熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂・・・観世信光月間の舞台

2016年12月28日 | 能・狂言
   12月の国立能楽堂の主催公演は、「観世信光~没後5百年~」であった。
   定例公演など4回で、信光の作「遊行柳」「胡蝶」「船弁慶」「張良」「紅葉狩」が演じられた。
   「遊行柳」のシテを、友枝昭世、「張良」のシテを、野村四郎の両人間国宝が舞うと言う貴重な公演であった。
   会場のロビーには、信光についての系図や舞台写真、作り物の模型などが、ディスプレィされていた。
   
   
   

   能の鑑賞の時には、解説書などを読んではいるのだが、世阿弥作くらいしか意識がなく、信光については、殆ど知らなかったので、今回、良い勉強になった。
   梅原猛の「信光と世阿弥以後」における「信光ーーワキ・大鼓・能作、才能の人」と言う論考を読んでいると、音阿弥の第七子で、15歳の時に昇殿して、後花園院が、その大鼓の才を愛でて、褒美の扇を、将軍義正を通じて手渡したと言う。
   間違いなく、信光は、観阿弥・世阿弥・元雅・禅竹と並ぶ、見事な能を作った天才で、信光なくして現在のごとき「音阿弥系の観世」の繁栄はなく、また、能が歌舞伎に通じるような華麗な立ち回りを含む芸術とはならなかったと、結論付けている。

   また、信光は、和漢の書物をよく読み、故事に通じ、その和漢の故事を題材として様々な優れた曲を作り、その詞章に見事な音曲を付し、右に出るものはなく、観阿弥・世阿弥に匹敵する立派な能作者であった。
   もし、信光の能がなかったら、能は幽玄で深いものであったとしても、あまりに暗いものであり、後世に伝えられる能の華やかさは存在しなかったであろうし、歌舞伎を思わせる華やかなショーとはなり得なかった。
   能に活劇的なスペクタクルな要素を持ち込んだのは、信光である。という。
   
   梅原先生は、船弁慶同様に、「安宅」も「道成寺」も信光の作であろうと説く。
   「安宅」が「勧進帳」になり、「道成寺」が、「娘道成寺」の多くのバリエーションを生み出すなど、歌舞伎化されたて、日本の古典芸能の演劇性を涵養して発展させてきたのも、信光あっての展開と言うことであろう。

   「遊行柳」は、朽木の柳の精の「草木国土悉皆成仏」思想を現した「西行桜」を意識した夢幻能だと言うのだが、精神において、世阿弥のような悲劇的な怨霊の美学や、禅竹のような性を根本とする壮大な宇宙の哲学はないが、信光の精神ははなはだ健全だと言う。
   
   義経に関係する曲は、「義経記」によっている。
   難を逃れて、西国へ下ろうと、大物浦へ向かい船出するのだが、これが、「船弁慶」の舞台である。
   この渡海は失敗して、吉野に逃れ、畿内を放浪した後、奥州への逃避行に向かい、途中、「安宅の関」で窮地に立ち、これが、「安宅」の舞台となり、それぞれ、非常にドラマチックな展開で、日本の古典芸能の劇的豊かさを涵養するなど大きな役割を果たしたと言うことであろうか。

   また、信光は、唐代の詩の選集「三体詩」や漢唐興廃の故事にも造詣が深く、今回の「張良」や、「高祖」「皇帝」などの能を生み出している。
   信光は、法号が太雅と言うことで僧籍にもあって、和漢の経典や書物をよく読んでおり、相当、学識豊かな知識人であったと言うことで、世代の差も反映して、世阿弥とは違った新しい能作者であったのであろう。

   今回の舞台については、初心者の私には、感想録等無理なのでやめるが、かなり、詞章の表現など分かり易く、ストーリ展開が明瞭な感じがしたので、それなりに、楽しむことができた。
   とにかく、歌舞伎や文楽と違って、切り詰められシンプリファイされた能楽師の舞や謡い、そして、地謡や囃子の醸し出す舞台を観ながら、想像豊かに物語を展開して鑑賞しなければならないので、やはり、年期も経験も豊かな方が良い。
   それに、実経験であろうと代理経験であろうと、見たり聞いたり感じたりしたことでなければ、想像などできないし、やはり、知識や経験が大切だと言うことが痛いほど良く分かる。
   その意味では、能の舞台が、今回の大物浦もそうだが、京都や奈良や神戸や大阪などが、比較的多くて、私自身が生活し見聞きした世界なので、助かっていることもある。

   今年も、都合、50回くらい、この国立能楽堂に通った勘定だが、とにかく、分かっても分からなくても、嫌にならずに通い続けていると言うことが良いのかも知れないと思っている。

   今月の公演で、同時に演じられた狂言は、「簑被」「縄綯」「胸突」「業平餅」。
   
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