≪最終一番勝負 第63譜 指始図≫ 7七同歩成まで
指し手 ▲7八歩
[女王さまになりたいのよ]
「どうだかがやかしき勝利だったろう」白の騎士がはあはあいいながら近づいてきた。
「さあどうだか」アリスは首をかしげながら、「あたし、だれのとりこにもなりたくないもの。女王さまになりたいのよ」
「次の小川をこせば、そうなれるさ」と白の騎士、「森のはずれまでわたしがぶじに送りとどけてあげる――こっちはそこから引返さなきゃならないがね。わたしの詰めはそこまでだ」
「どうもありがとう」とアリス。「兜をぬぐの、お手伝いしましょうか?」といったのは、騎士ひとりではどう見ても手におえそうになかったからだ。アリスが手伝ってゆすってやって、やっとこさ兜はぬげた。
(『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
「白のポーン(歩兵)」であるアリスは、「女王(クイーン)」になりたい。
いま、「7マス目」にいるアリスは、小川を超えて、「8マス目」にゆけば、念願の「女王さま」になれるのである!
<第63譜 千日手軌道 二周目>
≪指始図≫
△7七歩成(図)に、実戦で我々(終盤探検隊)は、▲7八歩 と指した。
≪最終一番勝負 第63譜 指了図≫ 7八歩まで
千日手周回軌道 (ループ)の “二周目” に入った。
千日手にはしたくない。
だが、どこで、何の手を指して打開できるのか、我々はまだわかっていなかった。
三周してしまうと、千日手が成立してしまうが―――まだ大丈夫だ。
第64譜につづく
[吉祥B図の調査]
この ≪指了図≫ を一手進めて後手7六歩を加えると(または指始図から2手戻すと)、次の図になる。
吉祥B図
これが、「吉祥B図」である。
ずっと「吉祥A図」からの千日手打開手段を考えてきたが、今度はこの「吉祥B図」からの手を考えていく。
「吉祥A図」との違いは、「先手7八歩」と「後手7六歩」の2つの「歩」が盤上に置いてあることだ。この “違い” が影響する場合と、しない場合とがある。
それを厳密に調査して行きたい。
【1】3三歩成
【2】3三香
【3】8九香
【5】5四歩
今回は、この4つの手について。
[調査研究 【1】3三歩成]
3三歩成図
「先手7八歩、後手7六歩」の手交換が入った図での、【1】3三歩成 (図)
以下3三同銀に―――この後、どうするか。
[イ]8九香、[ロ]5二角成、[ハ]3八香と3つの手がある。
まず[イ]8九香は、7五桂と打たれて―――(次の図)
研究3三歩成図01
この図の研究は、前回(第62譜)の最後の研究テーマになっており、そこの[追記]によって、「後手良し」の結論が出ている。先手の狙いの8五歩には(同金なら5二角成以下先手良しなのだが)、4二金という応手があって「後手良し」になるのだ。
研究3三歩成図02
次に、[ハ]3八香(図)を片付けよう。
この手は、後手4二金で、先手が勝てない。4二金、6三角成、6二銀右、7二馬、6六銀、5四歩(次の図)
研究3三歩成図03
5四歩で先手もやれそうな気もするが、7八と、5三歩成、7七歩成と進んでみると―――(次の図)
研究3三歩成図04
後手の攻めが一歩早い。7七歩成が先手玉への“詰めろ”になっており、受けも難しい。
後手勝ち。
研究3三歩成図05
【1】3三歩成、同銀に、[ロ]5二角成(図)が最有力の手。
5二同歩に、7九金(次の図)
研究3三歩成図06
後手の角打ちをあらかじめ防ぐ7九金(図)で勝負だ。
以下7五桂、8九香、3四銀(次の図)
研究3三歩成図07
後手は3四銀(図)で脱出口を開く。
「7八歩、7六歩」が入っていない形だと、次の後手7六角が決め手になり、この3四銀で後手勝勢となっていた。
