熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

(22)オペラ座の怪人を観る その2

2021年06月04日 | 欧米クラシック漫歩
   さて、この「オペラ座の怪人」だが、叶わぬ恋をした怪人は、慈しみ育てたオペラ座のプリマドンナ・クリスティーヌの熱い接吻に、初めて人の愛を感じて、運命の悲哀をそのままに静かに舞台から消えてゆく。
   このアンドルー・ロイド・ウェーバー版とは違った別の演出の「オペラ座の怪人」が、ロンドンの他の劇場にかかっているのだが、これは、全く話題にさえなっていない。
   とにかく、このロイド・ウェーバー版は、当初から大変な人気で、前述したようにチケットの取得が困難で、ずっとソールドアウトなのに、朝から劇場の横に列が出来ている。
   1992年当時、一番良い席で25ポンド(6000円ほど)であったから、1年前から売り切れでも仕方がないのかも知れないが、この値段は、ロンドン交響楽団やフィルハーモニアなどロンドンのトップ・オーケストラと同じで、ロイヤルオペラの3分の1で、3時間美しい音楽と華麗な舞台を満喫できるのであるから安いのだが、観客の大半は、観光客だという。

   この舞台には、いくつか叙情的で美しい場面がある。怪人が、クリスティーヌを舟で地下室へ導くシーン(口絵写真)は、丁度、オッヘンバッハのオペラ「ホフマン物語」の”ヴェニスの場”のホフマンの舟歌のセットを思い出させる。霞にかすむ燭台の光が美しい薄明かりの中を怪人の漕ぐ船が進む。いい気持ちになって見ていると、この霞が煙で、舞台正面手前のオーケストラ・ピットの端で、強力に回収すべく吸い込んではいるのだが、それでも、相当部分が指揮者の頭を通り越して客席まで流れ込んできて、これが、また臭気を帯びていて艶消しである。
   これとは違って、満天星の輝くパリの夜、オペラ座の屋上でのクリスティーヌとラウルの愛の二重唱のシーンは、デュエットも舞台セットも美しい。当時のパリは、公害でそんなに美しいはずがなかったと思うが、何となくセットの夜の雰囲気がパリだと思わせるところが不思議で、ロンドの夜景は、やはり、メリーポピンズであろう。

   ところで、このハー・マジェスティーズ・シアターは、ロンドンの劇場の中でも由緒正しい劇場で、元は、ロンドの最初のオペラ・ハウスであったという。(ウィキペディアから写真を借用)
   
   1705年にクィーンズ劇場としてオープンし、ヘンデルのオペラやオラトリオが公演されたが、1789年の火災で倒壊した。1789年に再建されたときには、正式にオペラ・ハウスの名称を得て、今のロイヤル・オペラ・ハウスのように大規模で、平土間の上に五層の客席があって、更に、立ち見の天井桟敷があって、オペラやバレエが演じられていたと言う。現在の建物は、1890年に再建されたもので、昔日の面影はなく、ロンドンのミュージカル劇場としては平均的ではないかと思うのだが、「ウエストサイド・ストーリー」や「屋根裏のヴァイオリン弾き」や「アマデウス」が上演されており、この「オペラ座の怪人」は、1986年9月27日以来上演されている。
   因みに、ニューヨークのブロードウェイで上演され始めたのは、オープニングにセーラ妃が出席したのをBBC TVで観たので、それよりずっと後であった。レックス・ハリソンの「マイフェア・レィディ」やユル・ブリンナーの「王様と私」の舞台をブロードウェイで観たが、ロイド・ウェーバーのミュージカルが脚光を浴び始めてからは、ミュージカルの比重は、一気にロンドンへ移った感じであった。

   先日、WOWOWで、「オペラ座の怪人 25周年記念公演 in ロンドン」が放映されたので、久しぶりに華麗な舞台を観て、感激を新たにした。
   この記念バージョンは、あのBBCプロムスの会場である巨大なロイヤル・アルバート・ホールでの最新のオーディオ・ビジュアルを駆使した最新版の記念公演の映画で、実際に、あの巨大なサーカス劇場のような多目的ホールで観て聴くとどうのような印象になるのか、興味深いところである。
   私など、プロムスなどで、かなり、このホールには通ってはいたが、オーケストラやコンサート形式のオペラであったので、このように、巨大な会場を舞台にして、縦横無尽に、パフォーマンス・アーツの極と粋を表現するとどうなるのか、この映像を見るだけでも、興奮を覚える。

   とにかく、高度なミュージカルは、オペラとは違った素晴らしい芸術鑑賞の醍醐味を味わわせてくれる。この「オペラ座の怪人」は、その最右翼であろうと思う。
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