「会えてよかった……」
静まり返った体育館で、 遺族が 物言わぬ亡骸に語りかけています。
行方知れずの家族を 見つけることさえ困難な状況で、
愛する人が 亡くなった悲しみよりも、
やっと会えたという 安堵感が溢れてくるのだといいます。
体育館の床には、 緑色のシートが敷かれ、
袋にくるまれた遺体が 整然と並んでいます。
遺体が多すぎて、 棺に入ることができないのです。
遺体は 顔が膨れ上がるなどして、 確認しにくいものが 半数ほどだといいます。
それでも遺族は その前でじっと目を凝らし、 踏みとどまっています。
普通なら 直視できないような光景ですが、 遺族は必死に捜しているのです。
運良く探し出せても、 抱きしめることはもちろん、 触れることさえできません。
感染症の恐れがあるため、 警察から止められているのです。
顔を近づけて 感情を吐露することしかできません。
きれいな状態で発見され、 身元が分かる 持ち物があるのに、
いつもでも引き取られない人もいます。
恐らく家族全員が 帰らぬ身となってしまったのでしょう。
身元が特定できない遺体は、 発見場所の市町村に 引き渡されることになりました。
遺体は 家族の元に戻ることなく、 葬られることになります。
遺留品などを確認、 DNA資料や写真を保管して、
担当課長が用紙にサインし、 遺体引渡し手続きが行なわれます。
市内の火葬場だけでは とても対応しきれませんが、 土葬にするのは忍びなく、
遠方の火葬場に運ぶということです。
あくまでも仮埋葬、 いずれ永代供養しますと、 住職は話しました。
〔 朝日新聞より 〕