ところがこの形だと、その「7六角」の手がないので、事情がまったく変わってくるのである。
ここで4一竜として、以下5七角、6八歩、3三玉、2一竜、4四玉、3二竜、9五歩(次の図)
研究3三歩成図08
ソフト評価値的にもほとんど互角。
ここで3一飛と打って、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、5四玉、3四飛成、4四歩、7一竜(次の図)
研究3三歩成図09
こう進み、どうやら先手が良くなった。以下3三歩、同竜と進む。
そこで 6二銀右 だと、7二竜で、次に8四馬、同歩、7四竜の狙いが残り先手優勢。
7四金 が粘り強い手だが、8五桂、6二銀左、7二竜で、先手が少し良い(これが後手最善の道と思われる)
6二銀左 以下を紹介しておこう。この手に対し7二竜は6六角成で後手ペースになる。また4一竜は5三歩で形勢不明。
しかし、6二銀左 に、5六歩の好手があって、先手優勢になる(次の図)
研究3三歩成図10
7一銀は、5五歩、同玉、4七桂以下、後手玉 “寄り”
5六同桂は、7三竜左、同銀に、6五銀、同玉、6三竜以下“詰み”
5六同銀は、4一竜、5三銀、5二竜、6二銀右、6三銀以下、“寄り”
ということで、【1】3三歩成 は、同銀に5二角成以下 先手良し と結論する。
[調査研究 【2】3三香]
3三香図
【2】3三香(図)には、後手は3一銀と引いて、次に4二金で陣形を強化してから7八と~7七歩成がねらいになる。
先手は8一飛くらいだが、4二金、6三角成、6二銀右、4五馬と進む。
以下、6六銀、6三歩(次の図)
研究3三香図01
後手玉は詰めろをかけるまでに2手の余裕がある。この瞬間に後手は攻める。
7四桂が早い攻めになる。
以下6二歩成に、7五銀として。9八玉、8六銀と進み―――(次の図)
研究3三香図02
先手玉に詰めろが掛かり、受けが困難である。
後手勝ち。
【2】3三香 は 後手良し。
[調査研究 【3】8九香]
8九香図
【3】8九香(図)はどうだろうか。
ここでの有力手は、〔a〕7五桂である。しかしここで7五桂と打ったその図は、第52譜 ですでに研究済みの図に合流しており、「先手勝ち」の結論が出ている。
まず先手のその勝ち筋をおさらいしておこう。
研究8九香図01
〔a〕7五桂(図)に、8五歩と突く。以下、同金に、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、7五馬、同金、3一飛というのがその「勝ち筋」である。
以下4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)
研究8九香図02
この図が「先手勝ち」の図である。
4五金と打つところで3五金だと7九角(王手金取り)で後手勝ちになってしまうところ。
そしてもし「7八歩、7六歩」の手交換がなかったとしたら、4五金には、8六角、9八玉、5四角と対応する手段があって、4五に打った金を消されてしまうために、後手良しになるのである。この場合は後手に「7六歩」と打たせてあるために、この図が先手勝ちとなるのだ。
8九香図(再掲)
この図で、7五桂以外の手―――たとえば〔b〕6六銀 だと、先手の攻めが有効となり、先手良しとなる。あらかじめ8九香と受けてある効果で、5二角成で角を後手に渡しても先手玉が詰まないので、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが有効となる。その攻め筋をさらに効果的にするために5四歩と打ってから「3三歩成、同銀、5二角成」を決行するともっと勝ちやすい。
