「宗務行政の適法性に疑問」消された 2014年、旧統一教会国賠訴訟の和解調書 (2022年8月31日 中日新聞)

2022-08-31 11:56:49 | 桜ヶ丘9条の会

「宗務行政の適法性に疑問」消された 2014年、旧統一教会国賠訴訟の和解調書

2022年8月31日 中日新聞
 「従前の宗務行政の適法性・妥当性に疑問の余地がないわけではない」。二〇一四年、鳥取地裁米子支部がこんな和解調書を決定した。文化庁のこれまでの旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)への対応を批判する内容だ。しかし、国側は猛反発し、この部分をばっさり削除した「更正調書」を裁判所に作らせていた。同庁は、この和解の翌年に、旧統一教会の名称変更を認めた。浮かぶのは、文化庁の不可解な対応の甘さばかりだ。 (宮畑譲、西田直晃)

国側が猛反発…削除

 「被告国においても、従前の宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問の余地がないわけではないことや、今後適切な宗務行政がなされることを期待する」
 二〇一四年七月十日、鳥取地裁米子支部が作成した民事裁判の和解調書に、裁判長が国の旧統一教会への対応を非難する文言が記された。しかし、この和解調書は翌月五日に「更正調書」として訂正されることになる。訂正後の調書では、この裁判長の文言が丸々、削除されてしまった。
 この裁判に原告側弁護団のメンバーとして関わった勝俣彰仁弁護士は「普通だったらありえない。この文言は和解の場で裁判長が口頭で述べたものをそのまま載せただけ。事実に間違いがあるわけではなく、被告側からの不当な削除要求だった」と振り返る。
 和解は七月十日で成立しているにもかかわらず、勝俣弁護士によると、この調書が関係者に配られた後、被告側から裁判所に対して、文言を削除するよう強い要求があり、裁判所が応じたのだという
 

法務省で開かれた旧統一教会を巡る問題についての関係省庁連絡会議第1回会合。奥左端は葉梨法相。肝心の文化庁が入っていない=18日

 勝俣弁護士はこの対応に納得していないが、「原告が高齢だったので被害弁償を優先し和解に応じた。裁判所が示した事実はあるので、しぶしぶ承知した」と訂正に応じた理由を語る。
 この裁判は、中国地方に住む高齢女性が、旧統一教会の霊感商法や献金強要などによって受けた損害賠償などを求めた訴訟で、〇九年に提訴した。国が教団に対して宗教法人法上求められる措置を適切に行っていなかったとして、国の「行政不作為」も問うた。旧統一教会の問題に関連して国賠訴訟を起こした初めての事例だとされる。
 和解は成立しているので、訂正されたとはいえ、当初の調書も記録として残る。訂正後の調書と合わせ、和解に関する文書が最終的に二通残ることになった。勝俣弁護士は「国は文字として残したくなかったのかもしれないが、逆に二通の記録が残ることになった。その事実が国や旧統一教会のやり方のおかしさを浮き彫りにしているのではないか」と話す。
 国と旧統一教会が関係する損害賠償を巡っては、他にも不可解な例がある。
 〇八年、千葉県の女性が献金した約二億二千万円の損害賠償を求めていたところ、教団側は献金額を上回る二億三千万円を支払う内容で示談に応じた。
 〇六年に賠償を求めた当初、教団側は約一億三千万円を提示していたが、被害額と隔たりがあるため、女性側が「国の責任も追及する」との訴状案を送付すると、教団側は歩み寄り、献金額を上回る額で合意に至った。
 女性側の代理人を務めた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の紀藤正樹弁護士は「そのころは、教団の勧誘の違法性などを認める最高裁判決が出そろった時期と重なる。解散命令が出されるといったことを恐れて、国が相手となる訴訟が起きるのはまずいと思ったのかもしれない」と、教団側の対応が変わった背景を推測する。

文化庁翌年、名称変更認める 提訴後は聴取さえせず

 米子の訴訟では、旧統一教会の所轄が都道府県から国に移った一九九六年以降、二〇〇九年までに少なくとも九回、文化庁宗務課が教会から任意聴取していたことなどを示す報告書も提出されていた。だが、そこから浮かぶのも「宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問」だ。
 

「宗務行政の適法性・妥当性に疑問の余地がないわけではない」とする和解調書。国側の抵抗で削除された

 報告書は一二年、当時の宗務課長が提出。「所轄庁の権限は、政教分離の原則から、宗教団体の活動の自由に干渉するようなことがあってはならず(中略)、憲法違反のおそれが生じます」と法の制約を強調した上で、九回の事情聴取では「適正な管理運営や個別事案への誠実な対応をするよう、口頭ではありましたが、明示的に、強く求めてまいりました」などとした。
 一方、この報告書では、全国弁連がたびたび、旧統一教会の収益事業の停止命令▽同会への報告徴収・質問権の行使▽同会の解散命令請求−などを文化庁に求めたのに対し、「慎重な検討が必要」「権限の行使は難しい」などと、拒否していたことも分かる。
 最も不可解なのは、この任意聴取さえも〇九年の提訴後は「無用の誤解を避けるため」として行っていないこと。だが、〇九年といえば、警視庁公安部の強制捜査で、霊感商法を行っていた旧統一教会関連会社の社長らが逮捕され、教会施設も家宅捜索された「新世事件」が発覚した年だ。
 教団の悪質性が注目されていた時期に当たり、むしろ対応を強めてもよかったのではないか。北海道大大学院の桜井義秀教授(宗教社会学)は「訴訟の当事者だから動くべきでないと考えたのだろうが、法廷で問われる責任と所轄庁としての責任は別のもの。何らかの知見や結論を得るまで、聴取を続けるべきだった」と指摘する。
 一方、報告書には「宗教法人法は、宗教団体の行為に対して他の法令の適用を妨げるものではない」とも。特定商取引法違反や刑法上の詐欺に当たる事実があれば、関係省庁が対応するという姿勢を示していた。だが、桜井氏は「霊感商法に関わる信者の多くは、無計画のまま善意で人をだましている。これは詐欺罪に該当せず、マインドコントロール下の信者への対応は従来の法解釈では難しい。被害の現状を見れば、柔軟な法解釈での立件、ひいては解散命令の請求に動くべきだったのではないか」と語る。
 この訴訟が和解終結した翌年の一五年、まさに宗教法人法の制約を逆手に取り、認証しなければ違法になると通告した上で、旧統一教会は名称変更を文化庁に申請した。当時の下村博文文部科学相への事前報告など異例な経過をたどりながらも、十九年越しの名称変更は実現した。
 ジャーナリストの鈴木エイト氏は「〇九年以前、原告側代理人の全国弁連と文化庁は綿密に意見交換していたが、訴訟の原告と被告になったことで溝ができた。文化庁が悪いという空気も醸成され、教会はその隙を突いて名称変更に動いた可能性もある」と話す。
 信教の自由を盾にしてきた旧統一教会と、それがあるから踏み込めないと不作為を重ねた国。一九九〇年代後半に文化庁宗務課長として、教団への解散命令請求を断念したという前川喜平氏は「実際に命令が出たのは、私が課長の時点ではオウム真理教だけ、〇九年でも霊視商法事件の明覚寺を合わせた二件。いずれも教団幹部が逮捕され、そのレベルで解散命令を出すという相場観が固定化していた」と振り返りつつ、こう語る。
 「信者の違法な勧誘について教団の使用者責任を認定した確定判決もあり、解散命令を請求できる余地はあった。『カルト対策をしっかりやれ』というような政治家の主導があれば、違う方角に向かう可能性もあったが、現実には違った」
 
 

 


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