中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

安衛法改正の影響⑪

2019年07月25日 | 情報

次に、「法令順守と安全配慮義務の履行」です。

健康経営を目指すのであれば、安衛法を遵守しなければならないことはもとより、
いくつかの課題をクリアしなければならないのです。
その安衛法には、法令違反すると罰則があるのですが、安全面は人命に関わる事故につながりますので、
罰則も重くなっています。
しかし、衛生面は、せいぜい罰金50万円程度ですから、企業側はとても安易に考えがちです。

ところが、安衛法、その他関連する法律に違反が認められると、
労契法第5条の「安全配慮義務」違反を問われることになるのです。
「安全配慮義務」違反が認められと、億単位での民事上の損害賠償責任を問われることもあります。
こうなると、企業の存亡の危機に見舞われる恐れもあります。

しかも、「安全配慮義務」違反は、企業側にとって最近とみにそのハードルが高くなってきた傾向があるのです。
以下に主な判例を列挙しますので、参考にしてください。

○陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最三小1975.2.25判)

○川義事件(最三小1984.4.10判)

○高血圧症の基礎疾病を有していた労働者が脳出血により死亡した事案。
労働時間の管理については労働者自らの裁量に委ねられていたにもかかわらず
企業側が業務軽減等適切な措置を講じなかったことをもって安全配慮義務違反を認めた例
(システムコンサルタント事件・東1999.7.28判)

○課長職に昇進した後、診断書を提出して休業しようとしたものの、上司からのアドバイスを受け、
そのまま休業せずに業務に従事し、最終的に自殺するに至った事案。
たとえ自らの意思で上司のアドバイスを聞き入れてそのまま業務に従事し続けたということであったとしても、
いったん労働者が医師の診断書を提出して休養を申し出ている以上
企業側としては、労働者の心身の状況について医学的見地に立った正確な知識や情報を収集し、
労働者の休養の要否について慎重な対応をする必要があったとして、
安全配慮義務違反を認めた例(三洋電機サービス事件・東高2002.7.23判)

○労働契約法第5条(2007年12月5日公布、法律第百二十八号)

○陳旧性(健康診断受診時にはまったく無症状)心筋梗塞等の基礎疾病により就業制限されていた労働者が
宿泊を伴う研修に参加したことによって急性心筋虚血を発症して死亡した事案。毎月の保健師による職場巡回の際、
当該労働者から体調不良等の訴えが一切なかった場合であっても、
当該労働者を研修に参加させるかどうかを決定するのには、
企業側において、当該労働者が受診している医療機関からカルテを取り寄せるとか、
主治医よりカルテ等に基づいた具体的な診療、病状の経過及び意見を聴取する必要があったとして、
これを怠ったのは安全配慮義務違反に該当するとされた例(NTT東日本事件・最2008.3.27判)

○うつ病にり患した労働者が、休職期間満了後に解雇された事案。解雇が無効とされるとともに、
企業は必ずしも労働者からの申告がなくてもその健康にかかわる労働環境等に十分な注意を払うべき義務を負っており、
それにもかかわらず、これを怠ったとして企業側に安全配慮義務違反を認めた例
(東芝(うつ病・解雇)事件・最2014.3.24判)

○うつ病にり患して通院加療中の派遣労働者が自殺した事案。
派遣元及び派遣先いずれにおいてもうつ病り患の事実までも認識し得ず、
かつまた、業務の過重性も認められない状況であったにもかかわらず、
当該派遣労働者の体調か十分でないことを認識した以上は、単に調子はどうかなどと抽象的に問うだけでは足りず、
不調の具体的な内容や程度等をより詳細に把握し、
必要があれば産業医等の診察を受けさせるなどの措置を講じるべきであったとして、
派遣元及び派遣先両者の安全配慮義務違反を認めた例(ティー・エム・イーほか事件・東高2015.2.26)

 

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