7五桂と打てば、後手が角をもてば7九角から先手玉が詰んでしまうので、今の先手の攻めが無効となる。なので〔a〕7五桂 が最有力手とみられるところだったが、それを打ち破る手段が、8五歩からの一連の冴えた組み立てであった。
この図では、〔c〕7八と を調べておかねばならないところだ(次の図)
研究8九香図03
〔c〕7八と(図)で先手が負けてしまうなら、この「7八歩、7六歩、8九香」という手順は大失敗ということになる。
先手の攻めは「3三歩成、同銀、5二角成」だ。5二同歩なら、3一飛と打って先手が勝てる(7九角には9八玉)
よって後手は4二銀左するが、先手は5一竜(後手4二銀右なら4一飛が決め手になる)
研究8九香図04
5一同銀なら、5三馬が詰めろで先手が勝ち。
よって後手は8九と。
先手は4二竜と決めにいく。同銀に、同馬(次の図)
研究8九香図05
飛車を渡しても先手玉に詰みはなく、したがって、先手勝ちになっている。
研究8九香図06
もう一つ、〔d〕3一銀(図)という手がある。これは、先手の狙い筋の「3三歩成~5二角成」に対応しながら、次に4二金右などで陣形を固めようとする意味。それでも5二角成と攻めていくのは、同歩、4一飛に、4二銀引で後手良しだ。
3一銀には、8五歩と突き、7四金に、3三歩成、同歩、8一飛とする(次の図)
研究8九香図07
次に5二角成があるので、後手は4二銀引と受けるが、そこで5三歩と打って、先手優勢である。
8五歩と突いておいた効果は二つあり、7九角打ちに8六玉と逃げるスペースがあること、そして9三の馬が活用できるようになっていること。
5三歩以下、6二金、5一飛成、同銀、同竜(次に4二竜から詰みがある)
そして1四歩には、5七馬(次の図)
研究8九香図08
先手勝ち。
研究8九香図09
〔e〕1四歩(図)も、先手の「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めに対応している。それを決行すると先手が悪い(1四歩の効果で後手玉に詰めろがかかりにくい)
ではどうするか。
1四歩には、1五歩と攻めて行く手が有効な攻めになる。
それで先手良しだが、ここでも、8九香と打ってある手を生かして、8五歩と突く手を見ていこう(次の図)
研究8九香図10
7四金なら、1五歩と攻めて、同歩に、1三歩、同香、7七歩、同歩成、1二歩(次の図)
研究8九香図11
1二歩(図)として、同玉は3二角成だし、3一銀としても1一歩成、同玉、3三歩成、同桂、5二角成で、先手勝勢となる。
「8五歩、7四金」の効果で、9三の馬を5七に引いて使う手もあって、1筋の攻めがより強力になっている。
研究8九香図12
しかし、戻って8五歩には、後手6六銀(図)の変化がある(7四金で勝てない後手はこういう手で抵抗してくるだろう)
以下8四歩に、同銀、同香、7五銀と勝負するのが後手の意図で、次に後手8五桂の狙い。
それを防いで、先手は9四馬。
以下8四歩に、3五飛(次の図)
研究8九香図13
3五飛(図)で、この変化も先手勝勢になった。
3五飛は、3二角成、同玉、3三銀以下後手玉への“詰めろ”。 よって後手8五桂は同馬と取られて無効。
といって受けに回るのでは、7五飛と要の銀を取られてしまう。
以上見てきたように、【3】8九香 に打ち勝つ後手の手は見つからない。
よって、【3】8九香 は 先手良し。
[調査研究 【5】5四歩]
5四歩図
【5】5四歩(図)は、「7八歩、7六歩」が入っていない形では、「先手良し」が結論だった。この手交換が入ったこの図では何がどう変わるだろうか。
まず、ここでの後手の有力手〈あ〉7五桂から見ていこう。
〈あ〉7五桂に、9八金(次の図)
研究5四歩図01
