はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

終盤探検隊 part114 ≪亜空間最終戦争一番勝負≫ 第13譜

2019年04月08日 | しょうぎ
≪最終一番勝負 第13譜 指始図≫ 4二銀左まで

 指し手  ▲9一竜


    [雪白姫 Schneewittchen]

 おきさきは、御殿へかえると、鏡の前に立って、

  「ががみや、かべのすがたみや、
   お国じゅうで、いちばんきりょうのよい女はだあれ」

と言いました。そうすると鏡は、せんとおんなじように、

  「おきさきさま、ここでは、おきさきさまがいちばんきりょうよし、
   けれども、お山のお山のそのむこうの
   七人の一寸ぼうしのうちにいるゆきじろひめは
   おきさきさまより千ぞう倍もうつくしい」

と、返事をしました。鏡がこんなふうにべらべらしゃべるのをきいて、腹が立って腹が立って、おきさきは、ぶるぶる、がたがた、ふるえました。

   (『完訳グリム童話集2』 金田鬼一訳 岩波書店より)



 訳者の金田鬼一氏は、原作にこだわって(白雪姫ではなく)「雪白姫(ゆきじろひめ)」としている。「スノーホワイト」は“雪のように白い”であって、“白い雪ではない”というのである。
 調べてみると、明治時代にこの話を翻訳されたときには、「雪姫」だったり「小雪姫」だったり「雪子姫」だったりしている。
 グリム童話は、ドイツのグリム兄弟によって集められた童話集で、その初版は1812年に発行された。
   “鏡がこんなふうにべらべらしゃべるのをきいて”
 グリム童話はほんとうは怖い話なのだというのはもうよく知られているが、この『白雪姫(雪白姫)』も確かに怖い。
 鏡がしゃべるのがまずこわいし、初版本ではこの鏡にむかって自分の美しさをしつこく問いかけている女は、白雪姫の「継母」ではなく、「実母」なのだという。(この岩波の本では継母) そうすると白雪姫が年をとって、美しさがおとろえてきたら、この母と同じになるのではないかと思うと、それが一番怖い。王子様は結婚後、幸せに過ごしたのかどうか、架空の話しながらも心配にもなってくる。

 それにしても、この童話の中の、「鏡」とは、いったい何だろうか。



<第13譜 4一角から勝ちがあった!>

 「亜空間戦争最終一番勝負」が進んでいる。
 闘っているのは、我々終盤探検隊(=先手)と≪亜空間の主(ぬし)≫(=後手)である。
 ≪亜空間の主(ぬし)≫は我々がこの姿の見えない敵に対して、とりあえず付けた名前である。
 また、「終盤探検隊」は、人間とコンピューターソフト「激指」の混成チームである。
 この泥沼のような≪亜空間≫から脱出するために、我々はこの「最終一番勝負」に勝たねばならない。
 (負けたらどうなるのかって? 知ったことか!)

≪最終一番勝負 3四歩図≫
 この図の先手3四歩を、後手が「3四同銀」と取って、そこで3三歩、3一歩、4一飛が我々の慎重に用意した“秘策”であった。我々はこの作戦に自信を持っており、それを『赤鬼作戦』と名付けていたのだった。
 いよいよその作戦を使う時が近づいてきたと、胸をときめかせて構えていたのである。

 ところが――――

4二銀左図
 ところが、敵である後手番の≪ぬし≫は、「4二銀左」 と、銀を引いたのだ。
 まるで、我々の作戦を見透かしているように。(我々のチーム中にスパイがいたのだろうか。いや、そんなことを考えるようではいけない)

 もちろん、我々もこの「4二銀左」の手は知っていた。だが、いつのまにかこの手を軽視して、相手がこの手を指してくることを想定から外してしまっていたのだ。
 そもそもずっと≪ぬし≫を相手に≪亜空間戦争≫を戦ってきて、≪ぬし≫は毎度かならず「3四同銀」と応じてきたのである。(いま思えば、それがこの本番に向けての長い前振りだったか)
 ソフト「激指」が「3四同銀」を第1候補手に推していたことで、「4二銀左ならなんとこなる」と我々は思い込んでいた。
 そういうこともあって、具体的にこの「4二銀左」に対してどう攻略していくか、それを調査していなかったのだった。その我々の調査準備の「空白」を≪ぬし≫が的確に突いてきたのである。

