ハンガリー出身の指揮者フリッツ・ライナーの1963年から亡くなるまでの10年間、その任に当たったシカゴ交響楽団との組み合わせによる演奏活動は、後々まで音楽愛好家に語り継がれるほどの素晴らしいものだった。
彼の指揮ぶりは「ヴェスト・ポケット・ビート」といわれ、指揮棒はチョッキのポケットの位置からほとんど動かなかった。
それだけに頼るものがなくなった楽員たちは、恐ろしくなって全神経を集中し、緊張そのものという表情で演奏する。
壮大なクライマックスの瞬間には、鷹のような鋭い目と共に、指揮棒を持った手首をわずか5インチほど下げると、オーケストラは完璧なフォルティッシモで会場全体に鳴りわたったという。
ライナーの指揮ぶりが、「ひきしまった、まったく贅肉のない演奏」をもって最大の特徴といわれる所以がよく分かる。
リムスキー・コルサコフ、ラヴェルなどの作曲家は、管弦楽曲の魔術師と言われるほど楽器の魅力を巧みに引き出して作品を描いたが、レスピーギも負けず劣らずのオーケストラ曲の達人だった。
ローマ三部作と言われる彼の代表作から「ローマの松」と「ローマの噴水」を収めたこの盤は、曲はもちろん素晴らしいわけだが、それ以上にライナーのオーケストラの完璧なまでの掌握ぶりを示す格好の演奏となっている。
ライナーは、シカゴ交響楽団とのレコードをRCAにたくさん残しているはずだが、現在発売されているものはとても数が多いとは言えない。
彼のレコードを全部所有したいほどの愛着に駆られる私にとっては、早く残した録音の全部を発売してくれることを願うばかりだ。
「この曲この一枚」としてまずは聴いてほしいと思うこの盤、言葉が大げさだがライナーの呪いというか、その魔術に陥ること間違いなしの一枚だといえる。
・フリッツ・ライナー指揮、シカゴ交響楽団(1959年録音)<RCA>
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