≪最終一番勝負 第15譜 指始図≫ 5九金まで
[ナルニア国物語]
「もっといそげ! はやくいたせ!」と魔女はいいました。
もはや霧のなごりもありません。空はいよいよ青くすみ、ときどき白い雲があわただしく走りすぎるばかりです。森の打ち開けた草地には、サクラソウが咲いていました。そよ風がおこって、ゆれる枝から雪どけのしずくをちらし、歩く三人の顔に、すがすがしいかおりを吹きつけました。
(中略)
「これは、雪どけではありません。」
小人が立ちどまってふと、いいました。「これは、春でございます。どういたしましょう。あなたさまの冬は、たしかにほろぼされましたぞ! アスランのしわざでございます。」
「きさまたちのどちらでも、その名をもういちど申してみい。そくざに殺してくれるぞ。」
と魔女はいいました。
(C.S.ルイス著 『ライオンと魔女』 瀬田貞二訳 岩波少年文庫より)
1898年にアイルランドに生まれ、オックスフォード大学で学んだ文学者のC.S.ルイスが、全7冊からなる「ナルニア国物語」のシリーズの、その最初の本を書いて発表したのは、1950年。
それが『ライオンと魔女』で、これは「ナルニア国」の王である<アスラン>という名のライオンと、その国に力づくで「冬」をもたらして支配している<白い魔女>との、戦争の物語である。
この<白い魔女>のせいで、「ナルニア国」は長い間ずっと「冬」のままであった。
「冬」は、わるいばかりのものではなく、美しい側面、楽しい側面も持っているが、しかしいつまでもずっと「冬」の中で暮らさなければいけないとしたら、「春」や「夏」や求め、それに恋焦がれるのは、住民の当然の思いだろう。
「ナルニア国」に、この長い長い「冬」をもたらしているのは<白い魔女>の力が強かったからだが、それを追い払ったのが、ライオンの姿の王<アスラン>であった。
しかしその戦いのきっかけとなったのは、「人間」の世界から、4人のこどもが「ナルニア国」にやってきたからである。そして勝利できたのは、彼らが、<アスラン>とともに戦ってくれたからである。
ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィ、の4人のことで、彼らは、この「ナルニア国」の、王と王女になって、闘いの後も過ごしたことになっている。
そう、スーザンとその妹ルーシィ―――この二人の女の子は、“王女”になったのである。
別世界に行って、闘いに参戦し、そして“王女”になる――――これは、『鏡の国のアリス』と同じではないか。
ただし、この4人きょうだいが「ナルニア国」にやってきたのは、この場合は「鏡」は一切関係がなく、彼らは古い屋敷の古い「衣装だんす」を通って、この国にやってきたのである。(別の話で明らかになるが、この「衣装だんす」はもともとナルニア産のリンゴの木からつくられたたんすだった)
この『ライオンと魔女』の原題は『The Lion, the Witch and the Wardrobe』―――つまり、「ライオンと魔女と衣装だんす」であった。
『鏡の国のアリス』と『ライオンと魔女』との“共通項”をほかにも探してみよう。
『鏡の国のアリス』の場合は、こちらの世界は「冬」で、向こう側の世界は「夏」だったが、『ライオンと魔女』は逆で、こちらが「夏」で、向こうが「冬」。 しかし、“季節が逆”というくくりで、同じといえる。
また、<アスラン>はネコ科の動物であることを考えれば、“猫が重要キャラ”という共通項もある。
<第15譜 新型香車ロケット砲2種>
5九金図
さて、この図である。 我々終盤探検隊が、「ここが勝負所」と設定していた場面が、ここだ。
「ここで何か先手が勝てる道があるのではないか」と、我々は考えていた。半分以上は、“勘”であるが。
先手は、9一竜として、「香車」を手にした。持駒はこれで「飛角角金香歩」。
特に「香」は攻めに有効な駒となり得る。ここで有効な「香車ロケット」が使えないだろうか。
そうして編み出したのが2つの新しい「香車ロケット砲作戦」である。
一つは、ここですぐ 2五香 と打っていく『2五香ロケット』。
もう一つは 4一角 の手から始まる『3六香ロケット』である。
その2つの「ロケット砲」についての、我々の“読み筋”とその“結果”について、今回はそれをレポートしていく。
<1>2五香
先手2五香(2五香ロケット)基本図
2五香(図)と打って、後手の弱点「2三」に狙いをつける。
もしここでさらに先手の手番なら、2六飛、3一桂、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2三香成、同金、2四金と、「ロケット砲」が炸裂する。
しかし現実の手番は、後手。 ここか後手がどう指してくるか。それが問題だ。
(この図の「激指14」の評価値は[-929]で推奨手は7五金。なあに、評価値など覆せばいいのだ)
まず、7五金、7七玉、8五桂(6五桂)と攻めてきたらどうなるか。
以下、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九金。
これで後手の攻めは止まったので、次は2六飛や4五角と打てば先手が勝てる。
先手にその2六飛を打たせないよう、3五銀としても―――(次の図)
先手2五香図01
4五角(図)と打てば、先手の勝ちが確定、次の、3三歩成、同銀、2三角成の攻めが受からない。2四歩と受けても、4一角、3二歩、3三歩成、同銀(桂)、2三飛、3一玉、5二角成で、“必至”
こうなったのも、後手が持駒をすべて攻めに使って、「2三」を守ることができなかったからである。
先手2五香図02
というわけで、今の後手の7六桂の手を代えて、7六金(図)とした場合。これなら一枚桂馬を持っていて受けに使えるし、仮に後手に何か――たとえば香車が入れば、7七桂成、8九玉、8八香から、先手玉を詰め上げることができる。
しかし図から、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2六飛とすれば(次の図)
先手2五香図03
これも後手受けがない。 先手勝ち。
先手2五香図04
それなら、8五桂(6五桂)を打つ前に、3五銀(図)ならどうだ。桂馬が二枚受けに使えるし、2六飛打ちも消している。
これには、2三香成、同玉、4五角とする。これが3三歩成以下の“詰めろ”なので、後手は3四の地点を受けて、2二桂とするが―――(次の図)
先手2五香図05
先手1一飛(図)。 これで先手の勝ちが決まった。
先手2五香図06 後手7四歩の変化
今のところ、順調に「2五香作戦」が、その効果を存分に示している。
この図は、後手が7五金という手をやめて、代えて7四歩としたところ。
たとえばここから先手が、4一角、3二歩、4五角、3一桂、2六飛、1一桂、2三香成、同桂左(右)、2四金のように攻めたらどうなるか。
それは、7五銀、7七玉、7六香、8八玉に、1一玉が好手で、後手勝勢になる。
なので、先手は、攻めの手順を慎重に組み立てる必要がありそうだが―――“解”はあった。
2六飛と打つのが良い。3一桂に、4六飛と銀を取っておく(次の図)
先手2五香図07
ここから8四歩(8五に逃がさないという意味=ソフトの示す最善手)、4一角、3二歩、5二角成(同歩なら3三銀から後手玉詰み)、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7七金、9八玉、7六銀で、先手玉に“詰めろ”がかかったが―――(次の図)
先手2五香図08
2三香成(図)から、後手玉は詰んでいる。
2三同玉は、2四銀、同玉、1五角以下。
なので図からは、2三同桂だが、そこで、3三銀と打ちこんで、以下、同歩、同歩成、同玉(同桂なら3二金、同玉、4三飛成、同銀、4一角以下)、3四歩、2二玉、3三角(次の図)
先手2五香図09
3三同桂、同歩成、同玉、2四金(次の図)
先手2五香図10
以下、2四同玉、3四金、2五玉、3七桂、1四玉、1五歩までの“詰み”
図で3二玉には、4三飛成、同銀、3三歩、2二玉、2一金、同玉、4三馬以下。
先手2五香図11
それでは、7五金、7七玉に、3一桂(図)
このように先に桂馬で「2三」を強化しておくのはどうか。これなら、2六飛には3五銀、4五角には4四歩とすぐに対応していける。4五角、4四歩、8九角なら、8五桂、8八玉、7六金が、先手玉への“詰めろ”になっているので、こうなれば後手優勢。
「これで後手良しか…」といったんはあきらめたが、さらに粘り強く調べていくと、先手良しになる手順が見つかったのである。
まず、「4五角」と打つ。
「4四歩」に、「4一角、3二歩」。
ここで「3三歩成」とするのが苦労して発見した順。これを「同桂」は、2三香成、同桂、2一金、同玉、2三角成。(この金香捨てての寄せはなかなか思いつかない) 以下、2二金には、同馬、同玉、2四飛、2三歩、3四桂、3一玉、5二角成となって、後手玉は“必至”である。先手玉は詰まない。
よって、「3三歩成」には「同銀」を本筋として見ていくこととするが、そこで先手は「5二角成」とする。(5二同歩なら2三香成、同桂、4一飛で先手勝ち)
後手は「4五歩」で角を取るが、角を取られてもまだ先手玉は詰めろにはなっていない。
そこで――――(次の図)
先手2五香図12
「5一竜」(図)とすれば、次に3一竜以下の“詰めろ”になっている。4二銀右と受けても、3一竜、同銀、2三香成、同玉、1五桂から詰むので受けは利かない。先手勝ちである。
(見たか! 「激指」推奨の「7五金」をついに完全攻略!)