 だが、「4二銀左への攻略」を発見すれば問題ない。
 「激指」も、これは攻略できるということで、この手の評価を高くしていないはずなのだから、“何か”あるはずだ。

 (ところが戦後時間を経過してもう一度「激指」で調べなおしてみると、「4二銀左」の評価のほうが高く評価値-198、「3四同銀」の評価値は-41で2番目。いったいどういうことだ!! 我々は「激指」という味方にあざむかれていたのか!?)


変化4一角図1
 我々は、まず「4一角」に期待した。ここで4一角(図)と打って勝てないか。

 これは“詰めろ”なので、3二歩と後手は受けるのが正しい応手である。
 3一歩という受けもあるが、「2三」への角の利きが通っている分、明らかに後手にとっては3一歩では損である。

変化4一角図2
 後手3二歩(図)に、ここで先手の継続手があるか。それが問題だ。
 我々(終盤探検隊)は、ここで3三歩成、同銀、5二角成の筋に期待していて、それで勝てないかと長く時間を使って考えてみたのだ。
 だが結論は、5二同歩、4一飛に、5四角(次の図)となって……

参考図a
 “王手竜取り”だ。 これで先手負けになる。
 (以下8六玉、8一角に、3一金はあるが、後手からの6六飛の返し技があって、7六角、同飛、同玉、5四角、8六玉、4二銀左以下、後手勝ちになる)

 というわけで、我々(=終盤探検隊)は4一角以下の攻め見送り、9一竜を選択した のであった。
 9一竜と香車を補充し、チャンスをとらえて4一角を狙っていこうと決めたのである。(9一竜なら王手飛車もくらわないし)

 だが、4一角、3二歩の後、実は明快な「先手勝ち筋」があったのだ!!(わかったのは戦いの後だったけれども)

 今回の譜では、我々の捕まえられなかったその「幻の先手勝ち筋」を、以下、詳しく紹介しておこうと思う。

変化4一角図3
 「4一角、3二歩」の後、そこで「5八金」(図)と、ここで「金」を一枚補充するのである。
 (「4一角」と「5八金」のこの組み合わせを我々は思いつかなかった!!)

 後手「5八同と」(次の図)

変化4一角図4
 「5八金、同と」のあと、ここで“5二角成”とする手がある。それを“同歩”なら、先手勝ちになるのだ。3三金と打ちこんで、後手玉が詰むのである。
 だから先手がそれで勝てそうなのだが、残念ながらそうではない。5二角成を放置すれば、後手玉にはまだ“詰みがない”状態なので、逆に先手玉に“詰めろ”をかけつづけていけば、後手の勝ちになってしまうのである。
 具体的には5二角成に、後手“8四桂”と打つ(次の参考図) 

参考図b
 以下、6七玉に、5七銀成、7八玉、6八と、8九玉、3一金と進めば、(まだ難解ながらも)後手にとって有望な闘いとなる。
 つまり先手をもつ我々にとっては面白くない結果である。

 それで他に手がなければ先手の進路は閉ざされるのだが、ここで「9一竜」(次の図)があって、これが“本手”になる。

「課題図」
 すなわち、「4二銀左図」から、「4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜」と進んだ。
 これを「課題図」としよう。この図が先手後手どちらが勝っているかが、以下の“課題”となる。

 先に「金」を補充し、今度は9一竜で「香車」を補充した。 これで先手の持駒は「飛角金金香歩」となった。
 「5八金、同と」の手順を逃して、単に9一竜だと後手5九金と進んで、その場合は「金」が一枚少ない状態となる。これが大きな違いだったのだ。

