熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

(26)ストラトフォード・アポン・エイボンでシェイクスピア戯曲を その1

2021年06月21日 | 欧米クラシック漫歩
   ロンドンでのシェイクスピア観劇について書いてきたが、今回は、シェイクスピアの生誕地であり、RSCの本拠地であるストラトフォード・アポン・エイボンでの思い出について綴ってみたい。この記事は、ロンドンから帰国した1993年秋の備忘録からの書き起こしなので、随分前の話になるが、私自身のシェイクスピアの故郷での貴重な経験なので、非常に懐かしい。

   まず、RSCの劇場であるが、この街には、ロイヤル・シェイクスピア劇場とスワン劇場とジ・アザープレイスの3館がある。ロイヤルは、大劇場でシェイクスピア劇専用に近いが、他の小劇場の2館は、シェイクスピア以外の古典劇も上演している。

   メインのシェイクスピア劇場は、広々とした開放的な公園に面し、木漏れ日が美しいエイボン川のほとりの堂々たる大劇場で、クラシックな雰囲気のストラトフォードの町並には一寸違和感を感じさせるが、本拠地であると言う存在感であろうか、堂々とした佇まいが興味深い。
   この劇場はシェイクスピアの聖地でのメイン劇場であるからフォーマルな感じがするのだが、少し観光ずれしている嫌いがあって、通い詰めていたロンドンのバービカン劇場のRSCの劇場の方が、本当にシェイクスピアを楽しみたいファンが来ているような雰囲があったような気がしている。
   公園に面した玄関を入ると、横長のフォイヤーが伸びていて、ほんの10数メートル歩くと扉があって、平土間の客席に入る。劇場は、何処にでもある現代的な大劇場である。フォイヤーの右端にギフトショップがあって、反対の左側の階段を上ると、二階にボックスツリー・レストランがある。入り口を入ったところは、普通のレストランだが、エイボン川に面したテラス席は、開放的で外の景色が美しくて非常にシックなレストランである。特に、夏の晴れた日には、開演前、雰囲気をエンジョイしながら、ゆっくりとディナーを楽しんで、そのまま、階下に下りれば、シェイクスピア劇を満喫できるのであるから、非常に便利である。勿論、それ程高級なレストランではないが、5000円程度で、前菜から、メイン、デザート、コーヒーまで楽しめるのであるから、私などよく利用した。
   

   私が好きな劇場は、ロイヤル・シェイクスピア劇場の裏側に接して正面は町の方に向いているスワン劇場である。古風な概観で、壁面のファサードには、彫刻が施されているなど凝っていて、茶色の煉瓦造りの風格のある建物である。外観は、舞台部分は方形で、客席部分は半円形になっている。ファイヤーはこじんまりとしたクラシックな感じで、劇場に入ると、木組みが鮮やかで、舞台も客席も全く木製のシンプルな佇まいで、シックなムードが素晴らしい。
   舞台前方が、平土間の殆ど中央近くまで飛出していて、床の高さも客の目の高さよりも少し低いくらいで、その一階部分を二層の角張った馬蹄形の客席が囲んでいる。屋根がなければ昔サザックにあったグローブ座に近いと思われ、バービカンにあるもう一つのシンプルなシェイクスピア劇場ピットも、この劇場のように、日本の田舎の小屋がけのような簡素な雰囲気が残っていて中々良い。この劇場で観た古典劇カントリー・ワイフが印象に残っている。

   もう一つの劇場ジ・アザープレイスは、入ったことがないので分からない。
   

   ストラトフォード・アポン・エイボンの中心街は、これらの劇場から少し離れているので、開演前や幕間には、前の公園で時を過ごすのが良い。グリーンの芝生に、色とりどりの花々が英国式花壇に映えて美しく、川面に浮かぶ白鳥の白、それに、一斉に芽吹く落葉樹の若芽が目に染みる頃など、散策するのが楽しい。
   ストラトフォードの街全体がシェイクスピアを中心とした観光地だが、劇場から離れて街並みに入ると、古いイギリスの面影が随所に残っていて、タイムスリップした感覚に襲われる。大通りに沿っても、路地裏に迷い込んでも、沢山の工夫を凝らした洒落た店が並んでいて、シェイクスピアと全く関係なく、そんな街の雰囲気やショッピングを楽しむためにやってくる観光客も多い。
   ほんの五分も歩けば街外れに出てしまう、そんな小さな街だが、この町には、イギリスがぎっしりと詰まっている。
   シェイクスピアは、この故郷の町とその近郊、そして、ロンドン以外は行ったことがないと言う。シェイクスピアは、色々な異国や色々な時代を舞台にして36の戯曲をかいているのだが、結局は、このシェイクスピア・カントリーを軸として、素晴らしい多くの作品を作ったと言うことであろうか。
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