比べられる国葬、日英の違いは?

2022-09-27 12:43:37 | 桜ヶ丘9条の会

比べられる国葬、日英の違いは?

2022年9月17日 

比べられる国葬、日英の違いは?

2022年9月17日 
 8日に死去した英国のエリザベス女王の国葬が19日に執り行われる。27日に予定される安倍晋三元首相の国葬と違い、国民から特段の反発はない。死亡の経緯が異なるとはいえ、安倍氏の国葬は実施まで2カ月以上と準備期間が長い。各国に働きかけ、弔問外交の体裁を整えようとしたのか。だが、先行する女王の国葬にはさらに大物たちが…。岸田文雄政権が決めた安倍氏の国葬の意義づけに、改めて疑問が浮かぶ。
 (木原育子、中山岳)

税に厳しい国柄、議会が承認 英国

 十二日正午、皇居周辺。秋晴れの空の下、多くの人がウオーキングや日光浴など、思い思いの時間を過ごしていた。
 ジョギング中の三宅侑子さん(62)に国葬について意見を聞くと、さわやかな表情を曇らせた。「結局、これって誰得(誰の得なのか分からない)の葬儀なんでしょうね」。安倍氏の国葬への苦言だ。「子どもや孫の世代のためにもっと使うべきところがあるはず。岸田さんのやり方は見ていられませんよ」と言い残し、走り去った。
 この話題に顔をしかめた英国出身男性も。「エリザベス女王は国民のために働いてきた。女王の国葬について英国民は誰も異を唱えていないよ」とベンチで昼食をとっていたネイサンさん(30)。北海道ニセコ町のスキーインストラクターで、現在は観光中という。
 英国の国王は、国会招集から宣戦布告まで幅広い権限を持つが、内閣の助言なしに行使できないという難しい立場。ネイサンさんは「女王の影響力は政治面でも大きかったはずだが、彼女は偏らず、政治的分断を生まないやり方を貫いてきた。だから国葬でも批判は起きない。それは安倍さんと決定的に違うところでは」と思いを巡らせる。「日本国民にとって安倍さんの亡くなり方はかなり特異で、衝撃はあるだろうが、それを差し引いても女王と安倍さんが同じ国葬というのは、英国出身者からすると大いに違和感がある」
 短文投稿サイトのツイッターでは「本物の国葬は国民の悲しみとともにある」「英国がするのが本物の国葬」といった書き込みが相次ぎ、「本物の国葬」が一時、トレンドワードにもなった。これに対し「そもそも比べるものではない」などの反論も見られた。
 「政権末期の雰囲気」などとツイートした元東京都知事で国際政治学者の舛添要一氏は「岸田さんは世論を見誤ったのではないか」と推測。「女王と元首相では比較の対象が違うかもしれないが、タイミング的にどうしても比べてしまう。各国のトップクラスが集まる英国の国葬に比べ、安倍氏の国葬は寂しい感じがぬぐえない」と語る。
 関心が高まる英国の国葬だが、どう位置付けられているのだろう。
 英国法思想史が専門の同志社大の戒能通弘教授は「英国は税に対して大変厳しい国柄。国葬は王室や特別な功労者を対象とし、議会での予算審議と承認が必須とされる」と説明する。
 これまで歴代の国王や女王のほか、科学者のニュートン、チャーチル元首相などの国葬を実施してきた。
 ひるがえって日本では、天皇陛下の葬儀は皇室典範で「大喪の礼」を行う定めだが、国葬については明確な定義はない。岸田首相は国会を開かず、安倍氏の国葬の実施を閣議で決定。内閣府設置法が国の儀式を所掌しているので、内閣の会議(閣議)で決められると主張し続けている。
 戒能氏は「英国は国民が主権者という思想が浸透し、国民のコンセンサスが重視される。国民の代表である議会の承認を得ることは当然だと考えている」とし「国会の議論を経ず、閣議決定で決める日本と英国の国葬のあり方は決定的に違う」と指摘する。

閣議決定のみ、巨額税金投入 日本

 エリザベス女王の国葬は死去から十一日後に実施される。女王は高齢で体調に不安を抱えていた。別れを告げ、遅滞なく次期国王を即位させる必要もあった。それと突然の凶弾に倒れた安倍氏の国葬を単純に比較できないが、なぜ準備期間に約二カ月の差があるのか。
 内閣府は「閣議決定された日程に合わせて準備している。警備や会場設営、会計、契約といった事務手続きがある。どういう方々を招待するかの選定もしている」と説明する。ただ、一九六七年の吉田茂元首相の国葬では、死去から十一日後の実施だった。国葬なら一律に時間がかかるとは言えない。
 高千穂大の五野井郁夫教授(国際政治学)は、岸田政権の政治的判断があったとの見方を示す。「岸田首相はもともと、八月半ば以降に内閣改造して支持率を上げ、国葬も世論の支持を得て実施するつもりだったのだろう。それが旧統一教会の問題が表面化して内閣改造を前倒ししたものの、国葬に対する世論の反対も高まって今に至っている」
 政府は国葬の理由に、弔問外交も挙げている。岸田首相は八日の閉会中審査で「安倍元総理が培った外交的遺産を受け継ぎ、発展させる」と述べ、参列予定の米国のハリス副大統領、カナダのトルドー首相、インドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相らの名を挙げた。
 これに対し、五野井氏は「現職の首脳級の参列者は一部にとどまり、特に欧州諸国からは少ない。顔触れを見ても、日米豪印でつくる『クアッド』諸国とは弔問外交をせずとも会談を設けられる。国葬の理由として弔問外交は後付け感が否めず、大半の国とは形式的なものになりかねない」と指摘。「これは安倍氏個人への評価と言うわけでなく、国際社会での日本の地位が低下していることを物語っている」と述べる。
 一方、エリザベス女王の国葬では、米国のバイデン大統領が参列の意向を示しているほか、各国首脳や王室関係者が集まると見込まれる。日本からは天皇、皇后両陛下が参列される。元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「二つの国葬の時期が近くなったことで、参列者の顔触れの違いが際立つことになった」と話す。
 女王の国葬が先になることで、安倍氏の国葬での弔問外交の意義も揺らぎかねない。孫崎氏は「岸田政権はハリス氏が国葬に参列することで日米関係の緊密さをアピールしようとしても、エリザベス女王の国葬にバイデン氏が参列するなら、難しくなる」とみる。
 そもそも、九月下旬は弔問外交のタイミングとしては悪いと孫崎氏は言う。「各国の元首クラスが演説する国連総会があり、接触したければそこで会えば良いはずだ。安倍氏の国葬日程は国連総会と重なり、弔問外交を第一の目的として決めたとは思えない」
 各種世論調査で反対意見が目立つ中、政府が国葬を実施するのはなぜか。
 政治評論家の小林吉弥氏は「岸田首相が国葬を決めた第一の理由は、自民党の最大派閥である安倍派に配慮して政権の安定維持につなげたかったからだ。安倍氏が死去した直後の党内の空気を読み、世論の反発も抑えられると思ったのだろう。だが、時間がたつにつれて批判する人も増えている。熟慮が足りなかったと言わざるをえない」と述べ、こう続けた。
 「岸田首相は実施しさえすれば国葬への批判は収まると考えているかもしれないが、旧統一教会の問題とともに秋の臨時国会で再燃しかねない。物価高対策や経済政策も誤れば、内閣支持率が下落して危険水域に落ち込む可能性もある」
 
 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