以上のように、『2五香ロケット作戦』はたいへんに有力で、ほとんどの形を攻略できる。
「激指14」の示す第2候補手は「2五香」に「6六歩」(評価値[-766])だが、それも8六玉で先手が勝てる。
ところが、後手の最善の受けが見つかったのだ!!(次の図)
先手2五香図13
先手「2五香」に、すぐに「3一桂」と打つ。これが“正解手”だったのである。(7五金を打たずに3一桂と受ける)
これで先ほどと同じように進めたとき―――すなわち、4五角、4四歩、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、4五歩、5一竜―――
このときに、後手は「角金桂」と持駒があるので、この「7六玉型」ならば、5八角から(または8四桂から)先手玉は詰んでしまうのである。
「3一桂」と受けられたここでどうも、先手に有効手がない!! (2六飛は3五銀と応じられる)
この図の後手玉の他の攻略手順は見つからず、この図は「後手良し」と言わざるを得ないわけである。
かくして、残念ながら、『2五香ロケット作戦』は不発に終わった―――。
<1>2五香 では先手勝てない とわかった。
<2>4一角
先手4一角基本図
もう一つの新型ロケット砲の作戦は、まず「4一角」(図)から始まる。
これには後手「3二歩」(次の図)
先手4一角図01
ここで2五香は、先ほどの『2五香ロケット砲』と同じ変化に合流する。
すなわち、すぐに3一桂と受けられ、その展開は先手に勝つ道が見つからない。
それなら、ここで「3三歩成」で勝てないか。
これが、我々が新たに編み出した手だ(次の図)
先手4一角図02
3三同歩はもちろんない(3二飛以下詰み)
3三同桂は、5二角成で先手が勝つ。
あとは「同玉」と「同銀」だが、「3三同玉」は、3六飛と先手は飛車を打つのが良い。
以下、3五金に、3九飛と引いておく(次の図)
先手4一角図03
これで、先手が優勢。
ここで後手が4八となら、1五角と王手で打って、このと金を除去しておく。
先手は次に指したい手が色々あり、6六角から9三角成、8五玉と逃げておく手、4五金と攻めていく手など。
先手4一角図04(3六香ロケット図)
そういうわけで、先手の「3三歩成」に、後手は「同銀」が最善手になる。
そこで図のように、「3六香」 と打つのが、狙いの“新型ロケット砲”。
先手4一角図05(3六香ロケット図)
だが、ここから先を読むのが困難を極める道。 後手の応手がたくさんあり、何を指してくるかわからない。
我々が予測し考慮した後手の候補手は次の8つ。
【A】3四桂
【B】3五桂
【C】7五金
【D】4二金
【E】4二金打
【F】6五桂
【G】4二銀右
【H】3一桂
とはいえ、後手に選択肢が多いということは、逆に考えれば、“後手の間違えやすい局面”でもある。後手の選べる手は一つだけ、そしてこれは「一番勝負」だから、やり直しはきかない。
我々の考えはだいたいこうだ。
まず【A】3四桂は3五歩で調子良さそう。【B】3五桂が気になるが、これは3四歩と打って、なんとか先手良しになりそうだ。
気になるのは、【C】7五金と【E】4二金打である。これで負けではどうにもならない。
他に【G】4二銀右が有力で、これも調査が必要だ。【H】3一桂なんて手もある。
(ソフト「激指14」の推す手は【G】4二銀右。そしてこの図の評価値は[-872]で、ずいぶん先手にとって厳しい評価ではある)
以下、この「一番勝負」の戦闘中、我々終盤探検隊が考えた“ここからの読み”を記していく。
先手4一角図06 後手7五金の変化
我々は、まず一番気になる【C】7五金から読んで行くことにした。
これは先手の「3六香」に手抜きして攻めてくる手だが、これでどっちが勝っているのか。(これで負けならこの作戦はもともと駄目だったということだ)
「7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成」―――そこで、「3三香成」(次の図)
先手4一角図07
このタイミングでの「3三香成」が好タイミングで、これを見送って7九金では、後手6九金で先手負けになる。
ここでの「3三香成」に、同玉と取ると、1一角と打って、3四玉には7七角成で、先手良しになる。
だから後手は、ここは「3三同桂」と取るしかないのである。
そこで、「7九金」と受ける。(代えて8九銀では8四香で先手困る。7九金に8四香には7八銀と受けて先手良し)
以下、「4二金、6三角成、6七と、5一竜、4一香、3四歩」(次の図)
先手4一角図08
これで先手優勢。7八とには、3三歩成以下、後手玉は詰んでいる。
先手4一角図09 後手4二金の変化
「3六香」に、【D】4二金(図)も気になる手。
6三角成でも先手が勝てるかもしれないが、我々が調査した手は、「3三香成」。
これを後手同玉は1一角で、同桂は5一竜で、先手が良くなる。
なので後手は「3三同歩」。
ここでも6三角成で先手が良くなる道があるようだが、それよりも明快な決め手があると我々は発見した。
次の手がそれだ(次の図)
先手4一角図10
「5二飛」(図)。 鮮烈なる決め手である。
5二同歩なら、3一銀、同玉、2三角成で詰む。
3一金と受けても、3二金、同金上、同角成、同玉、4一角、同玉、5一飛成以下の、“詰み”。
先手4一角図11 後手4二金打の変化
では、【E】4二金打(図)。 金を打つ手。
これにも「3三香成」と行く(次の図)
先手4一角図12
これを後手同桂は、5二角成、同金に、4一飛と打って、先手優勢。
後手の選択肢は、「3三同玉」か、「3三同歩」になる。
「3三同玉」には、「1一角」。以下、「2二桂、3四歩、同玉、2二角成(後手玉は2五銀以下詰めろ)、4四歩、3八桂(4六桂以下詰めろ)、3五銀、3七飛」(次の図)
先手4一角図13
これで後手玉は仕留められている。
「3七飛」(図)に、3六香は、2五金、同玉、2六銀以下寄り。4一金(角を取る)は、4六桂、4三玉、3五飛。
図では他に後手3三香もあるが、それには2五銀(同玉は2三馬)、4三玉、3四金で、やはり寄っている。
先手4一角図14
「3三同歩」の場合は、「3一銀」(図)と打つ手がある。 「同玉」に、「2三角成」とする。
