ワクチン、情報公開必要では? 河野担当相ら、輸送の報道自粛求める
2021年2月12日 中日新聞
新型コロナウイルスワクチンの国内への輸送に関する取材、報道の自粛を政府が求めている。「テロなどが起きないため」といった理由を挙げるものの、ワクチンの輸送でそうした事態が発生するとは考えにくい。コロナ収束の兆しが見えない中で、ワクチン接種は国民の最大の関心事。積極的な情報公開こそ必要では−。 (木原育子)
「取材、報道は控えていただけるとありがたい。テロや妨害行為といった不測の事態を起こしたくない」。河野太郎行政改革担当相は二日、記者団にこう語った。加藤勝信官房長官も三日の会見で「輸送に関わる企業側からもいろんな意向が示されており、取材、報道は控えていただきたい」と続いた。
閣僚二人が相次いで述べたとはいえ、政府内部で十分に議論した話ではなかったよう。河野氏の発言の場に同席していた内閣府政策評価広報課の猪口皓平氏は「会見での言葉以外、真意は分かりかねる。詳しい話の中身は知るところではない」と語るにとどまった。
物資の輸送に関して政府が詳細な情報の公開を控えた例はある。東京五輪・パラリンピックを控え感染症の検査体制を強化しようと二〇一九年、エボラ出血熱などの感染症の原因ウイルスを輸入した際、具体的時期や相手国は伏せた。
一九九二年には、プルトニウム輸送船「あかつき丸」がフランスから戻って来る際に強奪を防ぐためといった理由で船名などを公表しなかった。一方でフランスは輸送容器やコンテナの数、内部の構造まで詳しく明らかにし、日本の情報公開の在り方が問われた。
ウイルスや核物質なら「テロの対象になる」という理屈は分からなくもないが、ワクチンに関してはそうした危険は少ないとみられる。
日本大の河本志朗教授(危機管理学)は「輸送を妨害される可能性はある」としつつも、「報道自粛を求めるやり方がいいかは別問題」と首をかしげる。専修大の武田徹教授(メディア論)も「政府は、ワクチン購入の交渉経過などの詳細を明らかにしておらず、不信感を抱いている人も少なくないはず。そんな状況で報道の自粛だけ求めるのはおかしい」と批判する。
マスコミが報道を控えるのは、誘拐事件などで人命が危険にさらされている恐れがある場合。捜査当局と報道協定を結び、一定期間、取材・報道はしない。
元北海道新聞記者の高田昌幸・東京都市大教授(ジャーナリズム論)は「報道協定は当局と綿密に事前協議し、必ず情報を出すのが条件。今回はテロの情報が具体的に寄せられているわけでもないのに、民主主義の根幹となる自由な報道を軽々しく規制すべきではない」と指摘する。
さらに高田氏は「一回認めれば、『テロの危険』を理由に何にでも自粛を求めるようになる。いつの時代も権力者は報道統制をしたがるとしても、最近は恥ずかしげもなく大っぴらに言うようになった」と警戒する。
空港関係者への取材で、米ファイザー社の日本向けコロナワクチン第一号が今月十四日にも、ベルギーのブリュッセルから全日空便で成田空港に到着することが明らかになっている。それを受けて医療従事者への接種が始まり、四月から高齢者への接種が行われる見通し。武田氏は「皆が知りたがっていることなので、輸送についてもできる限り国民の知る権利に応えていくべきだ」と訴えた。