リニアのアセスはやり直しが避けられない

2014-03-25 23:23:27 | 桜ヶ丘9条の会
ブログ「リニア中央新幹線 南アルプスに穴を開けちゃっていいのかい?」2014年3月23日によると、山梨県と長野県の知事が、リニアに関する意見書を出したが、両県とも要するにリニアアセスのやり直しを求めている。沿線各県知事から、神奈川、岐阜、静岡、愛知などの各知事から、アセスの不十分さを指摘されている状況で、国が工事許可などは到底出せない。
JRは、リニアアセスのやり直し考えるべきである。


22日に、山梨県と長野県の知事意見がJR東海に提出されました。

どうせたいしたことは書かれないだろう…と思っておりましたが、目を通して驚きました。

新聞報道では「厳しい意見」「追加調査を要求」というように、わりと冷静な表現となっていますが、受け取る側としてはおそらく冷静さを保ってられる意見書ではありません。事実上、「アセス やり直しを要求」になっており、はっきり言って、環境影響評価としては失格の烙印を押されたのに等しいといえます。

わたくし、アセス(環境影響評価)などドシロウトですので、リニア中央新幹線の環境影響評価手続を考えるために、予習として法対象アセスとなった道路建設事業の環境影響評価数事例と、閣議アセスにおける100件ぐらい(1995~1996年)の知事意見概要にざっと目を通してみました。閣議アセスというのは法律に基づかない古い手法で、環境保全も不十分な時代であり、現在と比較するのはどうかとも思いますが、さすがにここまで言われているのは見当たりませんでした(事業者=知事という事例も多かったためでもありますが)。

また、知事意見&評価書を受けて出される環境大臣意見(後述)についても、1997年度の数十件の事例(法に基づくアセス対象事業)に目を通しましたが、やはりここまで厳しい扱いを受けたであろうものは見当たりませんでした。

というわけで、1997年の環境影響評価法施行以降では、例外的なケースじゃないかと思われます。

もっとも、厳しい意見が出るのは当然と言えば当然なんですが…

というのも、前回述べたように、リニア中央新幹線建設事業は、地上の鉄道設備よりも、トンネル工事にともなう水環境への影響と、5000万立方メートル以上に及ぶ残土の処分地造成に伴う環境への影響とが主要な争点になります。影響を受ける規模も範囲も、こっちのほうが広範囲・深刻・予測困難だからです。


ところがJR東海が今までに環境影響評価で取り扱ってきたのは地上設備に関する部分ばかり。何度も指摘してきたとおり、水環境については調査地点が乏しく、残土処分については「9割リサイクルを目指す」と、実現性に乏しく具体性のない目標を掲げただけにとどまっています。

すなわち、必要なアセスの半分も行っていないのです。

しかも地上設備のアセスについても、主観的な評価・根拠のない評価が相次いでいます。

例えば…生活道路となっている1本道を1日1700台の大型車両が通行しても「問題がない」というのは(長野県大鹿村)どう考えても無茶だし、工事終了後の完成予想図も出さずに「景観への影響はない」なんていうのは(静岡県)、論理的におかしい。長野県では事業者自らが「調査範囲」と定めた範囲での調査を行っていなかったことも判明しました。

こういう論理的におかしな内容がズラリと並べられているのです。

これだけひどい準備書をスルーしたとなると、自治体として後々責任問題に波及しかねません。そういう意味でも厳しい意見を出さざるを得なかったのでないでしょうか。

※どれだけひどいかというと、静岡市在住の方でしたら、静岡県立中央図書館にリニアのアセス図書および最近の道路建設のアセス図書が並べられていますので、見比べてくださいませ。

このあと今月25日までに残る都県からも意見書が出されますが、知事意見案や審議会の答申書をみたところでは、概ね同様に厳しい内容になりそうです。


この後JR東海は、各都県の知事意見をもとに準備書を修正して評価書を作成し、知事意見を添えて環境大臣に提出することになっています。評価書の作成に期限はありません。

JR東海は今年10月にも着工したいとしていますが、そのスケジュールだと、4~5月には評価書を作成しなければ間に合いません。信濃毎日新聞でも「JR東海は4月にも評価書を作成する見込み」と報じられていました。

ところが知事意見では、様々な項目において現地における追加調査を求めていますし、斜坑の数や残土処理・運搬計画など、事業計画そのものの見直しを求めている項目も多岐にわたっています。

環境影響評価をやり直す必要があるとJR東海自らが認める場合は、環境影響評価法第21条の規定に基づき、再び方法書段階から行わねばなりません。生物相や河川の流量等の再調査には、調査自体に1年かかります。猛禽類調査については2年が必要です。すなわち、知事意見に真剣に対応すると、今後1年半から2年は着工できません。

4~5月に評価書を作成することは、こうした知事意見を完全に無視することになります。ほぼ無修正・追加調査なしのまま環境大臣に提出するのでしょうか?

仮にこの準備書内容のまま評価書として提出した場合、知事意見で「問題がある」とされた点が修正されていないのですから、環境省としても「問題がある」という意見を出さねばなりません。

法律の規定では、環境大臣意見をもとに再度、評価書を検討し、最終的に許認可権者である国土交通大臣に修正版評価書として提出されます、10月着工を目指すのであれば、ここでの再検討も無視しなければなりません。

その場合、知事意見・環境大臣意見ともに無視した評価書がそのまま国土交通大臣に提出されることとなります。環境大臣意見で「問題がある」とされた評価書に基づいて、許認可権者である国土交通大臣はそのまま事業認可するのでしょうか?

「問題がある」という環境大臣意見を無視して国土交通大臣が事業認可したら、仮に裁判沙汰になった場合、「許認可権者の権利濫用」として環境影響評価法上の違法性を問われる可能性があるようです(環境法関連の多数の文献で指摘されている)。

もっとも、そこまでおかしなアセスの事例はこれまでほとんどなかったようですね。アセスにおける騒音基準のあり方等から裁判に発展し、一審判決で事業認可を取り消されたという事例(圏央道あきる野IC問題など)はありますが、全面的に問題のあることが自明な評価書に基づく事業認可について、裁判の争点とした例はないようです。

つまり、問題のある準備書・評価書であった場合は、どうにかクリアできるように準備書段階・評価書段階で事業内容を修正してきたわけなんですね。それが環境影響評価というものだからです。

というわけで、いくら国交省がJR東海とベタベタくっついていたとしても、さすがにこんなリスクのあることはしないでしょう。

というわけで、仮にJR東海が強引に知事意見を無視しても、許認可の前段階で事業内容の修正を要求される可能性が高いと思われます。すなわち、アセスやり直しは避けられない…。

つまり、少なくとも今年度中に着工することは不可能といえます。


岐阜県知事は、公聴会で出された地元の意見を反映した知事意見書をJRに提出すべきである

2014-03-25 15:48:45 | 桜ヶ丘9条の会
2014年3月24日、岐阜県の審議会は、44項目に意見を付けたが、JRのリニア計画に慎重対応を求めているだけで、計画の変更を求めていないことから、地元の久々利自治連合会の田口誠一会長は、「高架橋ありきの内容だ」と憤る。(2014年3月25日中日新聞より。)
岐阜県知事は、県が行った公聴会の意見を誠実に反映した知事意見書をJRに提出しないと、県民の意向を無視したことになる。