経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

説明できるか、できないか。

2011-11-20 | 企業経営と知的財産
 今年度は各地の経産局の中小企業向け知財支援事業をお手伝いさせていただいていますが、今日はその中で最近よく考えていることを、自分の頭の整理という意味も含めてまとめておきたいと思います。
 ある事業で行った中小企業へのアンケートに、次のような数字がありました。
・ 貴社の経営課題は何ですか? ⇒ 「売上の伸び悩みor減少」が約50%で断トツのトップ
・ 知財権取得の目的は何ですか? ⇒ 約70%が「参入障壁の形成・模倣品排除」を選択
 この数字は、おそらくこのアンケートに限ったことではなく、一般的なイメージにも近いものだと思います。しかしながら、よく見てみると何か不思議な部分があるのではないか。売上が伸びない原因が模倣品の流通にあるのならば、確かに「参入障壁の形成・模倣品排除」が経営課題に対して有効なのだろうけど、そんなに多くの中小企業が模倣品に悩まされているのだろうか。参入障壁そのものが売上を生むわけではないし、自社で抱え込むがゆえに商品やサービスを知られる機会が制限され、マイナスに働いてしまう可能性だって否定できません。参入障壁を作れば売上が増えるということではなく、「売上の伸び悩みor減少」の理由はもっと他の部分にあることが多いのではないでしょうか。例えば、
 売上が伸びない理由が、自社の商品やサービスの競争力不足にあるならば、商品やサービスをどうやって磨いていくかを考えていかなければなりません。そのためには、社員やパートナー企業などからできるだけ多くの知恵を募っていくことが大切です。
 売上が伸びない理由が、自社の商品やサービスの良さが知られていないことにあるならば、商品やサービスの良さをどうやって伝えていくかを考えていかなければなりません。そのためには、商品やサービスの特徴を客観的に把握し、わかりやすく伝えること、直接顧客に伝えるだけでなく、顧客とのインターフェイスになる販売代理店や社内の営業マンにも伝えていくことが大切です。
 こうしたことが売上が伸びない理由になっている場合に、知財権の取得=「参入障壁の形成・模倣品排除」という構図にとらわれたままでは、経営者の悩みの解決にはなかなかつながらず、経営者が「知財やってもしゃあないわ」と考えてしまうのも当然の帰結です。「売上の伸び悩みor減少」という本来の悩みに対して、自社の商品やサービスを磨きあげることや、商品やサービスの特徴をわかりやすく伝えることを通じて、どうやって成果をあげられるかというところから考えると、知財権を取得するプロセスを通じて自らと他との違いを客観的に認識すること(「経営に効く7つの知財力」の第1の知財力)や、提案制度等を通じて社員のアイデア創出を活性化すること(「経営に効く7つの知財力」の第3の知財力)や、自らの強みを知財権の存在によって客観的に伝えること(「経営に効く7つの知財力」の第6の知財力)のもつ意味が、参入障壁の形成や模倣品排除ということ以上に、より重要になってくると思うのです。具体的には、まずは自社の商品やサービスの特徴や足りない部分を客観的に把握するために、社員を巻き込みながら知財権を含めた情報を整理する。そして、不足する部分、強化すべき部分のアイデアを広く社内で募り、「自社のオリジナル商品・サービス」を皆で作っていくための仕組みを整える。そして、自社の商品やサービスの特徴を社内で共有するための資料、顧客に説明するための資料を、知財権の情報でインパクトをつけながら、社員と一緒に作り上げていく。こういうプロセスが、「売上の伸び悩みor減少」という課題に立ち向かっていくための知財活動の基本形になるのではないでしょうか。

 話は少し変わりますが、様々な中小企業の経営者にインタビューしていて、伸びている企業と伸び悩んでいる企業の違いに、自社の商品やサービスの特徴、他社の商品やサービスとの違い、自社の強みやこれからやろうとしていることを、経営者がわかりやすく説明できるかどうか、ということがあるように感じることが少なくありません。特徴や違いが「有るか・無いか」ということではなく、「説明できるか・説明できないか」、という違いです。説明できるから、顧客は商品やサービスを理解し、購入するかどうかを判断することができるのです。説明できるから、社員は経営者と会社を理解し、ついていくかどうか、頑張るかどうかを判断できるのです。説明できるから、取引金融機関は会社を理解し、支援するかどうかを判断できるのです。コンサルのように会社を理解することが仕事でない限り、あるいは相手の関心とたまたまピンポイントで一致していたということでもない限り、普通は相手の方からわかりにくい説明をわざわざ掘り下げて、理解してくれようとすることはないでしょう。良いものがありながら、説明が不十分で理解されない(特に多いのは各論の説明に熱心になってしまって全体像がよく見えないというパターン)ということから、売上が伸び悩んでしまっているケースは少なくないように思います。
 ゆえに、やはり知財活動においても、情報を整理し、わかりやすく伝えるということを意識したプロセスが、多くの中小企業に有効ではないかと考える次第です。考えるだけでなく、そういうふうにやっていきます、ということで。