人類の進歩と不調和 週のはじめに考える(2018年3月25日中日新聞)

2018-03-25 08:21:09 | 桜ヶ丘9条の会
人類の退歩と不調和 週のはじめに考える 

2018/3/25 中日新聞
 大阪が二〇二五年、再びの万博開催を目論(もくろ)んでいるようですが、EXPO70のテーマを覚えていますか。そう、「人類の進歩と調和」でした。

 しかし、このごろのニュースなどみれば、世界は「進歩」や「調和」とは逆の方に行っているのかも、という思いが募ります。

 まずは、「壁」のことを考えてみましょう。ハドリアヌスの長城でも万里の長城でも、あるいは城郭都市などを思い浮かべてもらってもいいのですが、かつては世界中に壁がありました。敵からの攻撃に対する防御施設であると同時に、人々を分断する存在でもありました。

崩れた壁、新たな壁


 争いがなくなり、防御の要がなくなる度に壁は消え、あるいは機能を失っていきました。分断されていた人々が交わり、一緒になる時には邪魔になるのです。現代なら、世界を二つに引き裂いていた「ベルリンの壁」がよい例でしょう。

 壁は「分断」の象徴、それを一つ一つ崩していくこと、「統合」へと進むことが世界の「進歩と調和」であったはずです。

 しかし、新たな壁をつくることを大仕事だと喧伝(けんでん)してはばからない人物が今、世界の超大国を率いているのです。ご存じ、トランプ米大統領。メキシコ国境に長大なものをこしらえる計画を、なお捨てていません。

 現代の壁の“先輩格”は、イスラエルがパレスチナ自治区との間につくったそれでしょう。二〇〇九年に由緒ある古都の名を冠した「エルサレム賞」を受けた時、村上春樹氏は、人間個々の尊厳を「卵」に、それを壊すものを「壁」にたとえる受賞演説をしたと記憶します。そして、その古都をめぐり、トランプ氏は昨年、とんでもない宣言をしました。

エルサレム


 エルサレムは、パレスチナも将来の独立国家の首都と位置付けています。多くの国は、イスラエルの首都とは認めておらず、日本や米国も含め、大使館は地中海岸の都市テルアビブに置いています。まさにイスラエル・パレスチナ和平の勘所。なのにトランプ氏は、米大使館をエルサレムに移転すると発表したのです。

 イスラエルは大歓迎。パレスチナは激怒しました。和平の道をさらに後退させる「不調和」の姿勢を多くの国が批判したのは当然です。しかも米紙によれば、巨額献金者である親イスラエルのカジノ王からの圧力が影響したようす。開いた口がふさがりません。

 さらに、このツイッター大統領、反差別や言論の自由など歴史の中で培われてきた大事な価値観を傷つける発言も目に余ります。日々、言葉で新たな「壁」をつくっているよう。米大統領の影響力でそれを広めているなら、これも世界を退歩させる行いでしょう。

 退歩といえば、最近、中国でネット上に、バックする車など後戻りする何かを撮った画像が相次いでアップされたのだそうです。

 文化大革命への反省から、個人への権力集中、個人崇拝を厳に戒めてきた中国ですが、もはや集団指導体制は形骸化、習近平氏一強が決定的になっています。この二十日に閉幕したばかりの全人代では憲法改訂で国家主席の任期を撤廃。事実上、習氏の終身国家主席への道が開かれました。

 こうした動きを歴史の逆回転、社会の退歩とみる国民は少なくないのでしょう。ネット上の後戻り画像は精いっぱいの皮肉、抵抗なのです。ちなみに画像は当局の意向か、次々削除されたようです。

 前後して、ロシアではプーチン大統領が再選されました。お世辞にも厳正な選挙とは言えないようですが、とにかく、70%を超える圧倒的得票率でした。二期大統領を務めた後、いったん首相になって連続三選禁止の規定をかわした後の二期目。個人への権力集中も極まって、ツァーリ(ロシアの皇帝)に擬せられるほどです。

 「ベルリンの壁」と前後して社会主義ソ連は崩壊。民主化後のロシアでは選挙で指導者が選ばれる時代に。それが、どうでしょう、三十年ほどたってみれば、封建時代に後戻りしたように“皇帝”が権勢を振るっているのです。

脅かされる平和主義


 翻って、わが国。あの戦争で辛酸をなめた後、大事に守ってきた平和主義こそ戦後日本の「進歩」でありましょう。しかし今、九条改憲が企図されているばかりか、例えば隣国にも届く射程を持つ巡航ミサイルといった、これまで決して持たないできた武器の配備方針が示されるなど、専守防衛の鉄則を揺るがす動きも急です。戦争の準備を重ねて悲惨な戦争に突入していった経緯を思い起こせば、やはりこれも後戻り、「退歩」というほかないでしょう。

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