 ただし、手番は後手にまわった。
 後手は何を指すか。手の広い場面である。

 第一の候補手は〔A〕7五金(次の図)。まずその手から解説する。

変化7五金図01
 先手が9一竜として後手の香車を取ったので、先手には“入玉”の目ができてきている。具体的には、そこで先手番ならば6六角と王手で打って9三角成とし、それから8五玉と入玉していくのである。
 だからそれを阻止する意味でも、ここですぐに〔A〕7五金 と打つのは、後手にとって最も有力に見える指し手である。先手にとっても嫌な手だ。

 以下、7七玉、6五桂、8八玉、7六桂、9八玉、7七桂成と進むと、先手玉に“詰めろ”がかかっている。
 それを先手は、“8九金”と受ける(次の図)

変化7五金図02
 8九香ではなく、「金」で受けるのがとても大事なところ(理由は後でわかる)
 さて、これでもう先手玉には“詰めろ”はかからない。しかし後手6八ととすれば、次の7八とが“詰めろ”になる。
 その手がまわる前に、今度は先手が後手玉を攻める手があるかどうかの勝負となるが――あるのだ。

 「3三香」(次の図)と打ちこむ手がその答えである。

変化7五金図03
 この鮮やかな「3三香」という攻め方が、(戦闘中には)我々の意識にはなかった。この手は、この「戦争」の後で調べて発見できた手である。

 重要なことは、ここで先手が後手玉を攻めるとき、「香」を後手に渡しても、“先手玉は詰まない”ということである。だが、渡す駒が「金」ならば、先手玉は8八金と打たれて詰んでしまう。
 だから「3三」に打ちこむ駒は金ではいけないのだ。もし先ほどに香車を8九に打って受けに使ってしまっていたら、「3三香」とできなかったから、その場合は先手は負けになっていたのである。

 「3三香」と打ちこんだこの図は、鮮やかに、“先手勝ち”になっている。 以下、それを確認していこう。
 
 ここでの後手の応手は(ア)3三同桂と(イ)3一銀が考えられる。(3三同銀は同歩成、同玉、1一角で先手勝ち)

変化7五金図04
 (ア)3三同桂、同歩成、同銀、5二角成、4二銀右、5一竜、3一香、3四桂と進むとこの図になる。
 これを3四同銀は、3三金以下詰んでしまうので、後手は1一玉と逃げるが、それでもやっぱり詰んでしまう。2二金、同銀、同桂成、同玉に、3三銀(次の図)

変化7五金図05
 3三同歩は、3二金以下、3三同玉なら4二馬以下の“詰み”。

変化7五金図06
 というわけで、それならと後手(イ)3一銀(図)ならどうか。
 これには先手5二角成とする。後手は同歩。
 そこで4一飛打のような手なら、逆に先手が負ける。先手玉が8八桂成、同金、同成桂、同玉、7八金、9八玉、8九角で詰まされてしまうから。
 でも大丈夫。5二角成、同歩の時に、3二香成で、先手が勝てるのだ(次の図)

変化7五金図07 
 これで後手玉が“詰み”。
 図以下、3二同玉、4一角、2二玉、3二金、1一玉、2一金、同玉、3三桂、1一玉、2一飛まで。

変化7五金図08
 さて、戻って、後手6八とのところで、代えて3一銀(図)とここで先に受けておくのはどうか。
 これには5二角成とする。以下、同歩に、6一飛。(この場合は角を後手に渡しても先手玉はまだ詰まない)
 後手は4二銀引と“詰めろ”を受けるが、そこで3三歩成(次の図)

変化7五金図09
 3三同桂は、1一角以下詰み。 3三同玉は、1一角、2二銀、3八香、3四角、6四飛成で先手勝ちが確定。
 よってここでは3三同歩だが、それには3二歩が決め手となる。これを同玉は4一飛成以下詰みである。

 ということで、この後手の桂馬二枚での一直線の攻めは先手勝てるとわかった。

変化7五金図10
 もう少し戻って、後手7六桂の手に代えて、7六金としたのがこの図。
 これはまだ詰めろではないのだが攻めに厚みがある。そして後手に香車が入るとその瞬間に先手玉は詰んでしまうから、今度は先手は3三香とは攻められないのだ。
 7八金と受けるのも、6六桂があってこれが“詰めろ”なので、先手悪い。 

