中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

職場のうつ、人ごとじゃない

2012年07月04日 | 情報
毎日新聞 6月26日(火)より、転載しました。

<リアル30’s>変えてみる?(7) 頑張れない時もある--職場のうつ、人ごとじゃない

「お前すごいな、大したもんだよ」--友人宅の新築祝いでアラタさん(31)は素直に祝福の言葉をかけることができた。
庭を駆け回る子どもの姿がまぶしい。うつで苦しんだ半年前ならとてもこんな気持ちにはなれなかった。
 高校を出て東京都内の英語専門学校に入り、22歳で米ニューヨーク州の大学に入学した。
環境学を学び、卒業後は日本の外資系メーカーに就職した。世界中に支社と工場があり、従業員は10万人超。
国内大手メーカー7社を相手に営業をした。真面目な性格から、休日も仕事のことが頭から離れなかった。
 取引相手の中に、品質基準が異様に厳しく、クレームの多さで有名な会社があった。
ネジの頭に小さな傷があるだけで納品を断られる。上司に相談したが、米国の本社は「機能に問題なし」と取り合ってくれない。板挟みでひたすら謝るしかなかった。「自分の努力では何もできない。先の見えないトンネルを走り続けているようだった」
 追い打ちをかけるようにリーマン・ショック。全社で2万人のリストラが発表され、工場の人員削減で納期を守れなくなった。さらに謝り続けた。ストレスで休職する同僚もいた。その間も株主配当は続いた。
「社員より株主が大事なの?」。会社を信じられなくなっていった。
 異常はまず体に表れた。小さな物音で動悸(どうき)がし、夜眠れず、朝は布団から出られなくなった。
うつ病と診断され、休職した。「人並みの仕事も、人並みの家庭も持てないかも」。
自分を責めながら部屋でぼーっと過ごした。1年後に復職したが症状がぶり返し、結局退職した。
 仕事の責任を果たそうとがんばり過ぎ、成長しなきゃと焦り過ぎ、プレッシャーをうまく逃がせなかった。
当時、社内の誰かに相談すれば良かったのに「キャリアを築くために弱みは見せられない」と思い込んでいた。
しばらく療養した実家で、親が「焦らなくていいよ」と言ってくれて、救われた。
医師の許可が出て就職活動を始め、この春なんとか再就職できた。
 今、30代はひたすら忙しく、責任も重い。一方、ずっと派遣でやってきた友人は正社員になれず苦しんでいる。
自分は運が良かっただけだと思う。
「新卒採用に乗り損ねたり、引きこもったり、派遣で働いたり、病気で休んだり、ちょっとしたことで人生が変わる時代。
もう定型はないから、僕も誰かと自分を比べて悩むのはやめた」

 コミュニケーション講師の紀々(きき)さん(36)は昨年夏から、
那覇市で30代を対象にした「ゆんたく」(おしゃべり)の会を始めた。
初対面の10人が丸く並べた椅子に座り、温かいお茶を前に気持ちを吐き出す。安心してしゃべって安心して帰ってもらう。
 「周りにうつの人、いますか?」と尋ねると、ほぼ全員が手を上げる。
「同僚がうつで休職中。その分私は全然休めず、きつい。
その同僚が『気分転換で旅行中です』なんてメールをよこすと、いっそ私もうつになれたら楽かなと思う」
--一人がそう打ち明けると、別の一人が「分かるー、その気持ち」と応じた。
 職場では絶対に言えないことを、誰かに聞いてもらえるとほっとするものだ。
「うつになるとしんどい。でも『私もうつになるかも』『うつになれる人がうらやましい』と思うのもつらい。
だからここで本音を出し切ってもらう。私にうつは治せないけど、うつになるのを防げたらいいなと思っている」
 10年前から企業や文化サロンでコミュニケーション講座を担当してきた。
ここ数年、上司の世代から「今の30代は弱い」と相談されるようになった。
確かにメンタル面の不調で休職する30代は多い。
「元気がない」「打たれ弱い」「甘えている」とも言われる。同世代としては心配だ。「30代ってそんなに単純?」
 大学4年の時に山一証券が廃業し、就職氷河期を目の当たりにした。
プロのオルガン奏者になったものの仕事が減り、体調も崩して講師に転職した。30代が生きる時代と気持ちに共感できる。
 30代の悩みは仕事や人間関係ばかりではない。
「残業代より時間が欲しい」と非正規社員の同僚をうらやむ正社員女性、正社員の厚遇にあこがれる非正規の男性--。
立場の違いで30代同士も分断され、一人でもがいている。
 上司が「飲みニケーション」に誘うのは時に逆効果。彼らの本音は「飲んで好きなことを言えるのは上司だけ」。
居酒屋ではなく、勤務時間中の「スタバ会」を望んでいる。
お酌不要で料金は各自が先払い、意見交換にはそれで十分だ。でも上司はそのことを知らないし、気づかない。
 「どうせ大した意見を持ってないくせに」「どうせ俺らの意見なんか聞かないくせに」と、
お互いに思い込んでいるようにも見える。最近は20代からこんな声を聞く。
「今の30代を見てて、ああなりたくないと思っちゃう」
 30代に元気がないと、社会は元気にならないと思っている。【山寺香、鈴木敦子】=つづく

◇「心の病増加」企業の44.6%
日本生産性本部が2010年、上場企業2243社を対象に実施した調査(有効回答数251)によると、
最近3年間に心の病が「増加傾向」と答えた企業は44.6%に上った。
「心の病が最も多い世代」は、「30代」が最多の58.2%に。
企業内で30代にさまざまな負担やしわ寄せが及んでいる実態が浮かび上がる。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の11年度の調査では、
従業員10人以上の民間事業所(有効回答数5250)で、
過去1年にメンタルヘルスで1カ月以上休職するか、または退職した人がいた事業所の約3分の1が、
対策に取り組んでいなかった。特に中小企業の取り組み促進が課題となっている。

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