「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

発症のきっかけと 原因は別である

2009年10月02日 18時15分40秒 | 「境界性パーソナリティ障害」より
 
 境界性パーソナリティ障害が  「発症」 するとき、

 通常は きっかけとなる出来事があります。

 それが ひとつのこともあれば、 複数のこともあります。

 注意すべきことは、 きっかけと原因は 別だということです。

 原因は 長い時間をかけて 用意されています。

 一方きっかけは たまたま最後の一押しと なったに過ぎません。

 ただ きっかけとなる出来事は、

 過去の 心の傷や痛みを 甦らせるような性質を持っています。

 それによって 心理的に動揺するだけでなく、

 積み上げてきたものが 全て崩れ去るような 体験として感じられるのです。

 親密な関係になること自体が 見捨てられ不安をかき立てる

 きっかけになることもあるし、 実際の別れが 引き金をひくこともあります。

 また 若い女性の場合、 離別と中絶によって、 喪失感と罪悪感が重なり、

 自身の見捨てられ感と 自分が見捨てた命が オーバーラップして、

 救われがたいことに 感じることもあります。

 一見 愛情深い家庭に育ち、 見捨てられ体験が ないように思えても、

 丁寧にたどっていくと、 必ず その人がかまわれなくて、

 寂しい状況に 置かれていたことが 明らかになってきます。

 過去の体験によって 潜在的なもろさを 抱えているところに、

 何らかの 別離体験や喪失体験が 加わることによって、

 境界性パーソナリティ障害を 呈するというのが 典型的な経過です。

 過去に 見捨てられ体験があっても、

 親密な関係を避けることで 表面化することなく、

 アイデンティティを保っているケースは 少なくありません。

 しかし 恋愛や肉体関係という 深い関係に陥ることで、

 心の鎧が取り去られ、 幼い頃の 傷や寂しさが甦ってくるのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害」 岡田尊司 (幻冬舎) より 〕