「7八歩、7六歩」の入っていない形では、ここで7六桂という手があって、その型の攻略が先手の問題だった(7六桂、8九香以下、変化が多いが、先手良しになるという研究結果が 第37譜
で出ている)
この場合は、その後手7六桂の手がないので、より先手が指しやすくなっている。以下そのことの証明をしておこう。
ここで後手7八とは5三歩成で先手が勝つ。
したがって後手はここで先手の5四歩に対処することになるが、5四同銀、4四銀上、6二銀左 のいずれも、5二角成を軸とした攻めで先手良しになる。
その中で、より接戦となる 4四銀上 以下の変化の一例を示しておく。4四銀上に、5二角成、同歩、4一飛と進む。
そこで3一角という受けがあるが、その手には7一飛成とし、7八とに、4一金で先手優勢。
3一角と受けるのではなく、7九角と角を攻めに使ってどうか。
7九角、8八香、1四歩、8九金(次の図)
研究5四歩図02
8八と、同金寄、3五角成(4六角成なら4二飛成。次に3三銀、同桂、同歩成、同銀、3一竜左、1三玉、2五桂以下詰めろ)
以下2一飛成、1三玉、3二竜、9五歩、8四馬、同銀、2二金
研究5四歩図03
先手勝ちになった。
5四歩図(再掲)
さて、「5四歩図」に戻って、〈あ〉7五桂以外の手を考えよう。
〈い〉5四銀、〈う〉4四銀上、〈え〉6二銀左 の3つの手がある。
しかしこれはすでに「7八歩、7六歩」の手交換が入っていない形で研究調査したものがあり、それがそのまま有効手順となって、先手良しになる。すなわち―――
〈い〉5四銀 → 7七歩、同歩成としてから、3七飛と打つ
〈う〉4四銀上 → 8九香(以下7五桂には7一飛)
〈え〉6二銀左 → 2五香
(その研究内容は 第53譜 と 第55譜 で)
こういう手順で、いずれの手も、先手良しになる。
【5】5四歩 は 先手良し。
「吉祥B図」についての調査結果の、ここまでのまとめは次の通り。
吉祥B図(再掲)
【00】7七歩 → 同歩成で「吉祥A図」に → 千日手ループ
【1】3三歩成 (後手良し) → 先手良し
【2】3三香 (後手良し) → 後手良し
【3】8九香 (先手良し) → 先手良し
【4】2五香 (形勢不明)
【5】5四歩 (先手良し) → 先手良し
【6】2六香 (先手良し)
【7】2六飛 (先手良し)
【8】2五飛 (先手良し)
【9】3七桂 (先手良し)
【10】3八香 (後手良し)
【11】8一飛 (形勢不明)
【12】1五歩 (後手良し)
【13】9八金 (後手良し)
【14】6五歩 (後手良し)
【15】3七飛 (先手良し) ※ (灰色字) は「吉祥A図」の調査結果
「吉祥A図」→「吉祥B図」となることで、【1】3三歩成 が「後手良し → 先手良し」と変わっている。
指し手 ▲7八歩
[女王さまになりたいのよ]
「どうだかがやかしき勝利だったろう」白の騎士がはあはあいいながら近づいてきた。
「さあどうだか」アリスは首をかしげながら、「あたし、だれのとりこにもなりたくないもの。女王さまになりたいのよ」
「次の小川をこせば、そうなれるさ」と白の騎士、「森のはずれまでわたしがぶじに送りとどけてあげる――こっちはそこから引返さなきゃならないがね。わたしの詰めはそこまでだ」
「どうもありがとう」とアリス。「兜をぬぐの、お手伝いしましょうか?」といったのは、騎士ひとりではどう見ても手におえそうになかったからだ。アリスが手伝ってゆすってやって、やっとこさ兜はぬげた。
(『鏡の国のアリス』 ルイス・キャロル著 矢川澄子訳 新潮文庫 より)
「白のポーン(歩兵)」であるアリスは、「女王(クイーン)」になりたい。
いま、「7マス目」にいるアリスは、小川を超えて、「8マス目」にゆけば、念願の「女王さま」になれるのである!