変化7五金図11
 だからここでは、7九香(図)と受ける。
 後手はどうするか。(カ)6八とは、5二角成(同歩なら3三金以下後手玉詰み)、7九と、5一竜として先手勝ちになる(5一同銀もやはり3三金以下後手玉詰み。先手玉は後手7七桂成に8九玉で詰まない)
 (キ)6六歩に対しても同じく5二角成~5一竜で先手が勝てる。

 なので(ク)8五桂が後手の残された手段となる。以下、7六香、7七桂左成、9八玉となって次の図。

変化7五金図12
 ここで後手は6五銀と、銀を援軍として送る。次に7六銀が“詰めろ”になる。
 そこで“2五飛”(次の図)が先手の攻防の絶好手。

変化7五金図13
 “2五飛”(図)が素晴らしい手で、後手7六銀には、3三金以下、後手玉が詰んでいるのだ。
 同桂なら2一金、同玉、2三飛成で簡単な詰み。よって、3三金には同銀だが、以下、同歩成、同玉、3四銀、同玉、4五金、2五玉、4七角、同銀成、3五金打以下(途中、4五金に後手3三玉には、2三飛成、同玉、3四角)
 というわけで、後手はこの“詰めろ”を受けなければならないが、歩以外の持駒のない後手は受ける手段が限られる。4四銀が有力だが、それには、1一角、同玉、3二角成(次の図)

変化7五金図14
 これで先手が勝ち。先手玉は「角」を後手に渡しても詰まないからだ。

 しかしもしも、後手が6五銀に代えて、6八とだったら、その場合は同じように進めた場合、角を渡せない。8九角以下先手玉が詰んでしまうから。だから1一角の攻めは利かない。

変化7五金図15
 けれども、6八とに対しても、先手は“2五飛”と進めてよい。以下4四銀に、その場合はこの図のように“5六角”と打って“詰めろ”をかける。持駒のない後手は、もう受けがない。これで先手勝ち。

変化7五金図16
 6五銀でも6八とでもなく、第3の手7六成桂(香車を取る)なら先手はどうするか。
 その場合もやはり“2五飛”(図)だ。この飛車は、8五の桂馬の取りにもなっている。後手は「2三」の地点を強化しにくい形なのだ。
 今までと違うのは、この場合は後手が「香」を持っているということだ。しかしここで2四香と受けるのは、8五飛で桂馬を取られて攻めがなくなって後手困る。
 では、5四銀ならどうか。これは4五に利かせて後手玉にかかっている“詰めろ”を解除しつつ、同時に6五銀のような攻めに使う可能性を持たせた手だ。
 しかしそれでも先手が良い。8五飛もあるが、ここは1一角から決めに出る手を紹介しておく。
 5四銀、1一角、同玉、3二角成、2二角、3三歩成(次の図)

変化7五金図17
 3三歩成(図)が落ち着いた手で、この手でうっかり2三飛成は、8八角成以下、後手の逆転勝ちとなる(つまり後手の2二角は“詰めろ逃れの詰めろ”だったのだ!!)
 この3三歩成はそれを見切った手で、同角なら、2一馬、同玉、2三飛成からの詰みがある。だから3三同銀しかないが、2三飛成で、これで先手勝ちが確定する。

 以上の結果、後手〔A〕7五金以下は「先手勝ち」とみてよいようだ。


課題図(再掲)
  〔A〕7五金 → 先手良しが確定
  〔B〕7四歩
  〔C〕3一金
  〔D〕6二金
  〔E〕6三桂

 この「課題図」では、その他にもここに示す〔A〕~〔E〕の後手の有力手が考えられる。
 最新コンピューターソフトはこれらの中で6三桂を最有力と見ていることを参考として伝えておく。


変化7四歩図01
 〔B〕7四歩(図)は、次に7五銀と、銀を攻めに使う意味。
 これには、5二角成とする。これを同歩なら、3三金以下後手玉は詰む。しかし放っておくと、まだ詰みはない、という状態。
 後手は予定の7五銀(次の図)

