日馬富士だけじゃない!あふれる暴力(2017年11月24日中日新聞)

2017-11-24 09:41:43 | 桜ヶ丘9条の会
日馬富士だけじゃない! あふれる暴力 

2017/11/24 中日新聞

 大相撲の横綱日馬富士(33)が平幕貴ノ岩(27)を暴行した問題は、相撲界の根深い暴力体質を露呈させた。テレビのワイドショーは連日大騒ぎだが、決して対岸の火事ではない。今年は、国会議員の秘書暴行疑惑や、有名音楽家のビンタ指導などが世間の耳目を集めた。私たちの身の回りでも、職場や学校での上下関係を利用した暴力行為や体罰は珍しくない。この社会は暴力に甘いのか。

 日馬富士の暴行問題は今月十四日に発覚した。当初の報道では、先月二十六日の鳥取巡業の前夜、鳥取市内の飲食店の個室で「モンゴル人力士飲み会」が催され、日馬富士が貴ノ岩の頭を殴るなどの暴行に及んだとされる。

 日馬富士は「貴ノ岩のけがについて深くおわびしたい」と暴行を認めた。鳥取県警は年内にも傷害容疑で書類送検する見通しだ。

 角界では、過去にも暴力事件が相次いでいる。二〇〇七年には序ノ口時太山が、当時の時津風親方や兄弟子に暴行されて死亡。一〇年には横綱朝青龍が、場所中の知人男性への暴行で現役引退に追い込まれた。一五年には宮城野部屋付きの熊ケ谷親方が、マネジャーの男性への傷害罪で起訴されている。

 日本相撲協会は事件のたびに再発防止を誓ってきた。しかし「話の最中にスマートフォンをいじる生意気な貴ノ岩を大先輩の日馬富士が懲らしめた」との構図が同協会関係者から盛んにリークされるところをみると、暴力込みの上下関係に肯定的な勢力はまだまだ多いことがうかがえる。

 暴力は、角界に限った問題ではない。

 政界の暴力的な側面を白日のもとにさらしたのが、豊田真由子元衆院議員だ。週刊新潮が公開した録音には「このハゲー!」などの暴言とともに、車を運転する政策秘書の男性を殴る音も収められていた。豊田氏は自民党を離党し、無所属で先月の衆院選に出馬したものの落選した。埼玉県警は選挙後、傷害と暴行の疑いで書類送検した。

 音楽界では八月、世界的なトランペット奏者の日野皓正(てるまさ)氏が、同月中旬に東京都内の音楽イベントで、共演した男子中学生の髪をつかみ、顔を平手打ちするようなしぐさをしたことが判明。生徒のドラムソロが長すぎ、スティックを取り上げたのに演奏をやめなかったので手を上げたという。

 学界では生物学者で広島大教授の長沼毅(たけし)氏が今月、学生を暴行し負傷させたとして、傷害罪で東広島簡裁から罰金三十万円の略式命令を受けた。極地での微生物採取などに出向く「科学界のインディ・ジョーンズ」として知られたが、他の学生にも暴言を繰り返すなどしており、七月、休職六カ月の懲戒処分を受けている。

職場パワハラ横行、労働相談9年で3倍

 一般社会でも、職場での暴力問題は後を絶たない。

 さいたま市職員だった男性が自殺したのは職場のパワハラが原因だとして、遺族が市に損害賠償を求めた訴訟は先月、東京高裁が市に約二千万円の支払いを命じ、確定した。代理人の金子直樹弁護士は「先輩から脇腹にあざが残るほど殴られ、上司に被害を訴え出たにもかかわらず放置された。職場の暴力は、人の命を奪うことに発展するほど深刻だ」と強調する。

 ネットの法律相談にも「会社の上司に殴られたが泣き寝入りしたくない」「先輩職人にたばこの火を押しつけられた」などの書き込みがあふれる。暴力が横行する職場の問題点は何か。

 労働問題に詳しい嶋崎量弁護士は「単純に乱暴な社員がカッとなって暴行を加えるというより、職場の人権感覚のゆがみによって引き起こされるケースが多い。パワハラは指導の延長線上に発生することが大半だが、個人の人権を尊重する職場では起こり得ない。パワハラの土壌をつくっているのは職場の体質だ」と指摘する。

 実際、職場での暴力は増加の一途をたどっている。厚生労働省によると、全国の労働局に寄せられた総合労働相談で、職場での暴力を含む「いじめ・嫌がらせ」の件数は一五年度、六万六千件に達した。〇六年度の三倍超だ。

 同省雇用機会均等課の担当者は「パワハラの周知が進み、社会が『パワハラは大きな問題だ』と共通認識するようになった。これまで職場でいじめや嫌がらせに遭っていても言い出せなかった人が『自分が受けているのはパワハラでは?』と積極的に相談するようになったのが一因だろう」と説明する。

 精神科医の香山リカ氏は、職場に暴力がはびこる理由について「現代は横並び主義が崩れ、個性で勝負する時代になっているのに、上の世代には『若い世代に尊敬されて当たり前』という支配意識が残っている。だから若い世代の活躍をストレスに感じ、立場を悪用して抑え込もうとする上司が現れ、それでも言うことを聞いてくれないときに暴言や暴力に発展する」と分析する。

 怒りを暴力につなげないためにはどうすればいいのか。

 一般社団法人「日本アンガーマネジメント協会」の安藤俊介代表理事は「怒ったときに手を出したり大声を出したりする人は『強い態度に出ないと相手に思いが伝わらない』という根本的な勘違いがある」と説いた上で、暴力を防ぐ手だてをアドバイスする。

 「怒りの感情があるのは人として当然のこと。それを衝動的に相手にぶつけるのではなく、落ち着いて『次からはこうしてほしい』と言わなければ伝わらない。怒りの感情は力の強い人から弱い人へ、立場の強い人から弱い人へと向かい、次々と連鎖する。怒りの連鎖を断ち切れば、暴力につながることもないし、自分も周りも幸せになれる」

 (大村歩、池田悌一)


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