一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『日本の「食」は安すぎる』

2008-12-19 | 乱読日記
僕は著者のブログやまけんの出張食い倒れ日記からはいったのですが、この本は書下ろしです。

副題は「「無添加」で「日持ちする弁当」はあり得ない」

著者の本業は農産物流通コンサルタントで、農業生産の現場から、「安全」や「本物」には手間やコストがかかっていて、「安い」ことと「安全で・美味しい」ということは両立しない、消費者が安さだけを求めるのでなく、適正価格で「買い支え」ることが日本の農業の再生をもたらすと主張します。

著者は「有機栽培・無農薬至上主義者」ではなく、また「貧乏人は安全な食をあきらめろ」というわけでもなく、ただ、日々の買い物や食生活において少しだけ考えることで食品の流通のしくみが変わるはずだ、と主張します。

たとえば、消費者一人ひとりが安全性に対しての許容範囲の基準を持つこと。
消費者は安全が心配、といいながら買い物の現場では特売品に群がるので、食品スーパーは安い輸入農産物を主に陳列する。
一方で店頭で売っている野菜に残留農薬がないか調べろというクレームをつける消費者もいて、それに対してはスーパーは1件10万円もの費用をかけて研究機関に委託し、そのコストは結果的に商品価格に跳ね返ってくる。

現在の食品の安さの理由を知ること。
輸入食品は円安に支えられている。ということは当然円安になれば価格は上昇する。また輸出国の相場上昇(たとえば輸出国の経済発展や穀物燃料との競合)にも影響を受ける。安い輸入食品がいつまでも安く供給されるとは限らない。

安いもの、安全なものを過剰に求める消費者の行動が「本物」「安全」の価格を押し上げている。
たとえば平飼いの地鶏はストレスが減るので免疫力が自然につくから抗菌剤の添加されていない飼料を与えればいいが、逆にそういう飼料はロットが出ないから抗菌剤入りの飼料より割高になる。
たとえば有機食品のJAS規格は現場での記録と外部機関による認証が求められ、さらに有機JASマークを貼付するなどパッケージも別ラインになるためそれだけでも相当なコストがかかる。食品偽装が起こるたびに「監視の目を強化しろ」というだけではかえって消費者のためにならないのではないか。

などなど、具体的な事例をもとに非常に考えさせられる問題提起が満載の必読書。新書版800円以上に賢明な消費者になれることは請け合いです。

それから、著者のブログもシズル感のある写真と生き生きしたコメント満載でお勧めです。



話がそれるのですが、上の問題提起は食品にとどまらないものを含んでいます。

「安さ至上主義」への問題提起、お金が回るようにならないと経済は活性化しない、というのはリフレ派(最近旗色悪いですが「上げ潮派」とも言いますね)の主張にもつながります。

一部の過剰・理不尽な要求に対するコストを一般の真面目な人が負担しているというのはほかの業界でもけっこうあることです。損害保険などは詐欺まがいの請求(2年に1回盗難に遭うベンツとか)などを調査して拒否する費用(いやがらせ・クレーム・逆恨みへの対応も含め)がかなりの額に達するそうです。

そして規格・規制の必要以上の強化は経済活動の阻害要因になりかねないといえばJ-Sox(以下略・・・)



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