夕刊)

2015-10-12 12:41:04 | 桜ヶ丘9条の会
<こちら編集委員室> 言葉の戦中回帰 

2015/9/29 中日新聞夕刊
 武藤貴也衆院議員が七月末、ネットで発信した「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」の主張は「『戦争に行くのは嫌だ』との極端な利己的考え」という批判が、脳裏から消えない。安全保障関連法案に反対した若者の考えのどこが利己的なのか。国会議員という上から目線の傲慢(ごうまん)さしか感じられない。

 武藤議員が若者たちの抗議にネットで反論しても、説得力は感じない。この批判は、先の大戦で「戦争に協力しない者は非国民」とレッテル貼りして脅した歴史を連想する言葉だ。

 武藤発言を許したり、曖昧なままにすると、次々と戦争を肯定する発言につながりかねない。三月には、国会で、日本のあるべき姿として「八紘一宇(はっこういちう)」という言葉まで飛び出し、論議を呼んだ。広辞苑には「太平洋戦争期、日本の海外進出を正当化するために用いた標語」とある。

 安倍晋三首相になって、憲法九条の軽視に加え、本来なら議員辞職につながりそうな問題発言にまでも寛容になった感がある。

 同法案に反対したのはシールズだけではない。知識人、多くの憲法学者、元法制局長官、元最高裁長官らが違憲と指摘し、何度も市民による法案反対の数千、数万人のデモや集会があった。国民の多くは反対だ。

 政治家の発言は重い。一言一言に責任が付きまとうことを忘れないでほしい。

 (植木幹雄)