総務官僚の接待 虚偽答弁は許さない
2021年2月20日 中日新聞
菅義偉首相の長男らによる総務省幹部四人の接待問題で、政府側による国会での虚偽答弁がまたもや明らかになった。議会制民主主義を愚弄(ぐろう)する振る舞いだ。私たちは虚偽答弁を絶対に許さない。
国会も随分なめられたものだ。総務省の秋本芳徳情報流通行政局長は、放送事業会社「東北新社」に勤める首相の長男らの会食接待を受けた際、「放送業界全般の話題が出た記憶はない」と国会答弁していた。しかし、音声データが公開されると一転「今となっては発言があったのだろうと受け止めている」と認めた。最初の答弁は虚偽だったことになる。
今回は週刊文春の報道や、野党の追及により虚偽答弁だったと分かったが、なぜこのようなことが繰り返されるのか。権力中枢に長く座る首相への忖度(そんたく)か、国会を甘く見ているのか。そのいずれだとしても許されざる行為である。
国会は国権の最高機関であると同時に、唯一の立法機関だ。国民の命を守り、暮らしをより良くするためには、国会で審議を尽くして、法律をつくる必要がある。
その前提は政府側が正しい情報を示し、議員の質問に真摯(しんし)に答えることだ。政府側が間違った情報を示したり質問に正しく答えなければ、議論の方向を誤らせ、国民に多大な不利益を与えかねない。
振り返れば安倍前政権下では虚偽答弁が繰り返された。「森友学園」への国有地売却を巡り、事実と異なる政府答弁は百三十九回、「桜を見る会」前日の夕食会でも安倍晋三前首相による国会答弁のうち虚偽答弁は百十八回に上る。
秋本氏らの国会対応の背景に、近年の国会での状況から、虚偽答弁でも乗り切れるとの誤った認識があるとしたら極めて深刻だ。
東北新社の元社長らは、菅首相に計五百万円の個人献金を行っていた。首相自身と長男は別人格とはいえ、無関係とは言い難い。
総務省幹部の接待時期は、同社の子会社が手掛ける衛星放送の認定更新の直前だ。政治献金や接待が放送行政を歪(ゆが)めることは絶対になかったと言い切れるのだろうか。
武田良太総務相は秋本氏ら二人を大臣官房付に異動させた。事実上の更迭人事とされるが、これで幕引きとせず、法に基づいて厳正に対処すべきだ。
国会は真相の徹底究明に向けて国政調査権を駆使すべきだ。もはや虚偽答弁を許してはならない。長男を含め総務省幹部を、虚偽の答弁をすれば偽証罪に問われる証人として喚問すべきである。