最終文書、また決裂 NPT体制は形骸化、人類の課題解決策示せず (2022年8月28日 中日新聞)

2022-08-28 23:08:05 | 桜ヶ丘9条の会

最終文書、また決裂 NPT体制は形骸化、人類の課題解決策示せず

2022年8月28日 
 二十六日に閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナに侵攻したロシアが最後まで壁となり、二回連続で最終文書を採択できない最悪の結果に終わった。原発攻撃や核兵器使用への懸念が高まる中で開かれた会議は人類共通の課題への解決策を示せず、ある外交筋は「地に落ちたような気分」と語った。NPT体制は形骸化し、世界は核の軍拡競争に進みかねない危機に追い込まれた。
 二十六日午後、ニューヨークの国連本部の総会議場。集まった各国代表らに、最後の全体会合の開始延期が何度も告げられ、午後三時の予定が同七時過ぎにずれこんだ。
 軍縮外交筋によると、一部では合意に楽観論もあり、「最終的に決裂すると分かったのは議場でロシアが発言してから」。ぎりぎりまで調整を続けたスラウビネン議長が「合意に達することができなかった」と落胆した表情で告げると、議場全体が静まりかえった。
 ロシアが反対を貫いたのは、戦火を交えるウクライナを巡る記述だ。ザポロジエ原発占拠などの問題で、ロシアの責任を示唆するような記述を許せば目下の戦況にも影響を与えかねない。ロシアへの名指しは削除されたが、ロシアは強硬姿勢を崩さなかった。

■不信

 再検討会議が二回連続で決裂したことにより、NPTは最後に最終文書を採択した二〇一〇年以降、十二年以上も目立った成果を出せないことになった。
 核保有国の核弾頭数は減少傾向が続くが、各国は核兵器の更新や近代化を進める。米欧との対立を深める中国は、保有数でも三〇年までに現在の約三倍の千発に増やすとみられる。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は決裂後、記者団に「再検討会議と(核を保有する米英仏中ロの)五カ国だけでは、巨大な安全保障上の脅威に対応できないことがはっきりした」とNPT体制への不信感を口にした。
 実際、最終文書案には当初から核軍縮の期限や具体的な行動計画がなく、改訂の過程で「核の先制不使用」などのリスク低減を図る内容も削除。核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約に参加する非保有国などから不満が相次いだ。
 フィン氏は、核非保有の六十六カ国・地域が批准する核禁条約が、六月の第一回締約国会議で政治宣言を採択した成果を強調。推進国のメキシコは決裂後の会合で「核のない世界を目指すすべての国に対し、核禁条約にただちに参加するよう求める」と訴えた。

■原点

 しかし米英仏中ロは核禁条約に反対しており、保有国と非保有国が一堂に会して核軍縮を議論できるのはNPTの枠組みしかないのも事実だ。日本は岸田文雄首相が会議初日に演説し、核軍縮などについて「NPTが原点だ」と強調した。
 今回の決裂を機に保有国と非保有国の分断が進みかねず、今後は橋渡し役がますます重要となる。会議終盤に現地入りした武井俊輔外務副大臣は記者団に「ロシアもNPT体制は否定していない。核廃絶への歩みは一歩ずつ着実に進めなければならない」と述べた。
 (ニューヨーク・杉藤貴浩)

 核拡散防止条約(NPT)体制 核兵器保有を米ロ英仏中の5カ国に特権的に認める代わりに核軍縮を義務付け、他国の核保有は禁じる国際条約の枠組み。条約は1970年発効、191カ国・地域が加盟。原則5年ごとの再検討会議で核軍縮の進展などを点検する。NPT体制下で核軍縮停滞が続いたため非保有国の批判が高まり、2021年1月に核兵器の全面違法化、廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効した。保有国は反発、米国の「核の傘」の下にある日本も参加していない。 (共同)


一致点見いだす作業を

 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長の話 ロシアによる核のどう喝下でのウクライナ侵攻と原発占拠は現在進行形の重要な問題であり、既に多くの譲歩が重ねられた最終文書案からこれ以上後退させるわけにはいかなかった。現在の国際関係が終始、会議に色濃く反映されたと言える。今後、NPTの存在価値を巡る批判も出てくるだろうが、核保有国が参加するなど核のさまざまな問題に不可欠な条約であることも事実だ。核兵器が使用される可能性が高まる中、これをどう減らすかは各国が喫緊に合意すべき課題だ。冷戦期も米ソはキューバ危機を経て、リスク低減を核軍縮・不拡散につなげた。今後も対話の機会をつくり、まずは小さな一致点から見いだす地道な作業を続けていくしかない。 (共同)

「ロシアだけ悪」は危険

 長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授の話 米国はロシアによる核の威嚇を非難する一方、西側諸国の核抑止は責任ある正しいものだとする二重基準を用いた議論を展開した。最終文書案の作成過程では核兵器国の意向が強く反映され、核軍縮への言及が薄まった。核兵器国が核拡散防止条約(NPT)第6条の核軍縮義務をきちんと履行していないことが大きな問題で、最後に決裂を招いたロシアだけが悪いとする議論に収斂(しゅうれん)するのは危険だ。日本など「核の傘」の下にある国の姿勢が会議の中で非難されたことも忘れてはいけない。核兵器禁止条約の効果で、核の非人道性や被害者への言及など、前回会議と比べ前向きな動きもあったが、被爆地・長崎の私たちが国内外の世論を動かす力がまだ足りないと痛感した。 (共同)
2022年8月28日 
 

