沖縄県東村の高江地区で、米軍のヘリパット(ヘリ離着陸帯)建設に対して騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを続けて来た。
この座り込みが、工事の「通行妨害」にあたるとして15人の住民が2008年国から妨害禁止の仮処分を申し立てられたが、その中に反対運動の団体代表の8才の子どもが含まれていた。那覇地裁は、2012年2人に対して妨害禁止の決定を出し、この2人の本訴訟が現在同地裁で進行中である。
この訴訟のように、強い立場にある者が弱い立場にある相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP (スラップ)訴訟」と呼び世界的に問題になりつつある。
このような訴訟的を許せば、権力者や企業たちの傍若無人の行為によって犠牲を強いられた弱者は、訴訟的によって多大の経済的出費を強いられ、司法判断の如何に関わらず事実上、反対運動自体が抑圧去されてしまい、経済力や権力者の横暴に逼塞されてしまう。
これは民主主義の敗北であるとして、このようなスラップ訴訟を禁止する国が増えている。
沖縄高江地区のヘリパット基地反対運動は、ドキュメンタリー映画「標的の村」として紹介され、愛知県では、9月 日から「シネマテーク」で上映されている。
「マガジン9」というブログの記事を掲載する。
あなたも訴えられるかもしれない
~SLAPP訴訟を考える~
8歳の子どもが訴えられる。しかも、国に。そんなことが実際に起きた。
沖縄県東村の高江地区。米軍のヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設が計画され、騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを展開してきた。それが工事の「通行妨害」に当たるとして、08年11月、15人の住民が国から妨害禁止の仮処分を申し立てられた。その中に、反対団体代表の8歳の娘が含まれていたのだ。
もちろん、8歳の子どもが特定の意図を持った通行妨害行為をするわけはなく、後に訴えは取り下げられる。しかし、那覇地裁は昨年12年、残る14人のうち共同代表の2人に妨害禁止の決定を出した。今は、この2人に対する本訴訟が同地裁で進行している(詳しくは、マガジン9「ぼくらのリアル★ピース~比嘉真人さん」)。
住民側の弁護士は、反対運動に参加した人はたくさんいるのに地元住民ばかりを選んでいること、8歳の子どもまで対象にしていることなどから、「市民運動の萎縮を狙った恫喝だ」と主張する。実際、仮処分の申し立てでは、現場にいたことすらない人が入っていたり、妨害行為の証拠がなかったりと、かなり杜撰な内容だったという。
この間、政権交代があり、住民たちは民主党政権に、仮処分の申し立てを取り下げるように、また、本訴訟を起こさないように要請してきたが、自民・公明政権の時と対応は変わらなかったそうだ。「民主党政権が、司法を利用した住民弾圧を自ら選択した」と批判する。
このケースのように、強い立場にある者が、相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP(スラップ)訴訟」と呼ぶ。Strategic Lawsuit Against Public Participationの略だ。
国や企業から訴えられれば、普通の市民は何よりびっくりする。受けて立つにしても、弁護士を頼んだり、裁判所に通ったりするだけで、金銭的、時間的に相当な負担である。国や企業に太刀打ちするのは、至難の業だろう。もちろん、精神的な負担も大きい。何も悪いことをしていなくても、「運動やめます」と白旗を掲げてしまった方が楽に違いない。それこそ、SLAPP訴訟の目的なのだ。
そんなSLAPP訴訟が、日本でも増えているという。自らも被告にされた経験を持ち、アメリカなどの取材も重ねているジャーナリスト・烏賀陽弘道さんの話を聞く機会があった。
烏賀陽さんは、雑誌に載ったコメントが信用を傷つけたとされ、オリコンに5千万円の損害賠償訴訟を起こされた。雑誌の出版社に対してではなく、烏賀陽さんだけがターゲットにされた。1審は敗訴、2審で実質勝訴したものの、提訴から33カ月を費やし、弁護士費用や収入減で990万円の損害を被ったという。ストレスで不眠症にもなったそうだ。
