今年は何年ぶりかで小説を書き始めて、
「遅くとも11月には仕上がるだろう……」
と目算を立てていたのに、豈図らんや、とうとう年内にすら完成させることができなかった。
だからその点はおおいに不本意だけれど、総じていえば、個人的には、それほど悪い年ではなかった。
思いつくまま、読んだ本のことを書き出していくと、まずエンタメ部門では、
染井為人『正体』(光文社文庫)と、
浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川文庫)、
この二作がまっさきに浮かぶ。
それぞれ友達から紹介された。どちらもとても良かったので、前者については紹介してくれた相手に礼状を書き、後者についてはブログに感想をアップして、次に会ったときにお礼を言っておいた。ぼくはいまどきのエンタメに疎いので、教えてもらうのはほんとに助かる。
こういった新しい作品のほかに、これまで気になってはいたが読む機会のなかったエンタメ作品をあれこれ読んだ。
そのなかですぐに思い出すのは、
東野圭吾『白夜行』(中公文庫)だろうか。海外のものでは、ケン・グリムウッド『リプライ』(新潮文庫)に感銘を受けた。
これらの小説はいずれもミステリの要素を含んでいるため、うかつに語るとネタバレに抵触するのが困りものだ。でも、
「夢中になってページを繰り、読み終えたあとには深い余韻が残る……」
という点において共通している、ということだけはいえる。
ほかにも、小説の参考にするために、洋の内外を問わず、軍事とか裏社会を描いたエンタメをけっこう読んだが、
「どのジャンルにも、まだまだ知らない名作があり、手練れの作家がいるものだなあ。」
と、感心することしきりだった。純文学を読み慣れた目からは、文章が粗かったり、展開がご都合主義ふうだったりするけれど、とにかく面白く、ぐいぐいと引っ張っていかれるから読んでいる時は気にならない。
これらの方々に伍してプロとしてやっていくのは並大抵のことではない……と今更ながら思う。
SF部門では、なんといっても、
劉慈欣『三体』(ハヤカワ文庫)に尽きる(まあ、上に挙げた『リプライ』もSFといえばSFだが、どちらかというとファンタジーに近い)。
マンガ部門では、前にも書いた、
松本次郎『beautiful place』(ヒーローズ)と、
濱田轟天×瀬下猛『平和の国の島崎へ』(講談社)。
これら二作は、「軍事とか裏社会を描いたエンタメ」を探しているうちに、ネットで見つけた。どんな小説にも負けないくらい面白いし、銃器の扱いとか、戦術の描写がリアルだ。
そして純文学部門においては、なんといってもハン・ガンさんだ。今年10月のノーベル賞で初めてお名前を知ったのだから、ようやく2ヶ月くらいだが、邦訳のある小説6作を読んで、まちがいなくこれが今年最大の読書体験だった。うち4作を訳された斎藤真理子さんともども、この先もずっと著作を読みつづけることになるだろう。
小説についてはそんなところだけれど、ここにきて、なぜか「古今和歌集」が気になっており(『光る君へ』の影響ではない)、
尾崎佐永子さんの名著『わたしの古典 古今和歌集/新古今和歌集』(集英社文庫)を再読しながら、古い岩波文庫をぱらぱらと繰ったりしている。
本にかんしてだけいえば、「古今集」の世界に浸りつつ、年を越しそうな塩梅だ。
本年の更新はこれでおしまいにします。どうかみなさまよいお年を。