戦争棄民、苦悩伝える肖像 東京・三鷹で写真展 (2021年2月12日 中日新聞))

2021-02-14 11:13:26 | 桜ヶ丘9条の会

戦争棄民、苦悩伝える肖像 東京・三鷹で写真展

2021年2月12日 中日新聞
 東京都三鷹市の三鷹市公会堂で十九日から三日間、フォトジャーナリスト・山本宗補さん(67)=長野県御代田町=の写真展「戦後はまだ〜刻まれた加害と被害の記憶〜」が開かれる。企画したのは同市で活動するNPO法人「中国帰国者の会」。戦争の清算は敗戦から七十五年がたっても終わっておらず、戦後はまだ来ていない−山本さんの写真集からとった写真展のタイトルには、そんな思いが託されている。 (佐藤直子)
 展示される二十点の作品は多くが白黒だ。先の戦争で日本の加害に加担せざるを得なかった人たち、戦争の犠牲者でありながら戦後も国から顧みられることのなかった人たちの苦悩の肖像が、モノトーンの光と影の中に刻まれている。
 東南アジアや中東の紛争を取材してきた山本さんが、戦争体験者の聞き取りを始めたのは二〇〇五年の夏から。沖縄県の西表島など八重山諸島を舞台にした「戦争マラリア」の取材に取り組んだのが最初だった。それは旧日本軍が住民を見殺しにした軍事作戦のひとつだったという。
 被写体になった人たちの戦争体験は実に多様だ。
 戦時中に国策として進められた満蒙(まんもう)開拓のために中国に渡り、敗戦時に置き去りにされた「残留婦人」鈴木則子さん(故人)は中国帰国者の会の創設者だ。戦後三十三年間を中国で暮らし、一九七八年に永住帰国した。帰国者支援に無策な国に憤り、国家賠償を求める裁判を起こし、敗れた“棄民”である。
 「国に従って 国に棄(す)てられた人びとを 忘れず ふたたび 同じ道を歩まぬための 道しるべに」
 東京都調布市の延浄寺に立つ「不忘の碑」の前で撮影された鈴木さんの表情からは、口癖のように繰り返していた「もう二度と、だまされてはいけない」と諭す声が聞こえるようだ。
 中国山西省の郭喜翠さん(故人)は、旧日本軍による性暴力の被害者だ。監禁され、強姦(ごうかん)され、精神を病んだ。九〇年代に入って日本政府を相手に謝罪と賠償を求める訴訟を起こしたが、やはり敗訴した。深く刻まれた「しわ」が苦渋に満ちた人生を物語る。郭さんもまた、国家から見放された棄民の一人だった。
 このほか、沖縄戦で通信隊の見習いだった仲松庸全さん、広島の爆心地近くで被爆した兒玉(こだま)光雄さん、中国人を生体解剖した元軍医の湯浅謙さん、満州で召集されシベリアに抑留された千野誠治さんらの肖像が会場に並ぶ予定だ。
 「お国のために」と信じた人びとが戦争に駆り立てられたあの時代は、皇国教育のマインドコントロール下にあったと山本さんは感じている。「軍隊は住民を守らなかったし、国は何度でも住民を棄てる。国民が日常的に抑制しないと、政府は必ず暴走することを戦争体験者は教訓として教えているのです」
 最終日の二十一日は午後一時半から「戦争も原子力発電も国策 繰り返される棄民を考える」と題した山本さんの講演がある。福島原発の事故から間もなく十年。現代の棄民というべき原発被災者の今に引き寄せて問い掛ける。参加費無料。問い合わせは「中国帰国者の会」=電070(5588)7827=へ。