はんどろやノート

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謎のミケランジェロ作品

2008年11月15日 | はなし
                       アレレ? 「は」の字が、「な」になっているぞ。↑

 カポーティ『ティファニーで朝食を』を3分の2読んだところ。これは1940年代初めのニューヨークを舞台にした話だが、このときアメリカはドイツと戦争中だった。たぶん、日本と開戦する前だ。 この物語はホリー・ゴライトリーという20歳の女性を描いたものだが(映画ではオードーリー・ヘップバーンが演じた)、そのホリーが、兵隊になって出征した愛する兄(ピーナツバターが大好きだった)の死の知らせの後、元気ではあったが、ちょっと行動が妙だったという描写があって、そこに、「メトロポリタン美術館」が出てきた。猫も。

 〔モダン・ライブラリを全巻揃え、クラシック音楽のレコードをどっさり棚に並べ、メトロポリタン美術館の複製美術を数え切れないくらい買い込んだ。その中には中国の猫の置物もあったが、本物の猫はそれを嫌って、見るたびにふうっとうなり声をあげ、最後にはとうとう壊してしまった。〕


 メトロポリタン美術館は1870年に開館。 ということはラフカディオ・ハーンがニューヨークにいたとき(1889年)、すでにあったということだ。
 現在ここにはゴッホの『糸杉』の絵もあるらしい。 ゴッホがこの絵を描いたのも偶然に1889年だ。それより前、ゴッホは南仏のアルルにいたのだが(有名な『ひまわり』はここで描いた)、彼は、日本の北斎や広重の絵を見て憧れて、「アルルの景色は日本に似ている」という思い込みからアルルに移ったのだった。1890年にゴッホは死ぬのだが、その年にハーンは太平洋を渡って日本へ行ったのである。 ゴッホとハーン…日本に憧れたということ、それ以外に、とくに関連はないのだが。



 〔「わかった。わかった。じゃ、はじめからいうけど、あたしたちニューヨークのメトロポリタン美術館にかくれしのぶのよ。」
 「メトロポリタン美術館だって! ぼろくさいの。 なんてばかげた考えだろ。」〕

 さて、こちらはカニグスバーグ著『クローディアの秘密』から。
 女の子(クローディア、11歳)が弟(ジェイミー、9歳)を誘って二人で家出するんだけど、その家出の場所として彼女が選んだのが、ニューヨーク・マンハッタンの「メトロポリタン美術館」。 ものすごく巨大な美術館(博物館)のようです。僕は行ったことないので、感覚的にはその大きさを、つかめませんが。


 クローディアは、家出を決行することにした。計画も綿密に練った。「メトロポリタン美術館」にこっそり住み込んでしまうという面白いことを考えた。でも、一人ではつまらないから、誰かを誘おう。この家出はただの遊びではない。自分の一生にとって重要な家出なのだ。(理由はないが、彼女はそう確信していた。)
 4人いる弟のうち、9歳のジェイミーを彼女は選んだ。ジェイミーを選んだ理由は、いくつかある。ジェイミーはお金を貯めている。トランジスタラジオをもっている。それから、彼が自分の弱点を補ってくれると思ったからだ。 クローディアは頭がいいし、慎重だ。自分の愚かな弱点をシッカリわかっている。彼女は、自分がお金の管理がまるでできないと知っている。欲しいものがあったら、すぐにお金を使ってしまって、あとで後悔する…そんな自分をよく知っている。 この家出は、そんなことで、うっかり終了させては意味がないのだ。弟のジェイミーは、お金に関してはとことんしっかり者(つまり、けちんぼ)なのである。だから、いい。

 クローディアはジェイミーに家出計画を打ち明ける。そのときのセリフはこうだ。
 「ジェイミー、あたしの一生の冒険にはね、あんたが必要なの。」
 これは、まさに、「殺し文句」である。 本気でこんなことを言われれば、たいていの人は、心動かされるだろう。 こども同士であっても。ふざけたことばかり考えている男の子であっても。