後手は受けなければならないが、ここは「2二銀」しか受けがない。(2二歩では1一角で寄せられる)
「2二銀」には、「1二馬」。 これで先手優勢である。
【E】4二金打も先手良しになった。
変化4一角図15 後手6五桂の変化
【F】6五桂(図)には、「8六玉」とする。
そこで後手がどう指すか。甘い手を指していると、先手5二角成がある。
8四歩には、9六歩とし、以下4二金打なら、9五玉で“入玉”を狙う。
「6五桂、8六玉」に、そこで「4二金打」が後手工夫の手順になる。
単に4二金打の場合は、先手はすぐ3三香成とした。その場合、同歩には3一銀、同玉、2三角成の用意があったが、「6五桂、8六玉」としたこの場合は、「4二金打」にその順だと、後手に「銀香」と渡してしまうと先手玉が詰まされて負けになる。よってこの場合は、先手は他の手段をひねり出さなければならない。(これが後手の狙いだ)
「4二金打」に、先手は、「5二角成、同金」に、「4一飛」(次の図)
先手4一角図16
次に3一角から後手玉は“詰めろ”だ。
これを4二銀右と受ける手があるが、それには、3四歩、4四銀、6一角と指して先手良し。
後手6六角(攻防の角打ち)には、先手3一金と打って、それも先手が良い。
なので、後手は粘り強く「3一桂」と桂馬を投入して受ける。
そこで先手は「7二角」。 後手は「5八角」。 お互いに“好角”を打つ。
先手玉が安全に“入玉”できれば先手が勝ちになるが後手の「5八角」がそれを食い止めている。
「9三竜、9四歩、8三竜、6七角成、7三歩成、7一歩、8一角成、7七桂成、6三と、7六馬、9六玉」(次の図)
先手4一角図17
こう進んで、どうやら先手が勝てる形勢になっている。
後手【F】6五桂は、うまく指せば先手が勝てるようだ。
変化4一角図18 後手4二銀右の変化
【G】4二銀右。 この手は。3三香成を、同銀と受けようという意味。
これには、「3四歩」と指す。(3三香成、同銀の展開は、この場合は先手まずい)
後手「4四銀」と逃げて、どうなるか。
先手は「5二角成」で勝負する。 後手「同歩」に――――(次の図)
変化4一角図19
「3三金」(図)で、先手勝ち。 後手玉は詰んでいる。
3三同歩に、3二金、同玉、4一角、2二玉、2三角成、同玉、2一竜、2二歩、1五桂(次の図)
変化4一角図20
1四玉に、2四飛以下、“詰み”。
この詰みがあるので、先手「3四歩」に、実は後手「2四銀」(次の図)と逃げる手が、後手の正解手となる。
変化4一角図21
これなら、上の“詰み”の、「先手1五桂」を、同銀と取れるので後手玉は詰まない。
だからこの「2四銀」(図)に対しては、5二角成~3三金とは行けない。
なので、ここからは、「8六玉」として、以下7四歩、6六角、5五銀引、9三角成、7五銀の展開が想定されるが、この先は形勢不明である。
というわけで、先手は【G】4二銀右を粉砕することはできなかった。
しかし先手がはっきり悪くなる変化もなく「互角」に戦えるとわかった。
先手4一角図22 後手3一桂の変化
7番目の手【H】3一桂は、なぜこれを調べる気になったのか覚えていないが(「激指14」が4~6番目くらいの候補に挙げていた手)、なんとなく調べ始めてみると、この手が実に“難敵”だったのである。 スルーするわけにはいかない手だとわかってきた。
以下は、この手についての、我々の苦闘と驚きの記録である。(驚きというのは、次々と驚きの手順が現れてきたからだ)
この【H】3一桂は妙な手だ。先手は「3六香」と3筋を狙って香車ロケットを設置したのに、3一桂は3筋を守っていない。
この桂打ちは、まず、「3一」を埋めて、先手の狙いの5二角成にあらかじめ備えたという意味がある。
それだけでなく、次に“4二金”とするひそかな狙いもあるのだ。この図で後手の手番なら、4二金とし、5一竜には、4一金、同竜に、5八角から先手玉は詰まされてしまう。
先手の最善手は「3三香成」。 後手はこれを「同桂」と取る(次の図)
先手4一角図23
香を一枚渡して、後手の持駒は「金桂香」になった。まだ先手玉に詰みはないが、攻め続けないといけない。
攻めるなら、“3四歩”か、“5二角成”。
“5二角成”とすると、後手は「8四桂」。以下、「7七玉」に、「7五銀」と、銀が玉頭に出てくる。
これは何気なく見えて、実は“詰めろ”なのである。次に、7六銀、8八玉、7七金から、先手玉は詰む。
だから5三馬(銀を取りながら後手玉に詰めろをかける手)では、先手は負けてしまう。
それならと「4三馬」としたが―――(次の図)
先手4一角図24
馬を自陣に利かせて詰みを防いだが、後手は「7六香」(図)と打って、この図は先手の負けになっている。
先手4一角図25
“5二角成”では勝てないとわかった。なので、“3四歩”(図)。 この手に期待しよう。
「8四桂、7七玉、4二金、3三歩成、同歩」と進む。
4二金と寄って、3三歩成を同歩と取るのが、3一桂を打ったことと関連した後手の予定の受けである。
「これはうまくやられたか」と思ったが、しかし、先手にここで好手が存在した(次の図)
先手4一角図26
「1五角」(図)と打つ手である。
この手は後手玉への“詰めろ”になっている。3四桂と打って、同歩とさせて3三に空間をつくり、3二飛から駒を清算して詰ます狙いである。
そしてこれを3二香と受けると、6三角成として、その図は先手良しになるのだ。手駒を使うと先手玉への攻めが甘くなる。後手は駒を使わずに受けたい。
というわけで、「2四歩」。 この手があった。後手の最善手。
2四同角としても、今度は「2三」に脱出路があるので、後手玉は詰めろにならないのだ。
なので、先手は「6三角成」。
そこで後手は「7五銀」。 先手は「5九角」(金を取りながら7七を受けた)。
先手4一角図27
さて、手番は後手に渡った。後手はどう攻めるか、という場面。
以下、「7六銀、8八玉、6七と」―――これが普通の攻めだろう(次の図)
先手4一角図28
ところが、ここで先手は「1一銀」!! まるで“やけくそ王手”のような手に思えるが…
「同玉」に、「2三桂」(次の図)
先手4一角図29
なんと、後手玉はこれで詰んでいるのだ!!
