現代音楽の代表的な作曲家シエーンベルクは1951年にその生涯を閉じているから、それからもう半世紀以上も経っている事になる。
当時東京の新聞で彼の訃報を扱ったのは読売一紙だけで、それも社会面の一番下の段に三行半ほどの申し訳程度の文面のみだったという。
日本における現代音楽に対する評価、扱いがどれほどのものだったのか、このことでも良くわかる。
この曲は彼が12音技法を用いる前の作品で、現代音楽というよりむしろ後期ロマン派を代表する傑作といってもよいと思う。
説明書を読むと、この曲はリヒアルト・デーメルの詩「女と世界」による標題音楽で、「・・・冬枯れの木立の中を歩む男女、やがて女は恋人に自分の不実を告白する。
孕んでいる子供は貴方のではないと。
彼女を深く愛している男は、月光がふりそそぐ浄夜をたたえ、その子を自分の子として生んでくれと言う。
二人は抱き合い、歩み去る。・・・」とあり、いかにも世紀末を思わせる官能的といってもよい内容。
原曲は弦楽六重奏曲だが、後に弦楽合奏用に編曲されたもので演奏されたこの盤は、いっそう濃厚なロマンティシズムにあふれた雰囲気を醸し出している。
ギリシャ出身の著名指揮者というと、すぐ思い浮かぶのはミトロプーロスしかいない。
彼はアテネに生まれ、家は代々ギリシア正教の司祭を出している名門で、聖職に就く運命にあったという。
だが幼時からめざましい音楽の才能をみせたミトロプーロスは、名演奏家への道を突き進み、すばらしい音楽活動を繰り広げる。
この曲のこの様なすばらしい演奏を残してくれたのも感謝の極みとしか言いようがない。
ニューヨークフィル常任指揮者時代に若いバーンステインを補佐したり、現代音楽の紹介にとても熱心だった事もよく知られている。
この曲この一枚として外せないこの盤は、静かな冬の夜、曲想を頭に描きながらじっくりと聴いてみるのも良いかも知れない。
・ディミトリ・ミトロプーロス指揮、ニューヨーク・フィルハーモニック弦楽セクション <CBS>
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