「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

怒りや感情の ブレーキが利かない

2009年10月11日 19時50分00秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
(前の記事からの続き)

④ 怒りや感情の ブレーキが利かない

 とても傷つきやすく、 些細なことで腹を立てて ブレーキが利きません。

 甘えを許してくれる人にだけ 出やすいのが特徴です。

 自分を守ろうとして、 または、

 分かってもらえない苛立ちから 居丈高になったりします。

 他のことは 頭から飛んでしまい、 TPOに関係なく 激しく反応してしまいます。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕


 このことは、 僕が心子に 最も苦い目に 遭わされたことのひとつです。

 心子は自分の痛みを 分かってもらえない悲しさが、

 怒りとなって 爆発してしまいます。

 それは 僕や母親など、 親しい間柄でのみ 起こることでした。

 二人は一心同体でありたいという 欲求がハイレベルなので、

 現実にはそれが満たされずに 爆発してしまうのです。

 怒りは、 傷ついても 自分が倒れずに、

 持ちこたえているための 感情でもあります。

 トラブルが起きるのは大抵 二人だけの時でしたが、

 心子は外でも 人目を憚らず 僕に食ってかかったこともありました。

 一方で、 苦しくて 電車の中で叫びたくなるのを、

 必死で堪えていたこともありました。

 人前では時によって 感情をコントロールできたのかもしれません。

 怒りや攻撃は 周囲が最も困惑することですが、

 一番苦しいのは 本人にほかならないのです。

(次の記事に続く)
 
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めまぐるしく気分が変わる

2009年10月10日 22時37分27秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
(前の記事からの続き)

③ めまぐるしく気分が変わる

 両極端の気分の起伏を  「ムード・スウィング」 といいます。

 変化があまりにも極端で、 同じ自分とは 思えないほどのこともあります。

 ある男性は、 「僕」 と 「私」 という

 二人の自分がいると 表現したそうです。


 BPDには うつ症状がありますが、

 うつ病には 重いタイプと軽いタイプがあります。

 前者は 希死念慮も伴う 「大うつ病」 

 または 「メランコリー型うつ病」 といい、

 従来 「うつ病」 と 言われていたものです。

 しかし近年は、 比較的 軽いうつ状態を繰り返す 「気分変調症」 や、

 攻撃性が見られやすい  「非定型うつ病」 が増えています。

 境界性パーソナリティ障害では 後者の合併が多くあります。

 気分の変動には、 見捨てられ不安を かき立てる状況などの きっかけがあります。

(うつ病は そういうきっかけになる 出来事はありません。)

 境界性パーソナリティ障害と 間違われやすいものに

 「双極性Ⅱ型障害」 があります。

 躁うつ病のひとつで、

 BPDとは 原因も治療も 全く異なるので、 鑑別することが必要です。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕


 心子は、 普段は自分のことを  「あたし」 と言いますが、

 怒りを表すときなどは  「私」 と言いました。

 本人は意識していたかどうか 分かりませんが、

 人格が変わっていたのかもしれません。


 BPDの人は 最初うつ病と診断され、 次に双極性Ⅱ型障害と言われ、

 最後に BPDと診断されるケースが 少なくないようです。

 双極性Ⅰ型障害は 従来の躁うつ病のことで、

 双極性Ⅱ型障害は うつ状態と軽い躁状態が 現れるものです。

(次の記事に続く)
 
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対人関係が両極端で、不安定である

2009年10月07日 20時46分56秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
(前の記事からの続き)

② 対人関係が両極端で、 不安定である

 ある人に対して、 信頼できる人だという気持ちと、

 自分を裏切るに違いないという、

 相反する気持ち (アンビバレンス) が 同居して、

 両極端に見える 行動を取られます。

 BPDの人は 親に見捨てられたと感じ、

 「本当の親」 探しの 旅をしてきました。

 現実に得られなかった 完全無欠の親、

 100%の愛を 与えてくれる人を 見つけ出そうとします。

 回復するためには、

 いつか見捨てられるという 誤った確信を 克服する必要があります。

 親を信頼できる存在として 受け入れるか、

 それに代わる存在に 支えられながら、

 親を求め続ける気持ちを 卒業していくかです。

 ただ 常に別れを繰り返すのではなく、

 一定の信頼が生まれると、 その関係を 大切にすることがあります。

 気まぐれで 相手を取っかえ引っかえするのが、

 BPDの本性のように捉えるのは 誤解に繋がります。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕


 心子は こんな手紙を 送ってきたことがあります。

「 母親を泣いて探す 迷い子のように、 心子はいつも 求めていました。

 この世の中に 唯一絶対の愛があることを。

 相手のためなら 自分が死ぬことさえ 笑って受け入れられるほどの、

 強い愛が 存在することを。 」

 心子は 恋愛対象は少なくなかったようですが、 僕と知り合ってからは、

 トラブルがあって 別れていっても、 忘れたころになると 再び連絡してきました。

 恋人として付き合うようになるまで 約6年越し、 別れと再会を繰り返しました。

 付き合い始めた 初期の頃は、 毎日メールや電話をすることを 求められましたが、

 ある時期から それは落ち着きました。

 主治医の先生によると、 僕を信頼して

 「試す」 必要が なくなったからだと言われました。

(次の記事に続く)
 