「同桂」は、2一金、同玉、3一金、同玉、4一竜、4一合、同馬、同金、2一飛以下。
では「2二玉」は? それには、2一金、同玉、1一飛、2二玉、3一飛成、2三玉、4五馬、3四合、2二金、1四玉、1五歩、2五玉、1七桂、1六玉、2八桂(次の図)
先手4一角図30
長いが、一本道の順でピッタリの“詰み”。 示されてみれば、難しい手順ではない。
先手4一角図31
「7六銀、8八玉」(図)の場面まで手を戻してみたが、ここで後手玉に詰みがあるということなら、もっと前に後手は対処すべきではなかったか。
4手前に戻って、そこで6二歩(図)なら後手が勝ちなのではないか。
先手4一角図32
これで先手の6三の馬を移動させる。 そこで7五銀~7六銀と迫って行けば、先ほどの“詰み”の筋は消える。だから6二歩(図)である。
以下、4五馬、7五銀。
そこで先手5九角に6七とで後手勝ち―――というのが、後手の目算だが、それを上回る手が先手にあった。
5九角と金を取る手ではなく―――(次の図)
先手4一角図33
1四桂(図)と打つ。 これまた“思い出王手”のたぐいの手と思いきや、そうではなかった。
1四同歩に―――(次の図)
先手4一角図34
1三銀(図)と打つ!! おそろしい筋があったものだ。
この手には、1三同玉と、3二玉の2つの応手がある。
まず1三同玉には、2四角がある。これを同玉は2三飛があるので、この角は取れない。2二玉。
以下、1二馬、3二玉、そこで3三角成!! これも取ると詰んでしまうので、4一玉。
先手は、3二金(次の図)
先手4一角図35
なんと後手玉は詰んでしまっている。
5二玉、4二金、同銀、5四飛以下。
先手4一角図36
戻って、後手3二玉(図)の場合。
これには2二金、4一玉と決め、5九角と金を補充する。
以下、6六銀、7八玉、7六桂で、先手玉に“詰めろ”がかかった。
しかし、3一金、5二玉(図)と追って―――
先手4一角図37
後手玉に“詰み”がある。
6一竜、同玉と、まず竜を捨て、7一飛と打つ。(詰将棋に現れる駒の“打ち換えの手筋”がここで出た)
5二玉に、そこで6三金(次の図)
先手4一角図38
6三同歩に、7二飛成から“詰み”。
このような華麗な切り返しがあって、後手の6二歩は、4五馬で先手勝ちとなることがわかった。
では、この将棋は、「先手勝ち」になるのか。
いやいや、こんなにうまくいくはずがない。浮かれず、慎重になってよく調べなければ。
先手4一角図39
先手が「1五角」と打って、後手「2四歩」に、先手「5九角」のところまで戻って、そこで6二銀(図)と銀を引くシャレた技があった。これも“先手の6三の馬を移動させる”という意味であるが、それ以上の意味も持っている。
同馬なら、上で見てきた“1一銀以下の詰み”がなくなるので、6七とで後手勝ちになる。
そして、このままでもその詰みは防いでいる。6二銀が5一に利いていて5一竜を許さないからだ。
4五馬とするのも、6七とで、後手の勝ちになる。
これはいい手だ、これで後手有利が確定かと思いきや、先手にはまだ“返し技”があった。
先手4一角図40
2三金(図)と放り込む!!
これを同玉なら2一飛、2二香、1五桂、1四玉、3六馬、2五金、4五馬で、先手勝ちになる。
よって、2三金には、同桂。
そこで先手6一飛と打つ(次の図)
先手4一角図41
3一に空間ができたので、この6一飛(図)が、3一銀以下の“詰めろ”になっている。
これを3二金打のように受けても、また6二飛成とした手が、3一銀、同金、4二竜以下の“詰めろ”になっている。
図で6三銀も詰みがある。1一銀から打つ詰み筋だ。 1一銀、同玉、2一金、同玉、5一飛成以下、これまた示されてみればそう難しくない詰み筋だ。(3一銀から入ると詰まないところがおもしろい)
そして、この図は、後手の受けが難しいのだ。
だが、正確にはどうやら「後手勝ち」の図になっているようだ。
正解手は、7七金。 以下、同角、同銀成、同玉、6八角、6六玉、5六と、同玉、5七角成以下、先手玉に詰みはないのだが、玉を追いながら、後手が勝ちになる順がある。(その解説は省略)
しかしもっとわかりやすい後手の勝ち方があるのでそちらを紹介しておく。次の図がそれである。
先手4一角図42
やっぱり、6二銀(図)である。
ただしこの図は、先に示した6二銀とタイミングが2手早い。つまり後手は(7六銀としないで)「7五銀」の状態のまま、6二銀としたのである。
これなら、もしも先手が2三金から襲ってきたとしても、そのとき、後手持駒が「金金香」となるので、7六香からあっさり詰めることができるというわけ。
実戦では、先手の2三金以下の強襲をわかっているのでなければ、「7六銀、8八玉」を決めてしまいがちだ。でもそれをすると、かえって勝つのが難しくなる。
将棋に強いということは、細心の読みと用心深さがあるということでもある。
以上の考察によって、【H】3一桂の手によって、我々(先手)の『3六香ロケット』からの勝利への道ははっきりと途絶えた。
これはあきらめるしかないだろう。残念だが。
先手4一角図43 後手3四桂の変化1
さて、【A】3四桂(図)には、3五歩できっと勝てるだろう―――と、戦時中は、そう考えていた。だからこの手の調査は後回しにして深くは読まなかったのだが、戦後の今、これを調べてわかったことは、3五歩以下、先手が苦戦する、という事実である。
図より、3五歩、同銀(このあっさり同銀が我々の意表を突いた一手)、同香、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六金(次の図)
先手4一角図44
銀をもらって、後手の持駒は歩だけ。ところがこの図になってみると、先手は香車を3筋に使ってしまっているので、7九香の手がなく、受けが難しいではないか。
9六銀、6七と、3四香、同銀、9八玉、7七桂成、4六桂、4五銀、5二角成(次の図)
先手4一角図45
こう進むと、「先手優勢」になる。5二同歩なら、2一竜、同玉、3三桂で、後手玉詰み。
なので後手7八と(または8四香)と攻める手が考えられる。しかしそれは、3一角(同玉は4一飛以下寄り)、3三玉、3五飛、4四玉、5三角成、同銀、同馬以下、後手玉は“詰み”となる。(この変化のために桂馬を2六ではなく4六に打った)
しかし先手が良くなったのは、後手が対応を間違えたから。正確に指せば、逆に「後手優勢」になる。
先手の4六桂に、4五銀と逃げたのが、後手の失着であった。
先手4一角図46
先手の4六桂に、銀取りを放置して、後手7八とと修正した場合。
以下、3四桂、3三玉と進んで、この図。
今度は「後手優勢」になっている。(先手1一角、3四玉に、3八飛などの手はあるが届かない)
【A】3四桂には、戦闘中は「先手勝てる」と思っていたが、実際は正しく指されると負けだったのである。
また、【B】3五桂についても、「勝てる」と思ってはいたが、実際はそう簡単ではない。それでも一応は「先手良し」の結果が得られた。(内容は省略)
先手4一角図04(3六香ロケット図)(再掲)
【A】3四桂 → 後手良し
【B】3五桂 → 先手良し
【C】7五金 → 先手良し
【D】4二金 → 先手良し
【E】4二金打 → 先手良し
【F】6五桂 → 先手良し
【G】4二銀右 → 互角
【H】3一桂 → 後手良し
我々(終盤探検隊)は、【H】3一桂で勝てない、と結論を出した。(【A】3四桂でも負けていた可能性が高い)
かくして、この『3六香ロケット作戦』の採用を断念したのである。
つまり、<2>4一角 では勝てない。
≪5九金図≫(再掲)
<1>2五香 → 後手良し
<2>4一角 → 後手良し
先手(終盤探検隊)が実戦で選んだ手は、別の手である。
第16譜につづく
[ナルニア国物語]
「もっといそげ! はやくいたせ!」と魔女はいいました。
もはや霧のなごりもありません。空はいよいよ青くすみ、ときどき白い雲があわただしく走りすぎるばかりです。森の打ち開けた草地には、サクラソウが咲いていました。そよ風がおこって、ゆれる枝から雪どけのしずくをちらし、歩く三人の顔に、すがすがしいかおりを吹きつけました。
(中略)
「これは、雪どけではありません。」
小人が立ちどまってふと、いいました。「これは、春でございます。どういたしましょう。あなたさまの冬は、たしかにほろぼされましたぞ! アスランのしわざでございます。」
「きさまたちのどちらでも、その名をもういちど申してみい。そくざに殺してくれるぞ。」
と魔女はいいました。
