再び原発依存 あり得ぬ(中日新聞 2014年2月26日 特報)

2014-03-05 16:36:30 | 日記
 東京都知事選などの結果を受け、政府は二十五日、原発の再稼働を進めるべく、新たなエネルギー基本計画案を示した。来月中に閣議決定される見通しだ。原発について、当初案の「ベース電源」を修正し「ベースロード電源」と位置付けたが、要は原発社会に引き戻すということ。三年前の福島の事故直後、なぜ原発と決別しなくてはならないかが広く語られた。主要な理由を再び確認したい。

◆規制は最低基準

 基本計画案では、原発を「優れた安定供給性と効率性を有し」と記した。しかし、福島原発事故の原因はまだ分かっていない。東京電力や政府は津波説をとるが、国会の事故調査委員会は「地震動による損傷がなかったとはいえない」とする報告書をまとめた。

 国会事故調のメンバーの一人で、元原子炉圧力容器設計者の田中三彦氏は「原因に加え、シビアアクシデント(過酷事故)に至った過程など分かっていないことは多い。津波以外に原因があるとなれば、さらなる対策が必要になる。だから、政府や東電は認めたくないのだろう」と話す。

 計画案は再稼働について「原子力規制委員会の専門的な判断により、世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には進める」と明記している。

 だが、市民団体「たんぽぽ舎」(東京)によると、先月二十日の国会内の集会で、原子力規制庁の担当者は「規制基準を満たした原発でも事故は起きる。この基準は最低のもので、あとは事業者の責任」と発言したという。田中氏も「そもそも規制委に審査する能力があるのかという問題もある」と疑問を呈する。

◆避難計画ずさん

 規制委は二〇一二年十月に原子力災害対策重点区域を、原発の十キロ圏から三十キロ圏へ拡大した。一三年二月には原子力災害対策指針が改定され、原発から五キロ圏は放射性物質の拡散前に避難、三十キロ圏は屋内退避、周辺で毎時五〇〇マイクロシーベルトの放射線量が測定されれば、避難するよう定めた。

 こうした方針に沿って、関係自治体では地域防災計画や広域避難計画づくりを進めている。だが、広域避難計画の有効性自体を疑問視する声がある。

 立石雅昭・新潟大名誉教授(地質学)は「五キロ、三十キロと範囲を決めたが、福島原発事故での被害は三十キロにとどまらなかった。風向きや強さによっては、さらに被害が広がっていた。範囲は原発の出力や地形によっても異なってくる」と、三年前の経験が生かされていないと指摘する。

 先月の中央防災会議では、高齢者ら災害弱者の名簿づくりを市区町村に義務付けることが決められた。立石氏は、先の大雪で関東甲信や東北地方で交通がまひしたことを念頭に「気候によっては、災害弱者の避難はさらに困難になるだろう」と推測。「地域住民の命を守る避難計画ができていない限り、たとえ技術的な基準をクリアしても、原発の再稼働はあり得ない」と断じた。

◆核のゴミどこへ

 原発は「トイレなきマンション」といわれる。使用済み核燃料の処分方法はいまだ見つかっておらず、再稼働させれば、状況が悪化することは必至だ。

 電気事業連合会によると、国内の原発に貯蔵されている使用済み核燃料は計一万四千三百七十トン。青森県六ケ所村の再処理工場には二千九百四十五トンある。貯蔵スペースに対する占有率が八割を超す原発は福島第一を含めて五原発に上り、再処理工場では98・1%に達している。

 国は地下深く埋める「地層処分」を前提に最終処分場の場所を探しているが難航。基本計画案には「国が前面に立って解決に取り組む」「対策を将来へ先送りせず、着実に進める」などの文言が並ぶだけで、具体策は示していない。

 北海道大の大沼進准教授(環境心理学)は「何十年も前から言われてきた課題だが、国も電力会社もずっと目を背け、ふたをしてきた。これ以上の先送りは許されない。原発への賛否にかかわらず、本気で取り組まなければいけない時期にきている」と指摘する。

◆悪夢のサイクル

 使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムとウランを取り出し、再び燃料とする流れが「核燃料サイクル」だ。回収したプルトニウムとウランで作る混合酸化物(MOX)燃料を高速増殖炉で燃やす計画が、福井県敦賀市の「もんじゅ」。MOX燃料を通常の原発の燃料とするのが「プルサーマル」発電だ。

 基本計画案は再処理とプルサーマルを「推進する」。もんじゅについても「克服しなければならない課題について十分な検討、対応」をするとして、断念してはいない。

 自民党の秋本真利衆院議員は「事実上、破綻している核燃料サイクルを継続すれば、負担は税金や電気料金として国民に跳ね返ってくる」と批判する。

 一九九七年の稼働開始を目指した六ケ所村の再処理工場は試験運転中。トラブル続きのもんじゅは実用化のめどが立たない。ちなみに、一二年度までのもんじゅの事業費は九千四百八十八億円に上る。

 再処理をやめると、六ケ所村の使用済み核燃料は青森県外に出す約束だ。核燃料サイクルを動かすための原発再稼働という本末転倒な構図が浮かぶ。

◆誰も責任取らず

 福島原発事故では、事故を起こした東電を破綻処理せず、責任をあいまいにしている。あれだけの事故で、東電も政府も誰一人、責任を取っていない。

 東電救済の枠組みは、事故後間もない一一年六月に決められた。政府は原子力損害賠償支援機構を通じて公的資金一兆円を出資。昨年十二月には、賠償や除染のための資金支援枠を五兆円から九兆円に拡大。汚染水対策にかかる費用六百九十億円も政府が肩代わりすることになった。

 そうした費用は、税金や電力料金の形で国民につけ回しされる。東電には生き残りのために、被害者への賠償額を圧縮しようという姿勢も見え隠れする。

 慶応大の金子勝教授(財政学)は「被害者を犠牲にし、加害者の東電を救う現在の政策はモラルハザード(倫理観の欠如)そのもの」と話す。事故を起こしても責任を取らずに済む前例ができれば、「再び原発事故を誘発する原因にもなりかねない」。

 東電だけでなく、株主や融資している金融機関を含め、責任をきちんと問うことは不可欠だ。金子教授は「ずるずるとした東電延命で、逆に将来的な展望が見えず、優秀な社員がやめている。事故収束作業にも影響し、被害回復の遅れにつながっている」と警鐘を鳴らす。

 (上田千秋、篠ケ瀬祐司)