<第63譜 千日手軌道 二周目>
≪指始図≫
△7七歩成(図)に、実戦で我々(終盤探検隊)は、▲7八歩 と指した。
≪最終一番勝負 第63譜 指了図≫ 7八歩まで
千日手周回軌道 (ループ)の “二周目” に入った。
千日手にはしたくない。
だが、どこで、何の手を指して打開できるのか、我々はまだわかっていなかった。
三周してしまうと、千日手が成立してしまうが―――まだ大丈夫だ。
第64譜につづく
[吉祥B図の調査]
この ≪指了図≫ を一手進めて後手7六歩を加えると(または指始図から2手戻すと)、次の図になる。
吉祥B図
これが、「吉祥B図」である。
ずっと「吉祥A図」からの千日手打開手段を考えてきたが、今度はこの「吉祥B図」からの手を考えていく。
「吉祥A図」との違いは、「先手7八歩」と「後手7六歩」の2つの「歩」が盤上に置いてあることだ。この “違い” が影響する場合と、しない場合とがある。
それを厳密に調査して行きたい。
【1】3三歩成
【2】3三香
【3】8九香
【5】5四歩
今回は、この4つの手について。
[調査研究 【1】3三歩成]
3三歩成図
「先手7八歩、後手7六歩」の手交換が入った図での、【1】3三歩成 (図)
以下3三同銀に―――この後、どうするか。
[イ]8九香、[ロ]5二角成、[ハ]3八香と3つの手がある。
まず[イ]8九香は、7五桂と打たれて―――(次の図)
研究3三歩成図01
この図の研究は、前回(第62譜)の最後の研究テーマになっており、そこの[追記]によって、「後手良し」の結論が出ている。先手の狙いの8五歩には(同金なら5二角成以下先手良しなのだが)、4二金という応手があって「後手良し」になるのだ。
研究3三歩成図02
次に、[ハ]3八香(図)を片付けよう。
この手は、後手4二金で、先手が勝てない。4二金、6三角成、6二銀右、7二馬、6六銀、5四歩(次の図)
研究3三歩成図03
5四歩で先手もやれそうな気もするが、7八と、5三歩成、7七歩成と進んでみると―――(次の図)
研究3三歩成図04
後手の攻めが一歩早い。7七歩成が先手玉への“詰めろ”になっており、受けも難しい。
後手勝ち。
研究3三歩成図05
【1】3三歩成、同銀に、[ロ]5二角成(図)が最有力の手。
5二同歩に、7九金(次の図)
研究3三歩成図06
後手の角打ちをあらかじめ防ぐ7九金(図)で勝負だ。
以下7五桂、8九香、3四銀(次の図)
研究3三歩成図07
後手は3四銀(図)で脱出口を開く。
「7八歩、7六歩」が入っていない形だと、次の後手7六角が決め手になり、この3四銀で後手勝勢となっていた。
ところがこの形だと、その「7六角」の手がないので、事情がまったく変わってくるのである。
ここで4一竜として、以下5七角、6八歩、3三玉、2一竜、4四玉、3二竜、9五歩(次の図)
研究3三歩成図08
ソフト評価値的にもほとんど互角。
ここで3一飛と打って、9六歩、同玉、9五歩、9七玉、5四玉、3四飛成、4四歩、7一竜(次の図)
研究3三歩成図09
こう進み、どうやら先手が良くなった。以下3三歩、同竜と進む。
そこで 6二銀右 だと、7二竜で、次に8四馬、同歩、7四竜の狙いが残り先手優勢。
7四金 が粘り強い手だが、8五桂、6二銀左、7二竜で、先手が少し良い(これが後手最善の道と思われる)
6二銀左 以下を紹介しておこう。この手に対し7二竜は6六角成で後手ペースになる。また4一竜は5三歩で形勢不明。
しかし、6二銀左 に、5六歩の好手があって、先手優勢になる(次の図)
研究3三歩成図10
7一銀は、5五歩、同玉、4七桂以下、後手玉 “寄り”
5六同桂は、7三竜左、同銀に、6五銀、同玉、6三竜以下“詰み”
5六同銀は、4一竜、5三銀、5二竜、6二銀右、6三銀以下、“寄り”
ということで、【1】3三歩成 は、同銀に5二角成以下 先手良し と結論する。
[調査研究 【2】3三香]
3三香図
【2】3三香(図)には、後手は3一銀と引いて、次に4二金で陣形を強化してから7八と~7七歩成がねらいになる。
先手は8一飛くらいだが、4二金、6三角成、6二銀右、4五馬と進む。
以下、6六銀、6三歩(次の図)
研究3三香図01
