朝日新聞
リニア中央新幹線をPRしようと、JR東海は22日、山梨県内に建設したリニア実験線で、過去最大規模となる報道各社向けの試乗会を開いた。時速500キロ超のスピードと乗り心地を、記者が体感した。
実験線は、山梨県上野原市から笛吹市間の42・8キロメートル。そのまま、中央新幹線の実際の運行区間の一部となる予定だ。試乗の「駅」は、その区間内に位置する山梨実験センター(都留市)内にある。飛行機の搭乗口のようなゲートを抜け、7両編成の実験用車両「L0(ゼロ)系」へ向かう。
この日3回あった試乗機会の1回目に参加した。時速500キロって、どんな感じなのか。少し緊張する記者を乗せ、午前10時40分、実験用車両は発車した。十数分後、笛吹市内の実験線の西端まで進み、いったん停車。ここからストップウオッチを使ってみた。
始動後26秒で時速100キロに。50秒で、タイヤ走行によって加速していた車体が浮いた。スムーズで揺れは少ない。座席は左右に2列ずつ。シートベルトはない。天井付近のモニターが速度や車外の様子を映す。
1分半が過ぎ、時速350キロにさしかかったあたりで、両耳が少しツンとした。実験線の区間の標高は最高地点が約700メートルで、最低は300メートル。JR東海によると、この標高差も一因ではないかという。
全体の約82%にあたる35・1キロがトンネル内。小さめの窓の外に時折、緑の山や稲穂が揺れる金色の田園風景が広がる。しかしまたすぐにトンネルへ。暗い中を走り続けているからか、圧迫感がある。実際の中央新幹線の品川―名古屋間も約86%がトンネルだ。
時速400キロを超えると、「ゴゴゴ」と飛行機のような音がする。持ち込んだコップに7割ほど入れた水は、こぼれるほどではないが、波を立て始めた。2分50秒で、時速500キロを記録。音もいくぶん大きくなり、コップの水はチャプチャプ揺れる。「少し振動はあるが、意外にあっさり到達するな」。窓の外を、トンネル内のライトが飛ぶように流れ去った。
その後減速が始まると、身体が軽くシートから押し出される感じに。走行は全体で25分間。停止前、浮上していたタイヤが着地し、ズンと軽い衝撃を感じた。うたた寝していれば、目が覚めただろう。
報道陣向け試乗会は過去2回あったが、今回は最多の計約200人が参加した。JR東海は11月と12月に計8日間、一般向けの有料試乗会を開く。料金は2座席で4320円。詳しくは同社ウェブサイト(http://linear.jr-central.co.jp/)で。(中野寛)
■最高速度時の音量、飛行機内と同レベル
この日2回目の試乗に参加した別の記者は、音量の測定器を3両目に持ち込んだ。リオン社製の「NL―05」。時速500キロに達した時の客室内は、飛行中の航空機内と同レベルだった。
出発前は、ざわめきなどもあって音量は53デシベル。「全国環境研協議会」作成の「騒音の目安」によると、書店内の音量レベルだ。出発後は時速約175キロで車体が浮き、ガタンと揺れた。数値は68デシベル。300キロで73デシベルを超え、セミの鳴き声と同レベルになった。約3分後に500キロに達した時は81デシベル。飛行機内と同レベルだった。
一方、山梨県立リニア見学センター(都留市)の近くで、目の前を最高速度で通過する際の音量も測定した。鉄道のレールに相当する「ガイドウェイ」から約10メートル離れた地点。リニアが近づくと「ドドドドッ」という地鳴りのような低音が迫り、空気を切り裂く「キーン」という高音が混じると、一瞬でリニアは横切った。空気が揺れているのが分かる。測定値は85デシベルで、車内よりはやや高め。パチンコ店内の騒音よりやや低い程度だった。
JR東海は地上部分をかまぼこ形の防音フードで覆うなどし、「今後、車内、車外とも騒音をもっと減らす」としている。(斎藤健一郎、斉藤太郎)
リニア、2分で500キロ 報道陣向け試乗会
2014/9/23 中日新聞 朝刊
時速500キロを超えて走行していることを示す新型車両「L0系」のモニター=22日、山梨県内で(浅井慶撮影)
二〇二七年に東京-名古屋間でリニア中央新幹線の開業を目指すJR東海(名古屋市)は二十二日、山梨県都留市の山梨リニア実験線で、報道陣向けの試乗会を行った。また改札や乗車方法などを初めて公開した。
営業車両の原型となる「L0(エルゼロ)系」の試乗会では、発進後、時速百七十キロほどになると、タイヤから超電導磁石による浮上走行に切り替わった。時速二百五十キロ前後では横揺れを感じたが、高速になるほど安定。わずか約二分で時速五百キロに到達した。新幹線と比べると車外の風を切る音が気になるが、飛行機と比べると音は大きくはなかった。
また実験線の改札では、タッチパネル式の発券機を公開。予約番号を押すと、乗客の名前と座席番号を記したチケットが発券された。空港の搭乗手続きのように時計などを外して金属探知機をくぐり、危険物がないことを確認。チケットのQRコードを改札機に近づけて通過する仕組みだ。
◆磁界の力で車両に送電
JR東海は、リニア中央新幹線で新しい電力の供給方式を導入する。線路に当たる部分から、車体に触れることなく、電気を車両に送る仕組み。浮上して走行するリニアモーターカーならではの悩みを解消した。
通常の電車は、モーターや照明に使う電力をパンタグラフから車体に取り込む。だが、リニアは強力な電磁石で浮いて走るため、外部から電力供給を受けられない。リニアの試験車両は、灯油を燃やしてガスタービンで発電していたが、安全性や排ガスの面で不安があった。
そこで、携帯電話に電源コードをつなげなくても、充電用パッドに置くだけで充電できるのと同じ仕組みを採用。金属を巻き付けたコイルに電気を流すと、磁界が発生し、近くにある別のコイルにも電流が発生する原理を取り入れた。
リニアでは、線路に当たるガイドウエーに地上コイルを設置して電流を流し、車体側に取り付けたコイルにも電気を発生させる。電気は超電導磁石をマイナス二六九度に冷却したり、車内の照明や冷房に使う。
磁界の発生は人体への影響が懸念されるが、JR東海が測定したデータによると、車内や駅、沿線の磁界の数値は、健康に害がないとされる国際的なガイドラインの1%未満で、広報担当者は「健康への影響はない」と説明している。
JR東海は三年前、このシステムを実用化し、リニアに搭載すると発表。八月に認可申請した工事実施計画で、システムの導入費用として二千億円を追加計上した。柘植康英社長は「地下を通る中央新幹線では安全性や環境性のあらゆる面で、新システムの方が利点が大きい。エネルギー効率も高まるため採用することを決めた」と話している。
(経済部・石井宏樹)