(C.S.ルイス著 『ライオンと魔女』 瀬田貞二訳 岩波少年文庫より)
1898年にアイルランドに生まれ、オックスフォード大学で学んだ文学者のC.S.ルイスが、全7冊からなる「ナルニア国物語」のシリーズの、その最初の本を書いて発表したのは、1950年。
それが『ライオンと魔女』で、これは「ナルニア国」の王である<アスラン>という名のライオンと、その国に力づくで「冬」をもたらして支配している<白い魔女>との、戦争の物語である。
この<白い魔女>のせいで、「ナルニア国」は長い間ずっと「冬」のままであった。
「冬」は、わるいばかりのものではなく、美しい側面、楽しい側面も持っているが、しかしいつまでもずっと「冬」の中で暮らさなければいけないとしたら、「春」や「夏」や求め、それに恋焦がれるのは、住民の当然の思いだろう。
「ナルニア国」に、この長い長い「冬」をもたらしているのは<白い魔女>の力が強かったからだが、それを追い払ったのが、ライオンの姿の王<アスラン>であった。
しかしその戦いのきっかけとなったのは、「人間」の世界から、4人のこどもが「ナルニア国」にやってきたからである。そして勝利できたのは、彼らが、<アスラン>とともに戦ってくれたからである。
ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシィ、の4人のことで、彼らは、この「ナルニア国」の、王と王女になって、闘いの後も過ごしたことになっている。
そう、スーザンとその妹ルーシィ―――この二人の女の子は、“王女”になったのである。
別世界に行って、闘いに参戦し、そして“王女”になる――――これは、『鏡の国のアリス』と同じではないか。
ただし、この4人きょうだいが「ナルニア国」にやってきたのは、この場合は「鏡」は一切関係がなく、彼らは古い屋敷の古い「衣装だんす」を通って、この国にやってきたのである。(別の話で明らかになるが、この「衣装だんす」はもともとナルニア産のリンゴの木からつくられたたんすだった)
この『ライオンと魔女』の原題は『The Lion, the Witch and the Wardrobe』―――つまり、「ライオンと魔女と衣装だんす」であった。
『鏡の国のアリス』と『ライオンと魔女』との“共通項”をほかにも探してみよう。
『鏡の国のアリス』の場合は、こちらの世界は「冬」で、向こう側の世界は「夏」だったが、『ライオンと魔女』は逆で、こちらが「夏」で、向こうが「冬」。 しかし、“季節が逆”というくくりで、同じといえる。
また、<アスラン>はネコ科の動物であることを考えれば、“猫が重要キャラ”という共通項もある。
<第15譜 新型香車ロケット砲2種>
5九金図
さて、この図である。 我々終盤探検隊が、「ここが勝負所」と設定していた場面が、ここだ。
「ここで何か先手が勝てる道があるのではないか」と、我々は考えていた。半分以上は、“勘”であるが。
先手は、9一竜として、「香車」を手にした。持駒はこれで「飛角角金香歩」。
特に「香」は攻めに有効な駒となり得る。ここで有効な「香車ロケット」が使えないだろうか。
そうして編み出したのが2つの新しい「香車ロケット砲作戦」である。
一つは、ここですぐ 2五香 と打っていく『2五香ロケット』。
もう一つは 4一角 の手から始まる『3六香ロケット』である。
その2つの「ロケット砲」についての、我々の“読み筋”とその“結果”について、今回はそれをレポートしていく。
<1>2五香
先手2五香(2五香ロケット)基本図
2五香(図)と打って、後手の弱点「2三」に狙いをつける。
もしここでさらに先手の手番なら、2六飛、3一桂、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2三香成、同金、2四金と、「ロケット砲」が炸裂する。
しかし現実の手番は、後手。 ここか後手がどう指してくるか。それが問題だ。
(この図の「激指14」の評価値は[-929]で推奨手は7五金。なあに、評価値など覆せばいいのだ)
まず、7五金、7七玉、8五桂(6五桂)と攻めてきたらどうなるか。
以下、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成、8九金。
これで後手の攻めは止まったので、次は2六飛や4五角と打てば先手が勝てる。
先手にその2六飛を打たせないよう、3五銀としても―――(次の図)
先手2五香図01
4五角(図)と打てば、先手の勝ちが確定、次の、3三歩成、同銀、2三角成の攻めが受からない。2四歩と受けても、4一角、3二歩、3三歩成、同銀(桂)、2三飛、3一玉、5二角成で、“必至”
こうなったのも、後手が持駒をすべて攻めに使って、「2三」を守ることができなかったからである。
先手2五香図02
というわけで、今の後手の7六桂の手を代えて、7六金(図)とした場合。これなら一枚桂馬を持っていて受けに使えるし、仮に後手に何か――たとえば香車が入れば、7七桂成、8九玉、8八香から、先手玉を詰め上げることができる。
しかし図から、4一角、3二歩、4五角、1一桂、2六飛とすれば(次の図)
先手2五香図03
これも後手受けがない。 先手勝ち。
先手2五香図04
それなら、8五桂(6五桂)を打つ前に、3五銀(図)ならどうだ。桂馬が二枚受けに使えるし、2六飛打ちも消している。
これには、2三香成、同玉、4五角とする。これが3三歩成以下の“詰めろ”なので、後手は3四の地点を受けて、2二桂とするが―――(次の図)
先手2五香図05
先手1一飛(図)。 これで先手の勝ちが決まった。
先手2五香図06 後手7四歩の変化
今のところ、順調に「2五香作戦」が、その効果を存分に示している。
この図は、後手が7五金という手をやめて、代えて7四歩としたところ。
たとえばここから先手が、4一角、3二歩、4五角、3一桂、2六飛、1一桂、2三香成、同桂左(右)、2四金のように攻めたらどうなるか。
それは、7五銀、7七玉、7六香、8八玉に、1一玉が好手で、後手勝勢になる。
なので、先手は、攻めの手順を慎重に組み立てる必要がありそうだが―――“解”はあった。
2六飛と打つのが良い。3一桂に、4六飛と銀を取っておく(次の図)
先手2五香図07
ここから8四歩(8五に逃がさないという意味=ソフトの示す最善手)、4一角、3二歩、5二角成(同歩なら3三銀から後手玉詰み)、7五銀、7七玉、8五桂、8八玉、7七金、9八玉、7六銀で、先手玉に“詰めろ”がかかったが―――(次の図)
先手2五香図08
2三香成(図)から、後手玉は詰んでいる。
2三同玉は、2四銀、同玉、1五角以下。
なので図からは、2三同桂だが、そこで、3三銀と打ちこんで、以下、同歩、同歩成、同玉(同桂なら3二金、同玉、4三飛成、同銀、4一角以下)、3四歩、2二玉、3三角(次の図)
先手2五香図09
3三同桂、同歩成、同玉、2四金(次の図)
先手2五香図10
以下、2四同玉、3四金、2五玉、3七桂、1四玉、1五歩までの“詰み”
図で3二玉には、4三飛成、同銀、3三歩、2二玉、2一金、同玉、4三馬以下。
先手2五香図11
それでは、7五金、7七玉に、3一桂(図)
このように先に桂馬で「2三」を強化しておくのはどうか。これなら、2六飛には3五銀、4五角には4四歩とすぐに対応していける。4五角、4四歩、8九角なら、8五桂、8八玉、7六金が、先手玉への“詰めろ”になっているので、こうなれば後手優勢。
「これで後手良しか…」といったんはあきらめたが、さらに粘り強く調べていくと、先手良しになる手順が見つかったのである。
まず、「4五角」と打つ。
「4四歩」に、「4一角、3二歩」。
ここで「3三歩成」とするのが苦労して発見した順。これを「同桂」は、2三香成、同桂、2一金、同玉、2三角成。(この金香捨てての寄せはなかなか思いつかない) 以下、2二金には、同馬、同玉、2四飛、2三歩、3四桂、3一玉、5二角成となって、後手玉は“必至”である。先手玉は詰まない。
よって、「3三歩成」には「同銀」を本筋として見ていくこととするが、そこで先手は「5二角成」とする。(5二同歩なら2三香成、同桂、4一飛で先手勝ち)
後手は「4五歩」で角を取るが、角を取られてもまだ先手玉は詰めろにはなっていない。
そこで――――(次の図)
先手2五香図12
「5一竜」(図)とすれば、次に3一竜以下の“詰めろ”になっている。4二銀右と受けても、3一竜、同銀、2三香成、同玉、1五桂から詰むので受けは利かない。先手勝ちである。
(見たか! 「激指」推奨の「7五金」をついに完全攻略!)
