森岡正博「33個めの石 傷ついた現代のための哲学」 春秋社
2007年、アメリカのヴァージニア工科大学で発生した銃乱射事件はそれまでの犯罪史を塗り替える死者をうみ、犯人はその場で自殺した。
やがて行われた追悼式には彼らを象徴する石が33個置かれた。
犠牲者は27人の学生と5人の教師。
もう一つの石は、もう一人の死者、犯人のためのものだ。
この石は公の手によって除かれる。しかし、その後も誰かが石を置いた。公式行事には決して現れてこない33個目の石。
この一つ多い石こそ、もしかしたらわたしたちが陥ってしまった窮屈で、思いやりや赦しという概念を欠いた社会の希望かもしれない。そんな風に筆者は語る。
911事件以降支配的になった、やられたらやりかえせ、という社会の風潮がただ悲劇や泥沼しか生まないことを、わたしたちはイラクやアフガニスタンの現実で思い知っているのではないだろうか。
久しぶりに読んだ風通しのいい優しい本。