26日、米ニューヨークの国連本部で、NPT再検討会議が決裂し疲れた表情を見せる日本代表=共同

 二十六日に閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、ウクライナに侵攻したロシアが最後まで壁となり、二回連続で最終文書を採択できない最悪の結果に終わった。原発攻撃や核兵器使用への懸念が高まる中で開かれた会議は人類共通の課題への解決策を示せず、ある外交筋は「地に落ちたような気分」と語った。NPT体制は形骸化し、世界は核の軍拡競争に進みかねない危機に追い込まれた。
 二十六日午後、ニューヨークの国連本部の総会議場。集まった各国代表らに、最後の全体会合の開始延期が何度も告げられ、午後三時の予定が同七時過ぎにずれこんだ。
 軍縮外交筋によると、一部では合意に楽観論もあり、「最終的に決裂すると分かったのは議場でロシアが発言してから」。ぎりぎりまで調整を続けたスラウビネン議長が「合意に達することができなかった」と落胆した表情で告げると、議場全体が静まりかえった。
 ロシアが反対を貫いたのは、戦火を交えるウクライナを巡る記述だ。ザポロジエ原発占拠などの問題で、ロシアの責任を示唆するような記述を許せば目下の戦況にも影響を与えかねない。ロシアへの名指しは削除されたが、ロシアは強硬姿勢を崩さなかった。

■不信

 再検討会議が二回連続で決裂したことにより、NPTは最後に最終文書を採択した二〇一〇年以降、十二年以上も目立った成果を出せないことになった。
 核保有国の核弾頭数は減少傾向が続くが、各国は核兵器の更新や近代化を進める。米欧との対立を深める中国は、保有数でも三〇年までに現在の約三倍の千発に増やすとみられる。
 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は決裂後、記者団に「再検討会議と(核を保有する米英仏中ロの)五カ国だけでは、巨大な安全保障上の脅威に対応できないことがはっきりした」とNPT体制への不信感を口にした。
 実際、最終文書案には当初から核軍縮の期限や具体的な行動計画がなく、改訂の過程で「核の先制不使用」などのリスク低減を図る内容も削除。核兵器を全面的に違法とする核兵器禁止条約に参加する非保有国などから不満が相次いだ。
 フィン氏は、核非保有の六十六カ国・地域が批准する核禁条約が、六月の第一回締約国会議で政治宣言を採択した成果を強調。推進国のメキシコは決裂後の会合で「核のない世界を目指すすべての国に対し、核禁条約にただちに参加するよう求める」と訴えた。

■原点

 しかし米英仏中ロは核禁条約に反対しており、保有国と非保有国が一堂に会して核軍縮を議論できるのはNPTの枠組みしかないのも事実だ。日本は岸田文雄首相が会議初日に演説し、核軍縮などについて「NPTが原点だ」と強調した。
 今回の決裂を機に保有国と非保有国の分断が進みかねず、今後は橋渡し役がますます重要となる。会議終盤に現地入りした武井俊輔外務副大臣は記者団に「ロシアもNPT体制は否定していない。核廃絶への歩みは一歩ずつ着実に進めなければならない」と述べた。
 (ニューヨーク・杉藤貴浩)

 核拡散防止条約(NPT)体制 核兵器保有を米ロ英仏中の5カ国に特権的に認める代わりに核軍縮を義務付け、他国の核保有は禁じる国際条約の枠組み。条約は1970年発効、191カ国・地域が加盟。原則5年ごとの再検討会議で核軍縮の進展などを点検する。NPT体制下で核軍縮停滞が続いたため非保有国の批判が高まり、2021年1月に核兵器の全面違法化、廃絶を目指す核兵器禁止条約が発効した。保有国は反発、米国の「核の傘」の下にある日本も参加していない。 (共同)


一致点見いだす作業を

 日本国際問題研究所軍縮・科学技術センターの戸崎洋史所長の話 ロシアによる核のどう喝下でのウクライナ侵攻と原発占拠は現在進行形の重要な問題であり、既に多くの譲歩が重ねられた最終文書案からこれ以上後退させるわけにはいかなかった。現在の国際関係が終始、会議に色濃く反映されたと言える。今後、NPTの存在価値を巡る批判も出てくるだろうが、核保有国が参加するなど核のさまざまな問題に不可欠な条約であることも事実だ。核兵器が使用される可能性が高まる中、これをどう減らすかは各国が喫緊に合意すべき課題だ。冷戦期も米ソはキューバ危機を経て、リスク低減を核軍縮・不拡散につなげた。今後も対話の機会をつくり、まずは小さな一致点から見いだす地道な作業を続けていくしかない。 (共同)

「ロシアだけ悪」は危険

 長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授の話 米国はロシアによる核の威嚇を非難する一方、西側諸国の核抑止は責任ある正しいものだとする二重基準を用いた議論を展開した。最終文書案の作成過程では核兵器国の意向が強く反映され、核軍縮への言及が薄まった。核兵器国が核拡散防止条約(NPT)第6条の核軍縮義務をきちんと履行していないことが大きな問題で、最後に決裂を招いたロシアだけが悪いとする議論に収斂(しゅうれん)するのは危険だ。日本など「核の傘」の下にある国の姿勢が会議の中で非難されたことも忘れてはいけない。核兵器禁止条約の効果で、核の非人道性や被害者への言及など、前回会議と比べ前向きな動きもあったが、被爆地・長崎の私たちが国内外の世論を動かす力がまだ足りないと痛感した。 (共同)

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