以上のように、『2五香ロケット作戦』はたいへんに有力で、ほとんどの形を攻略できる。
「激指14」の示す第2候補手は「2五香」に「6六歩」(評価値[-766])だが、それも8六玉で先手が勝てる。
ところが、後手の最善の受けが見つかったのだ!!(次の図)
先手2五香図13
先手「2五香」に、すぐに「3一桂」と打つ。これが“正解手”だったのである。(7五金を打たずに3一桂と受ける)
これで先ほどと同じように進めたとき―――すなわち、4五角、4四歩、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、4五歩、5一竜―――
このときに、後手は「角金桂」と持駒があるので、この「7六玉型」ならば、5八角から(または8四桂から)先手玉は詰んでしまうのである。
「3一桂」と受けられたここでどうも、先手に有効手がない!! (2六飛は3五銀と応じられる)
この図の後手玉の他の攻略手順は見つからず、この図は「後手良し」と言わざるを得ないわけである。
かくして、残念ながら、『2五香ロケット作戦』は不発に終わった―――。
<1>2五香 では先手勝てない とわかった。
<2>4一角
先手4一角基本図
もう一つの新型ロケット砲の作戦は、まず「4一角」(図)から始まる。
これには後手「3二歩」(次の図)
先手4一角図01
ここで2五香は、先ほどの『2五香ロケット砲』と同じ変化に合流する。
すなわち、すぐに3一桂と受けられ、その展開は先手に勝つ道が見つからない。
それなら、ここで「3三歩成」で勝てないか。
これが、我々が新たに編み出した手だ(次の図)
先手4一角図02
3三同歩はもちろんない(3二飛以下詰み)
3三同桂は、5二角成で先手が勝つ。
あとは「同玉」と「同銀」だが、「3三同玉」は、3六飛と先手は飛車を打つのが良い。
以下、3五金に、3九飛と引いておく(次の図)
先手4一角図03
これで、先手が優勢。
ここで後手が4八となら、1五角と王手で打って、このと金を除去しておく。
先手は次に指したい手が色々あり、6六角から9三角成、8五玉と逃げておく手、4五金と攻めていく手など。
先手4一角図04(3六香ロケット図)
そういうわけで、先手の「3三歩成」に、後手は「同銀」が最善手になる。
そこで図のように、「3六香」 と打つのが、狙いの“新型ロケット砲”。
先手4一角図05(3六香ロケット図)
だが、ここから先を読むのが困難を極める道。 後手の応手がたくさんあり、何を指してくるかわからない。
我々が予測し考慮した後手の候補手は次の8つ。
【A】3四桂
【B】3五桂
【C】7五金
【D】4二金
【E】4二金打
【F】6五桂
【G】4二銀右
【H】3一桂
とはいえ、後手に選択肢が多いということは、逆に考えれば、“後手の間違えやすい局面”でもある。後手の選べる手は一つだけ、そしてこれは「一番勝負」だから、やり直しはきかない。
我々の考えはだいたいこうだ。
まず【A】3四桂は3五歩で調子良さそう。【B】3五桂が気になるが、これは3四歩と打って、なんとか先手良しになりそうだ。
気になるのは、【C】7五金と【E】4二金打である。これで負けではどうにもならない。
他に【G】4二銀右が有力で、これも調査が必要だ。【H】3一桂なんて手もある。
(ソフト「激指14」の推す手は【G】4二銀右。そしてこの図の評価値は[-872]で、ずいぶん先手にとって厳しい評価ではある)
以下、この「一番勝負」の戦闘中、我々終盤探検隊が考えた“ここからの読み”を記していく。
先手4一角図06 後手7五金の変化
我々は、まず一番気になる【C】7五金から読んで行くことにした。
これは先手の「3六香」に手抜きして攻めてくる手だが、これでどっちが勝っているのか。(これで負けならこの作戦はもともと駄目だったということだ)
「7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成」―――そこで、「3三香成」(次の図)
先手4一角図07
このタイミングでの「3三香成」が好タイミングで、これを見送って7九金では、後手6九金で先手負けになる。
ここでの「3三香成」に、同玉と取ると、1一角と打って、3四玉には7七角成で、先手良しになる。
だから後手は、ここは「3三同桂」と取るしかないのである。
そこで、「7九金」と受ける。(代えて8九銀では8四香で先手困る。7九金に8四香には7八銀と受けて先手良し)
以下、「4二金、6三角成、6七と、5一竜、4一香、3四歩」(次の図)
先手4一角図08
これで先手優勢。7八とには、3三歩成以下、後手玉は詰んでいる。
先手4一角図09 後手4二金の変化
「3六香」に、【D】4二金(図)も気になる手。
6三角成でも先手が勝てるかもしれないが、我々が調査した手は、「3三香成」。
これを後手同玉は1一角で、同桂は5一竜で、先手が良くなる。
なので後手は「3三同歩」。
ここでも6三角成で先手が良くなる道があるようだが、それよりも明快な決め手があると我々は発見した。
次の手がそれだ(次の図)
先手4一角図10
「5二飛」(図)。 鮮烈なる決め手である。
5二同歩なら、3一銀、同玉、2三角成で詰む。
3一金と受けても、3二金、同金上、同角成、同玉、4一角、同玉、5一飛成以下の、“詰み”。
先手4一角図11 後手4二金打の変化
では、【E】4二金打(図)。 金を打つ手。
これにも「3三香成」と行く(次の図)
先手4一角図12
これを後手同桂は、5二角成、同金に、4一飛と打って、先手優勢。
後手の選択肢は、「3三同玉」か、「3三同歩」になる。
「3三同玉」には、「1一角」。以下、「2二桂、3四歩、同玉、2二角成(後手玉は2五銀以下詰めろ)、4四歩、3八桂(4六桂以下詰めろ)、3五銀、3七飛」(次の図)
先手4一角図13
これで後手玉は仕留められている。
「3七飛」(図)に、3六香は、2五金、同玉、2六銀以下寄り。4一金(角を取る)は、4六桂、4三玉、3五飛。
図では他に後手3三香もあるが、それには2五銀(同玉は2三馬)、4三玉、3四金で、やはり寄っている。
先手4一角図14
「3三同歩」の場合は、「3一銀」(図)と打つ手がある。 「同玉」に、「2三角成」とする。