変化7四歩図02
 7七玉と下がると先手が負けになるが、8五玉または6五玉とかわせば、先手が優勢に進められる。
 6五玉がわかりやすい。以下6四金、5六玉、5五金、6七玉、6六金(次の図)

変化7四歩図03
 5八玉とと金を取るのが普通だが、それだと5七銀成、4九玉、3六桂の“詰めろ”がかかる。
 ここは7八玉のほうが勝ちがはっきりする。先手玉に“詰めろ”がかからないからだ。
 以下7六銀と迫るが、先手玉は詰めろになっていない。

変化7四歩図04
 そこで5一竜(図)として、先手が勝ちになった。同銀は3三金から後手玉“詰み”。


変化3一金図01
 〔C〕3一金(図)と、ここに金を投下するのはどうか。
 この手に対しては、▲8五玉や▲6六角という、“入玉”ねらいの作戦もあり、最強ソフトはそれを推奨しているが、▲5二角成で先手勝てそうなので、ここではその順を示しておく。
 5二角成、同歩、6一飛(次の図)

変化3一金図02
 ここで後手の指したい手は<u>4八角とこのラインに角を打つ手なのだが(次の図)

変化3一金図03
 それだと3三歩成(図)が良い手になる。3三同歩なら3二金から詰みがあるので同玉とするが、以下、1一角、3四玉(代えて2二桂合は4五金で先手勝ち)、3八香、3七桂、5六金(次の図)

変化3一金図04
 先手勝勢。

変化3一金図05
 それでは、受けに回る<v>5一桂(図)ならどうなるだろう。

変化3一金図06
 それには6五歩(図)がある。5五銀上なら7三歩成で先手優勢となる。
 6五歩に、5五銀引が粘り強い手だ。
 以下、6四歩、同銀上、8五玉、5七角、9六玉、7五角成、8六銀、7六馬、8五金(次の図)

変化3一金図07
 先手優勢である。
 ここから後手が6八と~6七とのようなゆるい攻めをしてくれば、先手は2六香~4五角と設置して「2三」を狙っていけば後手玉を攻略できる。1一桂の受けには、同香成、同桂、2四金である。


変化3一金図08
 再び戻って、<v>5一桂に代わる手として、<w>8一桂(図)という受けがあった。
 同竜なら、5四角と打って、竜を取ろうという意図だ。
 この<w>8一桂にも、先手は6五歩でよい。以下、5五銀引、6四歩、同銀上、2六香(次の図)

変化3一金図09
 先手の次の狙いの手は4五角だ。
 なので後手は先に5四角と打つ。8六玉に、7四歩(これくらいしか手がない)
 そこで先手には、2三香成、同玉、3五金というもう一つの手の用意があった。
 以下、2四歩(詰みの防ぎ)、8一竜、1四歩(先手1五桂の防ぎ)、2五金打となって―――(次の図)

変化3一金図10
 先手勝ちがはっきりした。

変化3一金図11
 少し戻って、先手の6五歩に、後手5四角(図)という手もある。これだとどうなるだろうか。
 これには、8六玉とかわすのが良い。5四角は好位置だが、後手が角を使ったので、先手はやりやすくなった意味がある。
 8六玉、6五銀に、3三歩成とする。

 そこで後手には、3三同玉3三同歩が考えられる。

 3三同玉には、8一竜、同角、1一角(次の図)

変化3一金図12
 以下、2二金、3九香、3五桂、6五飛成となって、先手勝勢。
 なお、ここまでの手順中、8一竜を取らないという選択もあるが、それでも後手に勝ち目はなさそう。先手には金が3枚あるので、3三にむき出しになった後手玉は、あっさりと包囲されてしまうのだ。

変化3一金図13
 というわけで、後手は3三同歩のほうがよさそうだが、これには先手7三歩成(図)で先手十分の形勢。
 以下、5五銀、3二歩、同玉、6三と、6六銀左、8一竜(詰めろ)、5一桂、5三とのような展開が予想される(次の図)