 家出を決行して、「メトロポリタン美術館」を住みかとした二人。初めはただ、隠れているだけだったが、そのうちに、クローディアとジェイミーには目的ができる。
 『ミケランジェロの天使像』の謎を探るというのが、それ。
 この美術館で今話題になっているこの『天使像』、これがミケランジェロの作品なのかもしれない、と騒がれている。だが、証拠は、ない。クローディアはどうしてもその謎を知りたくなる。なぜかはわからない。だけど、それが、自分の一生にとって、とてもたいせつなことのように思えてきたのだった。
 二人は、ミケランジェロについて勉強をはじめる…。

 ミケランジェロとは…説明するまでもないが、1500年頃にイタリア・フィレンツェで活躍した美術の巨星である。『ダビデ像』が有名だ。(ダビデは、『旧約聖書』に記されている3千年前のユダヤの王)

 
 〔ジェイミーは首をまわしてクローディアを見ました。見なければよかったのです。クローディアは、じぶんが立っているそばのエジプトネコの青銅の像のように満足そうな顔をしていました。ネコとクローディアの間にもしちがいがあるとしたら、ネコのほうは小さな金の耳輪をしていて、クローディアほどすましていないというだけでした。〕

 「エジプトネコの青銅の像のように満足そうな顔」という表現がおもしろいね。
 カニグスバーグは1930年にニューヨークで生まれています。この人は大学では化学を専攻していて、それから、この本の挿絵も自分で描いています。(女性です。)

  

 カニグスバーグは、子どもにとって(つまり人間にとって)、『秘密』をこころの内側にもって、それを育てることが大事だ、という。 それは、「人の内側で力をもつ」と。
 だけど、それが、くだらない秘密では無意味だ。一生の間ずっとこころをときめかせてくれるような『すてきな秘密』でないと。
 クローディアは、それに出会ったのだ。 それを、感じたのだ!

 さて、私たちはどうだろう? そんなものに、出会っただろうか。
 きっと出会っただろう。チャンスは時々やってくるものだ。だれにでも。
 だが、クローディアのように、それをチャンスと感じて、全力で追っただろうか? ぼんやりと、見逃してきたのではないか。


 ミケランジェロの木彫りの『磔刑のキリスト像』というものがあります。 これは20世紀になって新たに見つかったミケランジェロの作品ということです。 (たしかにオチンチンが『ダビデ像』と似ているぞ。)
 この木彫りの『キリスト像』、4年前に日本にやってきました。東京美術館『フィレンツェ芸術都市の誕生展』の目玉でした。僕はそれに関する記事を読んだとき、「これは観とかなきゃ」と思ったんです。それで、観に行きました。東京美術館は上野にあるのですが、僕は上野の美術館はなるべくなら行かないことにしている(平日でも人が多すぎて疲れてしまう)のですが、この時は、「これ一点だけを観て帰ってこよう」と決めて、行きました。その割には(その像の姿を)あまり記憶していないのですが…。
 僕はこの時、『クローディアの秘密』を連想していたのです。この物語の「ミケランジェロの天使像」は、作者カニグスバーグが、この『磔刑のキリスト像』からヒントを得て書いたのではないか。そんな気がしたのでした。「それなら、観とかにゃ後悔する。」とそう思い、それで行ったのでした。
 でもよく考えたら、たぶん、違いますね。 小説『クローディアの秘密』は1967年の発表。 この『磔刑のキリスト像』の発見は(資料がないのではっきりしませんが、たぶん)それよりも後のことだと思います。 このミケランジェロの彫った木彫り像、いま、どこの国にあるのでしょう?


 〔「お願い」とホリーは刑事たちに押されるように階段を運ばれながら、なんとか僕に向かって言った、「猫に御飯をあげてね」〕
    (『ティファニーで朝食を』)

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