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見捨てられることに対する 不安が強い--境界性パーソナリティ障害はこうして診断する

2009年10月07日 20時29分46秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 アメリカ精神医学界の診断基準 「DSM-Ⅳ」 は、

 操作的な診断基準と呼ばれています。

 チェック項目の いくつ以上が該当すれば、

 その診断を下すと 便宜的に決めたものです。

 本来、 疾病の診断は、

 原因とその病理を特定した上で なされるのが理想的ですが、

 DSMでは それは抜きにして、 症状によって 統計学的に診断をします。

 精神医学では 原因や病理が 客観的に分かりにくく、

 症状のみで診断した方が 初心者にも容易だということがあります。

 境界性パーソナリティ障害の診断項目を 以下にピックアップします。


①見捨てられることに対する 不安が強い

 この不安は 親しくなった瞬間から始まり、 親密さが増すほど 強くなります。

 相手の機嫌を 取ろうとしたりして、

 それが逆に 相手を苛立たせることにもなります。

 そうすると 不安定になったり、 逆ギレして攻撃したり、

 衝動的な行動に向かったりします。

 拒否されてもいないのに、 先読みしてそう思い込み、

 過剰な反応をしてしまいます。

 それで 相手が本当に 背を向けてしまうと、

 やっぱり思った通りだと 結論付けるのです。

 さらに 自分の傷を思い知らせようとして、 困らせる行為をしたりします。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕


 心子の場合は、 見捨てられそうに感じると、

 傷つく前に 自分から僕を見捨てるように、

 離れていくことを繰り返していました。

 また、 僕がいつまでも 心子を愛し続けるはずがなく、

 他の誰かと一緒になると 口にすることもありました。

 見捨てられ感は 根本的で強烈な感情で、

 BPDの中核的なものだと 言う人もいますが、 幾つかの所見があるようです。

(次の日記に続く)
 
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発症時期が早いほど 深刻である -- 境界性パーソナリティ障害はこうして現れる

2009年10月05日 19時14分15秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 症状が出てくる時期には 個人差があります。

 最近では 小学校中学年くらいで、

 境界性パーソナリティ障害の特徴を 示す子もいます。

思春期発症タイプ …… 10代前半で問題が出てくる

青年期発症タイプ …… 10代後半で始まる

成人期発症タイプ …… 20才以降に始まる

 低年齢化が進む一方で、 成人以降に 問題が出てくるケースも 増えています。

 思春期が長くなり、

 自立まで 長い時間を要するようになったことと 関係しているでしょう。

 全体的に見ると、 発症のピークは 高齢化しているかもしれません。

 一般的には、 発症時期が早いほど、

 強い愛情飢餓や 見捨てられ体験を 味わったケースなど、

 養育環境の問題が 深刻だということです。

 それに対して、 見た目には 問題のない家庭で、

 それなりの愛情を 与えられてきたケースでは、

 年齢が上がってから 表面化しやすいものです。

 親の価値観に支配された  「良い子」 や

 「頑張り屋さん」 であることが 共通しています。

 一方、 予後については 一概には言えません。

 発症が早くても、 20代を過ぎる頃には すっかり落ち着く場合もあります。

 20代を過ぎて 始まった場合でも、 2~3年で 落ち着くこともあれば、

 40才になっても 不安定だということもあります。

 対応の仕方や その後の環境、 本人の資質や 努力によって、

 予後は大きく左右されます。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 
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生まれ持った 性格ではない

2009年10月04日 18時50分17秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 境界性パーソナリティ障害は、 永遠に続く 固定した性格ではありません。