後手は受けなければならないが、ここは「2二銀」しか受けがない。(2二歩では1一角で寄せられる)
「2二銀」には、「1二馬」。 これで先手優勢である。
【E】4二金打も先手良しになった。
変化4一角図15 後手6五桂の変化
【F】6五桂(図)には、「8六玉」とする。
そこで後手がどう指すか。甘い手を指していると、先手5二角成がある。
8四歩には、9六歩とし、以下4二金打なら、9五玉で“入玉”を狙う。
「6五桂、8六玉」に、そこで「4二金打」が後手工夫の手順になる。
単に4二金打の場合は、先手はすぐ3三香成とした。その場合、同歩には3一銀、同玉、2三角成の用意があったが、「6五桂、8六玉」としたこの場合は、「4二金打」にその順だと、後手に「銀香」と渡してしまうと先手玉が詰まされて負けになる。よってこの場合は、先手は他の手段をひねり出さなければならない。(これが後手の狙いだ)
「4二金打」に、先手は、「5二角成、同金」に、「4一飛」(次の図)
先手4一角図16
次に3一角から後手玉は“詰めろ”だ。
これを4二銀右と受ける手があるが、それには、3四歩、4四銀、6一角と指して先手良し。
後手6六角(攻防の角打ち)には、先手3一金と打って、それも先手が良い。
なので、後手は粘り強く「3一桂」と桂馬を投入して受ける。
そこで先手は「7二角」。 後手は「5八角」。 お互いに“好角”を打つ。
先手玉が安全に“入玉”できれば先手が勝ちになるが後手の「5八角」がそれを食い止めている。
「9三竜、9四歩、8三竜、6七角成、7三歩成、7一歩、8一角成、7七桂成、6三と、7六馬、9六玉」(次の図)
先手4一角図17
こう進んで、どうやら先手が勝てる形勢になっている。
後手【F】6五桂は、うまく指せば先手が勝てるようだ。
変化4一角図18 後手4二銀右の変化
【G】4二銀右。 この手は。3三香成を、同銀と受けようという意味。
これには、「3四歩」と指す。(3三香成、同銀の展開は、この場合は先手まずい)
後手「4四銀」と逃げて、どうなるか。
先手は「5二角成」で勝負する。 後手「同歩」に――――(次の図)
変化4一角図19
「3三金」(図)で、先手勝ち。 後手玉は詰んでいる。
3三同歩に、3二金、同玉、4一角、2二玉、2三角成、同玉、2一竜、2二歩、1五桂(次の図)
変化4一角図20
1四玉に、2四飛以下、“詰み”。
この詰みがあるので、先手「3四歩」に、実は後手「2四銀」(次の図)と逃げる手が、後手の正解手となる。
変化4一角図21
これなら、上の“詰み”の、「先手1五桂」を、同銀と取れるので後手玉は詰まない。
だからこの「2四銀」(図)に対しては、5二角成~3三金とは行けない。
なので、ここからは、「8六玉」として、以下7四歩、6六角、5五銀引、9三角成、7五銀の展開が想定されるが、この先は形勢不明である。
というわけで、先手は【G】4二銀右を粉砕することはできなかった。
しかし先手がはっきり悪くなる変化もなく「互角」に戦えるとわかった。
先手4一角図22 後手3一桂の変化
7番目の手【H】3一桂は、なぜこれを調べる気になったのか覚えていないが(「激指14」が4~6番目くらいの候補に挙げていた手)、なんとなく調べ始めてみると、この手が実に“難敵”だったのである。 スルーするわけにはいかない手だとわかってきた。
以下は、この手についての、我々の苦闘と驚きの記録である。(驚きというのは、次々と驚きの手順が現れてきたからだ)
この【H】3一桂は妙な手だ。先手は「3六香」と3筋を狙って香車ロケットを設置したのに、3一桂は3筋を守っていない。
この桂打ちは、まず、「3一」を埋めて、先手の狙いの5二角成にあらかじめ備えたという意味がある。
それだけでなく、次に“4二金”とするひそかな狙いもあるのだ。この図で後手の手番なら、4二金とし、5一竜には、4一金、同竜に、5八角から先手玉は詰まされてしまう。
先手の最善手は「3三香成」。 後手はこれを「同桂」と取る(次の図)
先手4一角図23
香を一枚渡して、後手の持駒は「金桂香」になった。まだ先手玉に詰みはないが、攻め続けないといけない。
攻めるなら、“3四歩”か、“5二角成”。
“5二角成”とすると、後手は「8四桂」。以下、「7七玉」に、「7五銀」と、銀が玉頭に出てくる。
これは何気なく見えて、実は“詰めろ”なのである。次に、7六銀、8八玉、7七金から、先手玉は詰む。
だから5三馬(銀を取りながら後手玉に詰めろをかける手)では、先手は負けてしまう。
それならと「4三馬」としたが―――(次の図)
先手4一角図24
馬を自陣に利かせて詰みを防いだが、後手は「7六香」(図)と打って、この図は先手の負けになっている。
先手4一角図25
“5二角成”では勝てないとわかった。なので、“3四歩”(図)。 この手に期待しよう。
「8四桂、7七玉、4二金、3三歩成、同歩」と進む。
4二金と寄って、3三歩成を同歩と取るのが、3一桂を打ったことと関連した後手の予定の受けである。
「これはうまくやられたか」と思ったが、しかし、先手にここで好手が存在した(次の図)
先手4一角図26
「1五角」(図)と打つ手である。
この手は後手玉への“詰めろ”になっている。3四桂と打って、同歩とさせて3三に空間をつくり、3二飛から駒を清算して詰ます狙いである。
そしてこれを3二香と受けると、6三角成として、その図は先手良しになるのだ。手駒を使うと先手玉への攻めが甘くなる。後手は駒を使わずに受けたい。
というわけで、「2四歩」。 この手があった。後手の最善手。
2四同角としても、今度は「2三」に脱出路があるので、後手玉は詰めろにならないのだ。
なので、先手は「6三角成」。
そこで後手は「7五銀」。 先手は「5九角」(金を取りながら7七を受けた)。
先手4一角図27
さて、手番は後手に渡った。後手はどう攻めるか、という場面。
以下、「7六銀、8八玉、6七と」―――これが普通の攻めだろう(次の図)
先手4一角図28
ところが、ここで先手は「1一銀」!! まるで“やけくそ王手”のような手に思えるが…
「同玉」に、「2三桂」(次の図)
先手4一角図29
なんと、後手玉はこれで詰んでいるのだ!!
