本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

今は廃れた行水

2018-08-13 09:54:13 | Weblog
 猛暑、まさしく猛々しい暑さが毎日続く。庭のサルスベリが濃い桃色の花を咲かせている。その風情、妙に暑苦しい。

 学生時代、東京である貸し部屋に住んでいた。食事を提供する下宿屋ではない。アパートでもない。「貸し間あり」で収入を得ていたのだろう戦前からの古い一軒家である。
3階に貸し部屋が4部屋あって、私のほか3人の学生が借りていた。戦災に遭わなかったせいか南京虫によく喰われた。

 1階と2階は家主の老夫婦と30代と思われる独身息子が占めていた。いや、住み込みのお手伝いさんもいた。20歳ぐらいの娘さんだったと思う。

 この家は数軒の建て込んだ中の一つだが、家屋と塀に囲まれた坪庭があった。3階の廊下の窓から見下ろせた。

 夏のある昼下がり、何気なく庭を見下ろすと、お手伝いさんが行水をしていた。気配を感じたのか、お手伝いさんは見上げた。あわてて首を引っ込めた。白い背中が残像になった。それだけのこと。