後手玉は詰めろをかけるまでに2手の余裕がある。この瞬間に後手は攻める。
7四桂が早い攻めになる。
以下6二歩成に、7五銀として。9八玉、8六銀と進み―――(次の図)
研究3三香図02
先手玉に詰めろが掛かり、受けが困難である。
後手勝ち。
【2】3三香 は 後手良し。
[調査研究 【3】8九香]
8九香図
【3】8九香(図)はどうだろうか。
ここでの有力手は、〔a〕7五桂である。しかしここで7五桂と打ったその図は、第52譜 ですでに研究済みの図に合流しており、「先手勝ち」の結論が出ている。
まず先手のその勝ち筋をおさらいしておこう。
研究8九香図01
〔a〕7五桂(図)に、8五歩と突く。以下、同金に、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、7五馬、同金、3一飛というのがその「勝ち筋」である。
以下4二銀左、2一飛成、3三玉、4五金(次の図)
研究8九香図02
この図が「先手勝ち」の図である。
4五金と打つところで3五金だと7九角(王手金取り)で後手勝ちになってしまうところ。
そしてもし「7八歩、7六歩」の手交換がなかったとしたら、4五金には、8六角、9八玉、5四角と対応する手段があって、4五に打った金を消されてしまうために、後手良しになるのである。この場合は後手に「7六歩」と打たせてあるために、この図が先手勝ちとなるのだ。
8九香図(再掲)
この図で、7五桂以外の手―――たとえば〔b〕6六銀 だと、先手の攻めが有効となり、先手良しとなる。あらかじめ8九香と受けてある効果で、5二角成で角を後手に渡しても先手玉が詰まないので、「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めが有効となる。その攻め筋をさらに効果的にするために5四歩と打ってから「3三歩成、同銀、5二角成」を決行するともっと勝ちやすい。
7五桂と打てば、後手が角をもてば7九角から先手玉が詰んでしまうので、今の先手の攻めが無効となる。なので〔a〕7五桂 が最有力手とみられるところだったが、それを打ち破る手段が、8五歩からの一連の冴えた組み立てであった。
この図では、〔c〕7八と を調べておかねばならないところだ(次の図)
研究8九香図03
〔c〕7八と(図)で先手が負けてしまうなら、この「7八歩、7六歩、8九香」という手順は大失敗ということになる。
先手の攻めは「3三歩成、同銀、5二角成」だ。5二同歩なら、3一飛と打って先手が勝てる(7九角には9八玉)
よって後手は4二銀左するが、先手は5一竜(後手4二銀右なら4一飛が決め手になる)
研究8九香図04
5一同銀なら、5三馬が詰めろで先手が勝ち。
よって後手は8九と。
先手は4二竜と決めにいく。同銀に、同馬(次の図)
研究8九香図05
飛車を渡しても先手玉に詰みはなく、したがって、先手勝ちになっている。
研究8九香図06
もう一つ、〔d〕3一銀(図)という手がある。これは、先手の狙い筋の「3三歩成~5二角成」に対応しながら、次に4二金右などで陣形を固めようとする意味。それでも5二角成と攻めていくのは、同歩、4一飛に、4二銀引で後手良しだ。
3一銀には、8五歩と突き、7四金に、3三歩成、同歩、8一飛とする(次の図)
研究8九香図07
次に5二角成があるので、後手は4二銀引と受けるが、そこで5三歩と打って、先手優勢である。
8五歩と突いておいた効果は二つあり、7九角打ちに8六玉と逃げるスペースがあること、そして9三の馬が活用できるようになっていること。
5三歩以下、6二金、5一飛成、同銀、同竜(次に4二竜から詰みがある)
そして1四歩には、5七馬(次の図)
研究8九香図08
先手勝ち。
研究8九香図09
〔e〕1四歩(図)も、先手の「3三歩成、同銀、5二角成」の攻めに対応している。それを決行すると先手が悪い(1四歩の効果で後手玉に詰めろがかかりにくい)
ではどうするか。
1四歩には、1五歩と攻めて行く手が有効な攻めになる。
それで先手良しだが、ここでも、8九香と打ってある手を生かして、8五歩と突く手を見ていこう(次の図)
研究8九香図10