 多くは 思春期から青年期、 成人早期に始まる、

 嵐のような 感情と行動の失調状態です。

 自殺企図, 自傷行為, 過食, 危険な性交渉, 薬物乱用なども、

 何らかの喪失体験が きっかけになっています。

 通常は数年で 嵐は治まっていきます。

 周囲の対応がまずかったり、 本人の抱えているものが 深刻な場合には、

 10年、 20年と かかることもあります。

 多くは 30代半ばから落ち着き始め、 年齢が上がると共に 改善していきます。

 その間に、 思い詰めた行動に 走る危険を 回避することができれば、

 その人らしい人生に 辿り着いていきます。

 魅力的に成熟することもあれば、 偏りや幼さを 一部留めていることもあります。

 克服する前に、 薬物などの 依存症になったりすると、

 それだけ回復を 手間取らせることになりま。

 問題を 乗り越えようとする中で、 鋭敏な感性や 人への献身、

 常識にとらわれない個性を 培っていくことも少なくありません。

 努力と円熟が加わって、

 個性的な才能や 人に奉仕する才能を 開花させていくケースもあります。

 同時に、 傷つきやすさや 安心感の乏しさが、

 折角の成功を 台無しにする行動に 駆り立てることもあります。

 その人が いかに生きて、 自分の抱えている問題に 向かい合い、

 克服していくかが、 後半生に現れるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 
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発症のきっかけと 原因は別である

2009年10月02日 18時15分40秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 境界性パーソナリティ障害が  「発症」 するとき、

 通常は きっかけとなる出来事があります。

 それが ひとつのこともあれば、 複数のこともあります。

 注意すべきことは、 きっかけと原因は 別だということです。

 原因は 長い時間をかけて 用意されています。

 一方きっかけは たまたま最後の一押しと なったに過ぎません。

 ただ きっかけとなる出来事は、

 過去の 心の傷や痛みを 甦らせるような性質を持っています。

 それによって 心理的に動揺するだけでなく、

 積み上げてきたものが 全て崩れ去るような 体験として感じられるのです。

 親密な関係になること自体が 見捨てられ不安をかき立てる

 きっかけになることもあるし、 実際の別れが 引き金をひくこともあります。

 また 若い女性の場合、 離別と中絶によって、 喪失感と罪悪感が重なり、

 自身の見捨てられ感と 自分が見捨てた命が オーバーラップして、

 救われがたいことに 感じることもあります。

 一見 愛情深い家庭に育ち、 見捨てられ体験が ないように思えても、

 丁寧にたどっていくと、 必ず その人がかまわれなくて、

 寂しい状況に 置かれていたことが 明らかになってきます。

 過去の体験によって 潜在的なもろさを 抱えているところに、

 何らかの 別離体験や喪失体験が 加わることによって、

 境界性パーソナリティ障害を 呈するというのが 典型的な経過です。

 過去に 見捨てられ体験があっても、

 親密な関係を避けることで 表面化することなく、

 アイデンティティを保っているケースは 少なくありません。

 しかし 恋愛や肉体関係という 深い関係に陥ることで、

 心の鎧が取り去られ、 幼い頃の 傷や寂しさが甦ってくるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 
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境界性パーソナリティ障害は  「発症」する

2009年10月01日 22時49分49秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 小さい頃から 頑張り屋さんで、 親を困らせることもなく、

 勉強も良くできる子が、 ある時期から 急に不安定になり、

 生活が乱れてくることがあります。

 高校までは優等生でも、 大学に入ると 優秀な人ばかりで、

 味わったことのない挫折で 自信をなくしたり、 虚しさにとらわれたりします。

 失恋によって 自分がコントロールできなくなり、

 自傷行為を 起こすこともあります。

 両親に 昔の不満を述べ、 幼い頃のことまで持ち出して 親を困らせます。

 親にとっては 寝耳に水ですが、 本人はずっと 我慢していたのだというのです。

 そのようなケースからも 分かるように、

 境界性パーソナリティ障害は 元々ある 「性格」 の 障害ではありません。

 境界性パーソナリティ障害に対する 誤解のひとつは、

 「困った性格」 だと 見なすことです。

 実際には そういう 「性格」 の持ち主というより、

 あるきっかけから、 そういう状態に 「なる」 のです。

 特定の性格の人が なるというより、 様々な性格、

 時には 全く正反対の性格の人も 境界性パーソナリティ障害になります。

 多様なタイプの人が、 あるきっかけから 共通する状態を示します。

 いくつかの契機が 引き金になって、 急に 或いは徐々に、

 「発症」 する 病的状態なのです。

 どんな性格の人でも、 悪い条件が揃うと、

 境界性パーソナリティ障害の 状態になり得ます。

 逆に言えば、 回復していくと 境界性パーソナリティ障害の 症状は消えていき、

 本来の性格に戻っていきます。

 以前と全く同じに 戻るのではなく、

 試練を経験することによって 成長し、 成熟した姿になっていくのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕
 
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