経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

デフレ経済と知的財産

2010-08-26 | 知財一般
 またもやマーケットでは株価・為替が酷いことになっていますが、バブル崩壊からもう20年もの間、ちょっと上がっては下がりを繰り返して、日本経済は結局立ち直ることなくこのままズルズルと縮んでいってしまうのか、と暗い気持ちになる今日この頃です。1ドル80円に近付いて大変なことになってきたと思いきや、ある記事によると、95年につけた1ドル79円75銭との比較では実質的にそれほど円高というわけではなく、その間の日米のインフレ率の差を考慮すると、1ドル50~60円くらいになって初めて当時の最高値と同水準になるそうです。裏を返せば、この15年もの間、日本経済が異常なデフレに苦しんできたことの証でもあり、今さらながらちょっと驚かされます。
 そして今や日本だけでなく欧米でも、需要の低迷、成長率の低下、デフレの恐怖に悩まされることになっています。経済成長を前提に今の社会システムが成り立っていることを考えると、需要喚起、成長促進、デフレ退治は今や世界の先進国経済に共通かつ最需要課題となっており、経済活動の一部を支える知財活動もそこを離れて考えることは出来ないはずです。
 先日紹介した「マイクロソフトを変革した知財戦略」には、「知的財産の最も大きな価値は、競争者に対する武器としてではなく・・・他の企業とのコラボレーションの橋渡しに役立つということである。」と書かれていました。eビジネスがご専門の幡鎌先生の新著「発明のコモンズ」も、発明の実施を重視した思想に基づく提言がされています。近々に上梓する私の新著も、参入障壁という役割から、顧客との関係(顧客の利便性重視)にかなり重心を移した内容になっています。オープンイノベーションという研究開発の側面からだけでなく、需要喚起を求めるマクロ経済の動向からも、知的財産が‘囲い込み’から‘利用促進’へと重心をシフトさせていくのは必然なのではないでしょうか。

 最近、大手メーカーの方のお話を伺ったり、新聞・雑誌の記事などを読んでいると、日本企業は、アジアをはじめとする新興国の需要を取り込んで成長に結び付けていくことが、非常に重要な課題になっています。それも、従来のように「輸出をする」というイメージではなく、アジア全体をローカルの市場として取り込んでいくというか。そうしないと、縮んでいく日本だけではどうやってもジリ貧であることは、この20年を振り返るだけでも明らかであると。そうしたアジア市場の中で、高コストの日本が存在価値を示していくためには、おそらく、築地の店で中国人が刺身の舟盛りに歓声を上げているように、他にはない最先端の繊細さ・センス・性能などを維持し、発信していくしかありません。日本国内に喩えれば、どんなに高コストでも人を吸い寄せる銀座や青山のような存在、日本全体がアジアの中でそういう存在になっていくということなのだろうと思います。

 というわけで、デフレ経済におけるこれからの知的財産の位置づけですが、キーワードは利用促進、そして日本の将来はアジアにおける‘銀座化・青山化’にかかっている、かと。将来を考えるときにどうしても目先のミクロの世界にばかり目がいきがちなので、ちょっとばかりマクロから考えてみました。

発明のコモンズ (創成社新書44)
幡鎌 博
創成社

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