7四金なら、1五歩と攻めて、同歩に、1三歩、同香、7七歩、同歩成、1二歩(次の図)
研究8九香図11
1二歩(図)として、同玉は3二角成だし、3一銀としても1一歩成、同玉、3三歩成、同桂、5二角成で、先手勝勢となる。
「8五歩、7四金」の効果で、9三の馬を5七に引いて使う手もあって、1筋の攻めがより強力になっている。
研究8九香図12
しかし、戻って8五歩には、後手6六銀(図)の変化がある(7四金で勝てない後手はこういう手で抵抗してくるだろう)
以下8四歩に、同銀、同香、7五銀と勝負するのが後手の意図で、次に後手8五桂の狙い。
それを防いで、先手は9四馬。
以下8四歩に、3五飛(次の図)
研究8九香図13
3五飛(図)で、この変化も先手勝勢になった。
3五飛は、3二角成、同玉、3三銀以下後手玉への“詰めろ”。 よって後手8五桂は同馬と取られて無効。
といって受けに回るのでは、7五飛と要の銀を取られてしまう。
以上見てきたように、【3】8九香 に打ち勝つ後手の手は見つからない。
よって、【3】8九香 は 先手良し。
[調査研究 【5】5四歩]
5四歩図
【5】5四歩(図)は、「7八歩、7六歩」が入っていない形では、「先手良し」が結論だった。この手交換が入ったこの図では何がどう変わるだろうか。
まず、ここでの後手の有力手〈あ〉7五桂から見ていこう。
〈あ〉7五桂に、9八金(次の図)
研究5四歩図01
「7八歩、7六歩」の入っていない形では、ここで7六桂という手があって、その型の攻略が先手の問題だった(7六桂、8九香以下、変化が多いが、先手良しになるという研究結果が 第37譜
で出ている)
この場合は、その後手7六桂の手がないので、より先手が指しやすくなっている。以下そのことの証明をしておこう。
ここで後手7八とは5三歩成で先手が勝つ。
したがって後手はここで先手の5四歩に対処することになるが、5四同銀、4四銀上、6二銀左 のいずれも、5二角成を軸とした攻めで先手良しになる。
その中で、より接戦となる 4四銀上 以下の変化の一例を示しておく。4四銀上に、5二角成、同歩、4一飛と進む。
そこで3一角という受けがあるが、その手には7一飛成とし、7八とに、4一金で先手優勢。
3一角と受けるのではなく、7九角と角を攻めに使ってどうか。
7九角、8八香、1四歩、8九金(次の図)
研究5四歩図02
8八と、同金寄、3五角成(4六角成なら4二飛成。次に3三銀、同桂、同歩成、同銀、3一竜左、1三玉、2五桂以下詰めろ)
以下2一飛成、1三玉、3二竜、9五歩、8四馬、同銀、2二金
研究5四歩図03
先手勝ちになった。
5四歩図(再掲)
さて、「5四歩図」に戻って、〈あ〉7五桂以外の手を考えよう。
〈い〉5四銀、〈う〉4四銀上、〈え〉6二銀左 の3つの手がある。
しかしこれはすでに「7八歩、7六歩」の手交換が入っていない形で研究調査したものがあり、それがそのまま有効手順となって、先手良しになる。すなわち―――
〈い〉5四銀 → 7七歩、同歩成としてから、3七飛と打つ
〈う〉4四銀上 → 8九香(以下7五桂には7一飛)
〈え〉6二銀左 → 2五香
(その研究内容は 第53譜 と 第55譜 で)
こういう手順で、いずれの手も、先手良しになる。
【5】5四歩 は 先手良し。
「吉祥B図」についての調査結果の、ここまでのまとめは次の通り。
吉祥B図(再掲)
【00】7七歩 → 同歩成で「吉祥A図」に → 千日手ループ
【1】3三歩成 (後手良し) → 先手良し
【2】3三香 (後手良し) → 後手良し
【3】8九香 (先手良し) → 先手良し
【4】2五香 (形勢不明)
【5】5四歩 (先手良し) → 先手良し
【6】2六香 (先手良し)
【7】2六飛 (先手良し)
【8】2五飛 (先手良し)
【9】3七桂 (先手良し)
【10】3八香 (後手良し)
【11】8一飛 (形勢不明)
【12】1五歩 (後手良し)
【13】9八金 (後手良し)
【14】6五歩 (後手良し)
【15】3七飛 (先手良し) ※ (灰色字) は「吉祥A図」の調査結果
「吉祥A図」→「吉祥B図」となることで、【1】3三歩成 が「後手良し → 先手良し」と変わっている。