この夏は旅三昧だった。旅に出るといろんなことを思い出す。
ある時、ぼくは容赦ない女性と付き合ったことがあった。
「ねえ、誕生日に何が欲しい?」彼女が尋ねる。
でも、別に欲しいものなんてなかったからふざけて言った。
「超合金」
「えっ、今の言い方すごくいい」彼女は意外な食いつきを見せた。「かわいかった、あ、なんか、すごくよかった。ね、もう一回言って」
「超合金」
「え? 全然だめ。さっきのと全然違う。もう一回」
「超合金」
「うーん、最初の無心って言うかな、そういう気持ちでやって」
「超合金」
「だめ、なんだかがっかりだなあ。もう一度」
「ねえ、ぼくは最初に言った感じで言えるまでバカみたいに『超合金』って繰り返さなければならないわけ?」
「大丈夫。あなたは、やればできる人だから」
「超合金」
「だめ、もう一度」
「頼むよ、もう勘弁してくれよ」
「何言ってんの? ちゃんとやってくれない? 生半可な気持ちでやって欲しくないわね」
「超合金」
「もう一度」
ぼくはその日一日中、折にふれ「超合金」と言い続けさせられ、その挙げ句合格点を貰うことができなかった。
「ほら、もう一度」
「………超合金」
「だめ。もう一度」
「なあ、今われわれがいるこの局面において、なんで全裸でこんなこと言い続けなければならないんだい?」ぼくはため息をついた。「なんだか、よっぽど口にできないようなことを言わされる方がましな気がする」
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