変化3一金図14
 後手はここで8一角で竜が取れるが、それは4二と、同金、1一銀で、先手勝ちとなる。
 したがって、図では5三同歩が後手の最善手だろうが、8三竜として、先手勝勢は間違いない。


変化6二金図01
 〔D〕6二金(図)は相手の読みを外すような怪しい手だ。持ち時間のないときにこんな手を指されたら困る。
 2六香は、3一玉で後手が有望になる。
 簡単には勝ち筋が見つからなかったが、先手はここで3三歩成(次の図)が良いようだ。

変化6二金図02
 これには、後手[同銀]と[同桂]がある。(同玉は3九香、3五桂、1一角以下後手すぐ負ける)

 まず[同銀]は、5一竜、3一金、3九香、3四桂、2五金で、次の図となる。
 
変化6二金図03
 次の狙いはもちろん3四香だが、後手それを受けて4二桂では受け一方で後手に希望がない。具体的には、4四歩、同歩、4三金で、受けなしになる。
 良い受けがないので後手は6八と。この手には狙いがある。角を手にして6七角と打つ筋だ。
 しかしそれでも、3四香と先手は走る。同銀、同金で、そこで後手は4一金と角を取る。

変化6二金図04
 4一同竜に6七角と打つ“王手金取り”の狙いだが、先手は4一竜のつもりはない。
 ここでは2三金と突進して、後手玉に“詰み”があるのだ。2三金、同玉、2五飛、2四金、1五桂(次の図)

変化6二金図05
 以下、どこへ逃げても、“詰み”。


変化6二金図06
 戻って、3四桂に代えて、3五桂(図)とした場合。
 先手は4五金と打つ。▲3五香、▲4六金、▲3四歩という3つの狙いがある。
 駒が足らず良い攻めのない後手は6一歩。先手4六金なら、4二銀右、5八竜、4一金の角取りが狙いだ。
 しかし先手は4六金とせず、3四歩と攻める。4二銀左に、3三金(次の図)

変化6二金図07
 後手玉は詰んでいる。
 3三金を同歩は3二飛から簡単。同銀も、同歩成、同桂に、3二角成、同玉、2一銀、同金、4一角、2二玉、2三角成以下。
 同桂には、同歩成、同銀、3四桂、同銀、3二角成、同玉、3三飛(次の図)

変化6二金図08
 途中、後手が変化する手はいろいろあるが、どれも詰んでいる。

変化6二金図09
 さらに「変化6二金図02」の3三歩成まで戻って、そこで後手[同桂]の場合。
 それには3四金(図)と打つ。
 以下、7四歩に、2四香と打つ。7五銀に、7七玉。
 後手3一桂と受ければ、2三香成、同桂、2四飛(次の図)

変化6二金図10
 1一桂、2三飛成、同桂、3二角成、同玉、2四桂、4一玉、3二金、5二玉、4一角(次の図)

変化6二金図11
 ぴったり詰んだ。

 〔D〕6二金も先手勝ちになるとわかった。


変化6三桂図01
 〔E〕6三桂。これが後手最後の手段。
 この6三桂のような少しひねった手は人間だと一通り考えた後に浮かんでくる手だが、こういう手をコンピューターはすぐに思いつくようだ。
 先手の手番だが、ここでは5二角成がある。これを同歩だと3三金で詰む、という〔B〕7四歩の時にも出てきた状況。そして次に5一竜で後手はほぼ“受けなし”になるので、攻めるなら“詰めろ”で先手玉に迫らなければいけない。 

変化6三桂図02
 5二角成に、7五銀(図)。 これが後手の指したかった手で、7四歩~7五銀の場合は、6五玉や8五玉と逃げられる手にも対応しなければいけない。実際、〔B〕7四歩の時には、6五玉で先手の勝ちになった。
 ところが、6三桂~7五銀だと、今度は6五玉や8五玉ではすぐ詰んでしまうから、下に引くしかない。6三桂の意味はここにあった。
 というわけで、先手は7七玉。
 以下、8五桂、8八玉、7七金、9八玉、7六銀、8九香、8七金、同香、7七桂成、8八歩、7五桂(次の図)