山口県・上関では、原子力発電所の建設に反対する住民4人が、敷地造成工事を妨害したとして中国電力から約4800万円の損害賠償訴訟を起こされた。ほかにも、内部告発、マンション建設反対、労働組合結成など、憲法で保障された権利を行使しようとして訴えられるケースが相次いでいる。「米軍基地、原発など、深刻で議論が分かれる社会問題に対する意見表明が、すべて潰されようとしている」と烏賀陽さん。言論や社会活動に携わる市民にとって、他人事ではない。
どうすれば良いのだろう。
烏賀陽さんによると、アメリカでは28州・地域にSLAPP訴訟を規制する法律があるそうだ。カリフォルニア州の反SLAPP法では、訴えられた側は裁判所に「SLAPPだ」と動議を出せる。裁判所は、1)公的な問題を巡る意見表明が背景にあるか、2)提訴に実効性があるか(法廷に持ち込む価値があるか)、との観点から審理し、長くても半年以内に結論を出す。SLAPPと認定されれば、訴訟は棄却される。
さらに画期的なのは、SLAPPと認められた場合、訴えられた側の弁護士費用は、訴えた側が払うことだ。SLAPP訴訟の抑止につながり、弁護士も資金に乏しい住民側の代理人になってくれるという(詳しくは「週刊金曜日」8月27日号)。
烏賀陽さんは「裁判を起こす権利はあっても、法制度を『悪用』する権利はない。SLAPP訴訟によって、発言をためらうことになれば、民主主義の敗北と言える。日本でも被害者の救済を急がなければならず、反SLAPP法が必要だ」と強調していた。
ところで、日本のSLAPP訴訟は新聞でほとんど報じられていない。特に、沖縄・高江や上関原発のケースは、現地ではともかく、東京の新聞紙面には全くと言っていいほど載っていない。記事にならず、市民が知らないままなら、国や企業は「嫌がらせの訴訟を起こしている」というイメージダウンを受けない。結果的にマスコミがSLAPP訴訟を許容してしまっているのと同じで、責任は重い。多くは望まない。事実関係だけで良いので、問題意識を持って、まずは伝えてほしい。
この座り込みが、工事の「通行妨害」にあたるとして15人の住民が2008年国から妨害禁止の仮処分を申し立てられたが、その中に反対運動の団体代表の8才の子どもが含まれていた。那覇地裁は、2012年2人に対して妨害禁止の決定を出し、この2人の本訴訟が現在同地裁で進行中である。
この訴訟のように、強い立場にある者が弱い立場にある相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP (スラップ)訴訟」と呼び世界的に問題になりつつある。
このような訴訟的を許せば、権力者や企業たちの傍若無人の行為によって犠牲を強いられた弱者は、訴訟的によって多大の経済的出費を強いられ、司法判断の如何に関わらず事実上、反対運動自体が抑圧去されてしまい、経済力や権力者の横暴に逼塞されてしまう。
これは民主主義の敗北であるとして、このようなスラップ訴訟を禁止する国が増えている。
沖縄高江地区のヘリパット基地反対運動は、ドキュメンタリー映画「標的の村」として紹介され、愛知県では、9月 日から「シネマテーク」で上映されている。
「マガジン9」というブログの記事を掲載する。
あなたも訴えられるかもしれない
~SLAPP訴訟を考える~
8歳の子どもが訴えられる。しかも、国に。そんなことが実際に起きた。
沖縄県東村の高江地区。米軍のヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設が計画され、騒音や事故の危険を心配する住民たちが反対の座り込みを展開してきた。それが工事の「通行妨害」に当たるとして、08年11月、15人の住民が国から妨害禁止の仮処分を申し立てられた。その中に、反対団体代表の8歳の娘が含まれていたのだ。
もちろん、8歳の子どもが特定の意図を持った通行妨害行為をするわけはなく、後に訴えは取り下げられる。しかし、那覇地裁は昨年12年、残る14人のうち共同代表の2人に妨害禁止の決定を出した。今は、この2人に対する本訴訟が同地裁で進行している(詳しくは、マガジン9「ぼくらのリアル★ピース~比嘉真人さん」)。
