中日春秋 (2022年3月22日 中日新聞)

2022-03-22 16:20:12 | 桜ヶ丘9条の会

中日春秋

2022年3月22日 中日新聞

 昭和の大横綱、大鵬の故・納谷幸喜さんは日本統治下の南樺太(現ロシア・サハリン南部)で生まれた
▼一九四五年八月にソ連が侵攻し、母に連れられ船で北海道に引き揚げた。当時五歳。南樺太で生き別れた父の記憶はなかったが、母が大事にしていた写真を見せられ、ウクライナ生まれと知るのは角界に入ってからという。父の消息を調べた新聞社から、自身が初優勝した六〇年まで生きていたとも後に知らされ、驚く。本人の自伝にあった
▼父はウクライナのハリコフ州出身で、極東へ移住。ロシアの革命を嫌って日本に亡命し、南樺太で日本人の母と結ばれたという
▼ロシアが侵攻する今のウクライナ。長野生まれで南樺太に育ち、七一年からウクライナに住む男性(78)が戦火を逃れて、北海道の親類宅に避難した。無事で何よりである。男性は四五年の終戦間際には引き揚げられず、ソ連国籍を取得したという。かつての樺太で運命の変わった人がいかに多いことか
▼納谷さんらの引き揚げ船は無事に稚内に着くが、他の船は魚雷で攻撃され、多くが亡くなった。自伝に「奇跡的に生きながらえた」とある
▼在日ウクライナ大使館のサイトによると、納谷さんは二〇〇二年、ハリコフを訪れて、現地の相撲愛好家らとも交流したという。戦争の過酷さを知る泉下の大横綱は、父の祖国の今をどれほど悲しんでいることだろう。
 

 


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