変化6三桂図03
 後手は6三に打った桂馬を活用して攻めてきた。
 しかしこの図は、先手の勝てる局面になっているようだ。ここは8六金と受けても先手が良い。
 だが、ここで6六角がよりわかりやすい決め手。これで後手は受けがないのだ。
 6六角に、4四歩、3三金で、次の図。

変化6三桂図04
 5二の馬の利きが3四まで通ったので、3三金(図)で後手玉は“詰み”となった。
 3三同桂、同歩成、同歩、3二金、同玉、4三金、同銀、3一飛、同玉、5一竜以下。

変化6三桂図05
 一直線の攻めだと後手勝てなかったので、途中で後手がいったん受ける展開を考える。7七金、9八玉としたところで、そので1四歩(図)でどうなるか。
 これで後手玉は広くなったので、詰みにくくなっている。なのでここで5一竜は、同銀で後手優勢になる。ここで後手の手番なら5二歩がある。
 先手はどうするか。
 しかしこの図もやはりすでに「先手良し」の図のようだ。6三馬とすれば、問題ない。
 だがここでは3三歩成がよりスマートな勝ち方になる。この瞬間に、3三歩成を決めて後手の応手を限定するのである。
 3三歩成を「同銀」は5三馬だし、「3三同玉」は3六飛がある。よって後手の応手は桂か歩だが、「同桂」なら、そこで6三馬と桂馬を取る手がピッタリはまる。次に3四桂(1三玉、2二角、2四玉、2六飛、2五桂、同飛以下)から“詰み”をみている。
 残った手は、3三歩成を、「同歩」。 これには2六飛(次の図)が決め手。

変化6三桂図06
 2六飛(図)と打って、後手玉の上部脱出を許さない。3二金以下の“詰めろ”。受けもない。

 〔E〕6三桂でも「先手良し」と決まった。

 ――――ということで、

課題図(再掲)
  〔A〕7五金 
  〔B〕7四歩
  〔C〕3一金   すべて「先手良し」
  〔D〕6二金
  〔E〕6三桂

 この「課題図」は、後手の5つの有力手についてすべて「先手良し」と確定した。

指始図 4二銀左図

 すなわち、この本譜「4二銀左」の図から、4一角、3二歩、5八金、同と、9一竜として、「先手良し」となるのである。

 また、この手順を変えて、5八金、同と、9一竜としても、後で「4一角」と打てば後手はほぼ「3二歩」なので、同じ図に合流して、やはりそれでも先手が良い。

 ポイントは「5八金、同と」だった のである。我々はその手を見逃してしまった。 なぜか? 先入観があったからだと思う。

5八金図(夏への扉図)
 もともと、後手の陣形はこのような「3二銀型」であった。
 これを攻略しやすいように、3三歩、同銀、3四歩、同銀と歩で銀の頭をたたいて吊り上げる。すると次の図になる。  

3四同銀図
 これが≪亜空間戦争≫で繰り広げられてきた手順で、いわば「亜空間定跡」であった。
 だから我々終盤探検隊は、この「3四銀型」を想定局面としていた。
 この「最終一番勝負」の中でも、しっかりとこの図での「5八金、同と」も事前研究していたのである。
 その研究では、この道は「後手良し」と結論を出した。(→『終盤探検隊 part112』)
 そのために我々の意識には、「5八金では勝てない」という先入観が入ってしまっていたのである。

 だから今回の「4二銀型」でも、「5八金」の手は考えようとしなかった…

参考図c
 具体的には、上の「3四銀図」から、5八金、同と、9一竜、7五金、7七玉、8五桂、8八玉、6八とで、この参考図になるのだが、この図から先手の勝ちが発見できず「先手負け」という結論になり、「5八金では勝てない」となったのだった。
 (これが「4二銀左型」の場合は今見てきたように「4一角~3三香」という好手が変化の先にあって先手が勝てるというわけである)




≪最終一番勝負 第13譜 指了図≫ ▲9一竜まで

 ともかく、我々の選んだ手は、単に、▲9一竜 である。


第14譜につづく
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