住民側の弁護士は、反対運動に参加した人はたくさんいるのに地元住民ばかりを選んでいること、8歳の子どもまで対象にしていることなどから、「市民運動の萎縮を狙った恫喝だ」と主張する。実際、仮処分の申し立てでは、現場にいたことすらない人が入っていたり、妨害行為の証拠がなかったりと、かなり杜撰な内容だったという。
この間、政権交代があり、住民たちは民主党政権に、仮処分の申し立てを取り下げるように、また、本訴訟を起こさないように要請してきたが、自民・公明政権の時と対応は変わらなかったそうだ。「民主党政権が、司法を利用した住民弾圧を自ら選択した」と批判する。
このケースのように、強い立場にある者が、相手の「口封じ」を目的に起こす訴訟を「SLAPP(スラップ)訴訟」と呼ぶ。Strategic Lawsuit Against Public Participationの略だ。
国や企業から訴えられれば、普通の市民は何よりびっくりする。受けて立つにしても、弁護士を頼んだり、裁判所に通ったりするだけで、金銭的、時間的に相当な負担である。国や企業に太刀打ちするのは、至難の業だろう。もちろん、精神的な負担も大きい。何も悪いことをしていなくても、「運動やめます」と白旗を掲げてしまった方が楽に違いない。それこそ、SLAPP訴訟の目的なのだ。
そんなSLAPP訴訟が、日本でも増えているという。自らも被告にされた経験を持ち、アメリカなどの取材も重ねているジャーナリスト・烏賀陽弘道さんの話を聞く機会があった。
烏賀陽さんは、雑誌に載ったコメントが信用を傷つけたとされ、オリコンに5千万円の損害賠償訴訟を起こされた。雑誌の出版社に対してではなく、烏賀陽さんだけがターゲットにされた。1審は敗訴、2審で実質勝訴したものの、提訴から33カ月を費やし、弁護士費用や収入減で990万円の損害を被ったという。ストレスで不眠症にもなったそうだ。
山口県・上関では、原子力発電所の建設に反対する住民4人が、敷地造成工事を妨害したとして中国電力から約4800万円の損害賠償訴訟を起こされた。ほかにも、内部告発、マンション建設反対、労働組合結成など、憲法で保障された権利を行使しようとして訴えられるケースが相次いでいる。「米軍基地、原発など、深刻で議論が分かれる社会問題に対する意見表明が、すべて潰されようとしている」と烏賀陽さん。言論や社会活動に携わる市民にとって、他人事ではない。
どうすれば良いのだろう。
烏賀陽さんによると、アメリカでは28州・地域にSLAPP訴訟を規制する法律があるそうだ。カリフォルニア州の反SLAPP法では、訴えられた側は裁判所に「SLAPPだ」と動議を出せる。裁判所は、1)公的な問題を巡る意見表明が背景にあるか、2)提訴に実効性があるか(法廷に持ち込む価値があるか)、との観点から審理し、長くても半年以内に結論を出す。SLAPPと認定されれば、訴訟は棄却される。
さらに画期的なのは、SLAPPと認められた場合、訴えられた側の弁護士費用は、訴えた側が払うことだ。SLAPP訴訟の抑止につながり、弁護士も資金に乏しい住民側の代理人になってくれるという(詳しくは「週刊金曜日」8月27日号)。
烏賀陽さんは「裁判を起こす権利はあっても、法制度を『悪用』する権利はない。SLAPP訴訟によって、発言をためらうことになれば、民主主義の敗北と言える。日本でも被害者の救済を急がなければならず、反SLAPP法が必要だ」と強調していた。
ところで、日本のSLAPP訴訟は新聞でほとんど報じられていない。特に、沖縄・高江や上関原発のケースは、現地ではともかく、東京の新聞紙面には全くと言っていいほど載っていない。記事にならず、市民が知らないままなら、国や企業は「嫌がらせの訴訟を起こしている」というイメージダウンを受けない。結果的にマスコミがSLAPP訴訟を許容してしまっているのと同じで、責任は重い。多くは望まない。事実関係だけで良いので、問題意識を持って、まずは伝えてほしい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます