中日春秋 (2022年1月20日 中日新聞)

2022-01-20 16:10:56 | 桜ヶ丘9条の会

中日春秋

2022年1月20日 
 東野圭吾さんの小説「プラチナデータ」は、国民のDNA型の国家管理が進んだ近未来を描く。犯罪容疑者だけでなく、捜査対象外の市民もDNA型を国に提供するようになり、検挙率は上がる
▼DNA情報を扱う警察施設を事情を知らぬ刑事が訪れ、巨大な機械に驚く場面がある。「宇宙にでも行く気ですか」との問いに、担当官は「宇宙より、もっと神秘的なものを探究する装置です」と応じる。個々のヒトの設計図といえる情報。<神秘的>ではあるのかもしれない
暴行容疑で逮捕されながら、無罪判決が確定した人のDNA型のデータを抹消するよう、国に命じる判決が名古屋地裁で出た。公権力からむやみにDNA型を利用されない自由が、憲法で保障されているとの判断
▼容疑者から採取したDNA型の情報を捜査に活用する意義を認めつつ、法的根拠の薄い保管を戒めた。まっとうな感覚と思える。原告男性は無罪確定後も監視されているような不安に悩まされ、飛行機に乗ると近隣の座席の人が「警察官ではないか」と思えたという
▼小説では、当局側の人物が「遺伝子の国家管理は人生を支配されるのと同じ」と言い、その職を選んだ理由を「支配されるぐらいなら、支配する側に回ったほうが」と
▼なんにしても薄ら寒い世界である。DNAを無神経に扱い、現実がフィクションに近づく愚は避けねばなるまい。
 

 


レールガン、曾野ねらいは❓超高速の電磁砲、防衛省が開発本格化へ (2022年1月20日 中日新聞)

2022-01-20 10:20:23 | 桜ヶ丘9条の会

レールガン、その狙いは? 超高速の電磁砲、防衛省が開発本格化へ

2022年1月20日 中日新聞
 レールガンが、にわかに注目を浴びている。電磁力で超高速の砲弾を発射する最先端兵器で、防衛省が新年度から開発を本格化しようとしている。ただ、多額の費用が見込まれるわりには、効果に疑問符が付く。先行して研究してきた国では開発が中断状態といい、そもそも実用化できるのかがあやしい。なぜ、そんな兵器を開発するのか。 (中沢佳子)
 「(従来の戦争のあり方を変える)ゲームチェンジャーとなる最先端技術。投資を大幅に増やし、研究開発を加速する」。昨年十二月二十二日、岸信夫防衛相はそう胸を張り、新年度予算案にレールガンの研究費として六十五億円を盛り込むことを明言した。
 防衛省や防衛装備庁によると、レールガンは電気を通しやすい素材で造った二本のレールの間に、導電性のある弾丸をはさみ、電流を流して磁場をつくり、電磁力で発射する。
 流す電力が大きいほど威力が増し、火薬の燃焼で撃つ従来砲よりも発射時のスピードが速く、砲弾の飛距離も伸ばせる。映画やアニメ、小説などに登場していた兵器だ。二〇二〇年版防衛白書によると、米国や中国が開発中。「小型・低コストかつ省スペースで備蓄可能なため、(中略)多数のミサイルによる攻撃にも効率的に対処可能」ともつづっている。
 実は日本でも、一六年から「電磁加速システム」の研究をしていた。音速のほぼ六倍に当たる秒速二千メートル以上を目標に、百二十発以上の発射に耐えられる丈夫なレールの研究もしてきた。防衛装備庁によると、試験で秒速二千二百九十七メートルまで達成したという。
 なぜ、そんなに執着するのか。軍事評論家の前田哲男さんは、中国やロシア、北朝鮮の動向を挙げる。「音速の五倍超で軌道を変えられる極超音速兵器を開発している。今の自衛隊の兵器では太刀打ちできず、対抗手段として最先端兵器を視野に入れている。レールガンもその一つだ」
 陸上自衛隊富士学校の元研究員で軍事ジャーナリストの照井資規(もとき)さんは「レールガン一つあれば何種類もの兵器をそろえる必要はなく、燃料もいらないので、管理が楽。何十台ものトラックで運ぶ手間もない。実用化できれば、人手不足に陥っている自衛隊にとって便利だ」と語った。
 ただ、世界中を見渡しても実用化にこぎ着けた国はない。米国では研究が中断しているという。
 照井さんは「発射のたびに多大な電力が必要だが、動力源がない。一発は撃てても、外れた時にすぐ二の矢、三の矢を放てない。超高速で飛んでくる物体に当てて迎撃できるかも疑問だ」と問題点を挙げた。
 さらに問題なのが開発費。「六十五億円では到底足りない。ケタがもうひとつは要る」と照井さん。そこまでお金をつぎ込む意義があるのか。
 照井さんは、防衛省の意図は別にあるとみる。「防衛省が『兵器開発』をうたう時、裏では目の前の問題の対処を考えている。レールガン開発も、関連技術の開発が狙いでは。例えば、防衛装備を動かすシステムの発展、国産品動力の開発など、他国に後れをとった部分の巻き返しだ」
 一方、前田さんは、レールガン開発を日米の軍事一体化を象徴するものの一つとみている。前田さんは「専守防衛の原則を振り捨て、米軍と行動をともにする姿勢を押し出している。レールガンの開発でも『ゲームチェンジャー』という言葉を使い、主導権を握ると宣言した。これまでの防衛政策の考えを大きく転換する言葉だ」と、その危うさを指摘した。