熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立演芸場・・・歌丸の「井戸の茶碗」

2016年12月25日 | 落語・講談等演芸
   今年最後の国立演芸場の「第403回 国立名人会」のプログラムは、次の通り。
   落語「時そば」   桂 文治
   落語「不動坊」   桂 小文治
   落語「肝つぶし」  三遊亭 好楽
   ―仲入り―
   落語「味噌蔵」   三笑亭 夢太朗
   曲芸         ボンボンブラザース    
   落語「井戸の茶碗」 桂 歌丸

   勿論、歌丸のしっとりとした語り口の人情噺「井戸の茶碗」を聴きたくて出かけた。

   「井戸の茶碗」は、これまでに金原亭伯楽の落語で聴いており、また、講談の人間国宝一龍斎 貞水の講談バージョンである「細川の茶碗屋敷」でも聴いているので、馴染みの話で、善人ばかりが登場する実に爽やかな噺なので、聴いていて楽しい。
   それを、圓朝噺で、実に話術巧みに感動的に語っている歌丸であるから、どんなに素晴らしい噺が聴けるか、非常に楽しみであった。

   歌丸のまくらは、今年も残り少なくなりましたが、お詫びしなければならないと言って、当然、今年はろくな年ではなかったと、腸閉塞の闘病話から語り始めた。
   今月の初め、北海道に行った時に、飛行機が水平飛行に入った途端、息苦しくなって呼吸困難となったが、携帯酸素もなく、困って、沢山あるのだから酸素吸入器を一つ貸してくれとスチュワーデスに言ったのだがダメだと言われた。
   行き返り飛行機の中では大変だったが、下へ降りると何でもなくなったが、14日病院に行く予定だったので、行ったら即入院。
   毎日、点滴3本、しかし、21日、国立の舞台があるので、医者と喧嘩して無理に退院してきた。
   この話は内密にと言って、お聴き苦しいかも知れないが、ご勘弁くださいと語り始めた。
   いつも、そうだが、血色も変わらないし、大病している歌丸師匠と言う感じは全くなく、凛とした歯切れのよい名調子の語り口で、感動的な人情噺を、45分語り続けた。
   凄いパワーである。

   病院に居ると、良くなると、これ程、退屈なことはなく、テレビのことや明日の日本経済を考えたり・・・自分の経済の方が大切だと分かった。
   昔のことを思い出すと、現在見られない様な商売があり、くず屋もその一つで、手拭いで頬被りして竹で編んだ籠を背負い掴みばさみを持って「くずイー」
   くず屋を呼ぶ声によって、客がどのようなものを出すか見分けがつく、世間体を憚って声を殺して小さな声で呼ぶのは、・・・
   「どこですか」「ここだここだ」「どこですか」「便所だ! 紙一枚・・・」と話しながら、「井戸の茶碗」を語り始めた。

   この「井戸の茶碗」は、次のような噺。
   麻布茗荷谷に住むくず屋の正直清兵衛が、裏長屋に住む貧乏浪人の千代田卜斎から仏像を買って、白金の細川家の家来・高木佐久左衛門に売る。高木が仏像を洗っていると、台座の紙がはがれ、中から五十両の金が出てくる。高木は「仏像は買ったが五十両は買った覚えはない。売り主に返してやれ」と言って、清兵衛に渡すが、卜斎は「売った仏像から何が出ようとも自分の物ではない」と受け取らない。中に入った家主の仲裁で、「千代田様へ20両、高木様へ20両、苦労した清兵衛へ10両」と言う提案に、千代田はこれを断って受け取らないのだが、「20両の形に」という提案を受け入れて、毎日使っていた汚い茶碗を形として、20両を受け取る。この話が細川家にも伝わって、茶碗を殿に披露していると、丁度居合わせた目利きが、「青井戸の茶碗」という逸品だと鑑定する。細川家が、買いあげて、300両を下げ渡す。その内、150両を高木が受け取り、卜斎は、残りの150両をまたもや拒絶するのだが、何を思ったのか、今度は、受け取る代わりに、娘を嫁に貰ってくれるなら支度金として受け取ると言う。嫁取りの必要を感じていた高木は、卜斎の娘ならと結婚が決まる。清兵衛が、「今は裏長屋で粗末ななりをしているが、こちらへ連れてきて一生懸命磨けば、見違えるようにおなりですよ」言うと、高木が、「いや、磨くのはよそう、また小判が出るといけない」。
   講談の方は、細川家が、この井戸の茶碗を将軍綱吉に献上し、その礼に屋敷を賜ったため、その屋敷を巷では「茶碗屋敷」と呼んだと言うことである。
   また、茶碗の一件がきっかけで細川家が仲介して、卜斎の旧来通りの仕官が叶うと言うことになる。

   清廉潔白で片意地な二人の武士の間に立って、右往左往する人の好いくず屋の表情を、歌丸は、実に滋味深く愛しみを込めて演じ続けて、ほろっとさせる。
   くず屋を呼んで仲立ちするだけの登場だが、卜斎の娘が、素晴らしい乙女であることを彷彿とさせて、話の結末が素晴らしい。

   歌丸は、50両を返すために、清兵衛を探すべくくず屋を探索中に、人相の良くないくず屋に「小遊三の先祖か」と聞いたり、高木が母上から早く嫁を貰え結婚しない男は一人前ではないと言われたと言って、「昇太は半人前だ」と言ったりして、観客を喜ばせていた。
   
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