「同桂」は、2一金、同玉、3一金、同玉、4一竜、4一合、同馬、同金、2一飛以下。
では「2二玉」は? それには、2一金、同玉、1一飛、2二玉、3一飛成、2三玉、4五馬、3四合、2二金、1四玉、1五歩、2五玉、1七桂、1六玉、2八桂(次の図)
先手4一角図30
長いが、一本道の順でピッタリの“詰み”。 示されてみれば、難しい手順ではない。
先手4一角図31
「7六銀、8八玉」(図)の場面まで手を戻してみたが、ここで後手玉に詰みがあるということなら、もっと前に後手は対処すべきではなかったか。
4手前に戻って、そこで6二歩(図)なら後手が勝ちなのではないか。
先手4一角図32
これで先手の6三の馬を移動させる。 そこで7五銀~7六銀と迫って行けば、先ほどの“詰み”の筋は消える。だから6二歩(図)である。
以下、4五馬、7五銀。
そこで先手5九角に6七とで後手勝ち―――というのが、後手の目算だが、それを上回る手が先手にあった。
5九角と金を取る手ではなく―――(次の図)
先手4一角図33
1四桂(図)と打つ。 これまた“思い出王手”のたぐいの手と思いきや、そうではなかった。
1四同歩に―――(次の図)
先手4一角図34
1三銀(図)と打つ!! おそろしい筋があったものだ。
この手には、1三同玉と、3二玉の2つの応手がある。
まず1三同玉には、2四角がある。これを同玉は2三飛があるので、この角は取れない。2二玉。
以下、1二馬、3二玉、そこで3三角成!! これも取ると詰んでしまうので、4一玉。
先手は、3二金(次の図)
先手4一角図35
なんと後手玉は詰んでしまっている。
5二玉、4二金、同銀、5四飛以下。
先手4一角図36
戻って、後手3二玉(図)の場合。
これには2二金、4一玉と決め、5九角と金を補充する。
以下、6六銀、7八玉、7六桂で、先手玉に“詰めろ”がかかった。
しかし、3一金、5二玉(図)と追って―――
先手4一角図37
後手玉に“詰み”がある。
6一竜、同玉と、まず竜を捨て、7一飛と打つ。(詰将棋に現れる駒の“打ち換えの手筋”がここで出た)
5二玉に、そこで6三金(次の図)
先手4一角図38
6三同歩に、7二飛成から“詰み”。
このような華麗な切り返しがあって、後手の6二歩は、4五馬で先手勝ちとなることがわかった。
では、この将棋は、「先手勝ち」になるのか。
いやいや、こんなにうまくいくはずがない。浮かれず、慎重になってよく調べなければ。
先手4一角図39
先手が「1五角」と打って、後手「2四歩」に、先手「5九角」のところまで戻って、そこで6二銀(図)と銀を引くシャレた技があった。これも“先手の6三の馬を移動させる”という意味であるが、それ以上の意味も持っている。
同馬なら、上で見てきた“1一銀以下の詰み”がなくなるので、6七とで後手勝ちになる。
そして、このままでもその詰みは防いでいる。6二銀が5一に利いていて5一竜を許さないからだ。
4五馬とするのも、6七とで、後手の勝ちになる。
これはいい手だ、これで後手有利が確定かと思いきや、先手にはまだ“返し技”があった。
先手4一角図40
2三金(図)と放り込む!!
これを同玉なら2一飛、2二香、1五桂、1四玉、3六馬、2五金、4五馬で、先手勝ちになる。
よって、2三金には、同桂。
そこで先手6一飛と打つ(次の図)
先手4一角図41
3一に空間ができたので、この6一飛(図)が、3一銀以下の“詰めろ”になっている。
これを3二金打のように受けても、また6二飛成とした手が、3一銀、同金、4二竜以下の“詰めろ”になっている。
図で6三銀も詰みがある。1一銀から打つ詰み筋だ。 1一銀、同玉、2一金、同玉、5一飛成以下、これまた示されてみればそう難しくない詰み筋だ。(3一銀から入ると詰まないところがおもしろい)
そして、この図は、後手の受けが難しいのだ。
だが、正確にはどうやら「後手勝ち」の図になっているようだ。
正解手は、7七金。 以下、同角、同銀成、同玉、6八角、6六玉、5六と、同玉、5七角成以下、先手玉に詰みはないのだが、玉を追いながら、後手が勝ちになる順がある。(その解説は省略)
しかしもっとわかりやすい後手の勝ち方があるのでそちらを紹介しておく。次の図がそれである。
先手4一角図42
やっぱり、6二銀(図)である。
ただしこの図は、先に示した6二銀とタイミングが2手早い。つまり後手は(7六銀としないで)「7五銀」の状態のまま、6二銀としたのである。
これなら、もしも先手が2三金から襲ってきたとしても、そのとき、後手持駒が「金金香」となるので、7六香からあっさり詰めることができるというわけ。
実戦では、先手の2三金以下の強襲をわかっているのでなければ、「7六銀、8八玉」を決めてしまいがちだ。でもそれをすると、かえって勝つのが難しくなる。
将棋に強いということは、細心の読みと用心深さがあるということでもある。
以上の考察によって、【H】3一桂の手によって、我々(先手)の『3六香ロケット』からの勝利への道ははっきりと途絶えた。
これはあきらめるしかないだろう。残念だが。
先手4一角図43 後手3四桂の変化1
さて、【A】3四桂(図)には、3五歩できっと勝てるだろう―――と、戦時中は、そう考えていた。だからこの手の調査は後回しにして深くは読まなかったのだが、戦後の今、これを調べてわかったことは、3五歩以下、先手が苦戦する、という事実である。
図より、3五歩、同銀(このあっさり同銀が我々の意表を突いた一手)、同香、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、7六金(次の図)
先手4一角図44
銀をもらって、後手の持駒は歩だけ。ところがこの図になってみると、先手は香車を3筋に使ってしまっているので、7九香の手がなく、受けが難しいではないか。
9六銀、6七と、3四香、同銀、9八玉、7七桂成、4六桂、4五銀、5二角成(次の図)
先手4一角図45
こう進むと、「先手優勢」になる。5二同歩なら、2一竜、同玉、3三桂で、後手玉詰み。
なので後手7八と(または8四香)と攻める手が考えられる。しかしそれは、3一角(同玉は4一飛以下寄り)、3三玉、3五飛、4四玉、5三角成、同銀、同馬以下、後手玉は“詰み”となる。(この変化のために桂馬を2六ではなく4六に打った)
しかし先手が良くなったのは、後手が対応を間違えたから。正確に指せば、逆に「後手優勢」になる。
先手の4六桂に、4五銀と逃げたのが、後手の失着であった。
先手4一角図46
先手の4六桂に、銀取りを放置して、後手7八とと修正した場合。
以下、3四桂、3三玉と進んで、この図。
今度は「後手優勢」になっている。(先手1一角、3四玉に、3八飛などの手はあるが届かない)
【A】3四桂には、戦闘中は「先手勝てる」と思っていたが、実際は正しく指されると負けだったのである。
また、【B】3五桂についても、「勝てる」と思ってはいたが、実際はそう簡単ではない。それでも一応は「先手良し」の結果が得られた。(内容は省略)
先手4一角図04(3六香ロケット図)(再掲)
【A】3四桂 → 後手良し
【B】3五桂 → 先手良し
【C】7五金 → 先手良し
【D】4二金 → 先手良し
【E】4二金打 → 先手良し
【F】6五桂 → 先手良し
【G】4二銀右 → 互角
【H】3一桂 → 後手良し
我々(終盤探検隊)は、【H】3一桂で勝てない、と結論を出した。(【A】3四桂でも負けていた可能性が高い)
かくして、この『3六香ロケット作戦』の採用を断念したのである。
つまり、<2>4一角 では勝てない。
≪5九金図≫(再掲)
<1>2五香 → 後手良し
<2>4一角 → 後手良し
先手(終盤探検隊)が実戦で選んだ手は、別の手である。
第16譜につづく