熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立能楽堂:観世銕之丞の能「浮舟」

2022年10月22日 | 能・狂言
   昨日の国立能楽堂の定例公演で上演の能「浮舟 彩色」について、シテの観世銕之丞師が次のようにコメントした。と言う。
   「浮舟」は演ずる側にとって難しい能の一つで、風情を醸し出すのが大変です。
 『源氏物語』を基にした曲の中でも繊細なニュアンスを持ち、小品ながら音楽的にすごくお洒落に作られています。
 そういう不思議な魅力を持った本曲を、お楽しみいただけるとありがたいです。

   良く分からないが、源氏物語でも、非常に人気の高い宇治十帖の「浮舟」だが、能の舞台で上演されることは非常に少ないという。
   銕之丞師の著書も父君の著書も読んでいるし、剛直な感じの能が好きで、確か、「安宅」と「道成寺」だったと思うが、コロナでチケットをフイにしてしまっていたので、久しぶりの舞台であって、私にとっては一寸イメージの違う優雅で心理的な能(?)であったので、非常に楽しみであった。
   私には、一寸ふっくらとした可愛い感じの浮舟で、朗々として心にずっしりと響く素晴しい謡が最後まで魅了して感動的であった。

   「浮舟」の観劇記については、2019年05月11日に「国立能楽堂・・・能「浮舟」」に書いているので、それ以上は蛇足なので、今回の舞台を観て感じたことだけを記す。

   この舞台で、最も源氏物語らしくて、絵になるのは、匂宮が浮舟を連れ去り小舟で宇治川を渡って対岸の隠れ家で愛を交わすシーン、
   ・・・其夜にさても山住の めづらかなりし 有様の心にしみて有明の 月澄み昇る程なるに
   シテ「水の面もくもりなく
   地「舟さしとめし行方とて 汀の氷踏み分けて 道は迷はずとありしも浅からぬ 御契なり  

   尤も、宇治川は、平等院の前方の水の流れを見れば分かるように、まさに、平家物語の「宇治川の先陣争い」のように激しい急流で、小舟が優雅に流れる風情など及びも付かないが、そこは「浮舟」の舞台、
   私には、王朝絵巻のような美しい舞台が彷彿とする。
   薫中将は、光源氏の子であるが、実は正妻女三宮と柏木(頭中将の子)との密通による子であり、非常に淡泊で、浮舟を囲うが面倒見が悪い、
   一方、匂宮は、冷泉院の皇子であるから光源氏の孫であり、源氏の血を受けているだけに、色好みで、芸も細かく、浮舟も、しだいに、匂宮に靡く気配。
   二人の貴公子の板挟みになって苦悶して宇治川に入水した浮舟であるから、格好の夢幻能の題材になったのだが、折角の王朝絵巻が暗くなる。

   ところで、京都から宇治だが、私は宇治分校に通っていたときに、宇治で下宿していたので、東一条の京大へ自転車で何度か往復していて、歩くと大変だが、そう遠くはないので、二人の貴公子も、足繁く通ったのであろう。京から山間を抜けると一気に明るい宇治にでる。

   平家物語と違って、源氏物語の位置づけだが、藤原俊成が「源氏見ざる歌詠みは遺恨のことなり」と評して以来、歌人必須の古典となったとのことだが、本居宣長が源氏物語を研究して、「源氏物語玉の小櫛 」を書くなど、江戸時代に置いても、知識人たちの教養書として定着していたという。

   さて、この能「浮舟」が、もののあわれを色濃く体現しているのかどうかは分からないが、この能の舞台では、後場で、後シテが、思い乱れるさまを見せるカケリに、少し動きがあるくらいで、殆ど、シテには舞いらしい舞いはなく、常座や正中など定位置での謡いの連続で終始している。
   いつもの通り、空想をめぐらせて鑑賞しなければならなかったのだが、元々、知識も鑑賞眼もないので、100回以上も能楽堂に通っていても、今回、小書「彩色」で、「カケリ」が、心うつろな「イロエ」に替えられて、全体に静謐な趣を増します、と言われても何のことか分からない。
   能鑑賞者には、今でも、和装を装った婦人客が多いのだが、やはり、能狂言は、奥深くて敷居が高い。コロナ騒ぎで、3年ぶりの国立能楽堂であった。

   中庭には、いつものように、萩とススキが秋の風情を醸し出していた。
   資料室での企画展示は「秋の風 能楽と日本美術」で、萩、菊、ススキ、モミジなど秋の花鳥風月をデザインした能舞台関連の美術品が展示されていた。
   
   
   


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