この作品は、「物語」としてほぼ完璧にできている。その物語にがっしりと肉付けをして、揺るぎないリアリティーを持たせているのが美術だ。
いったいにここ10年あまりの日本アニメは、ぼくなどの子供の頃からすると「魔術ではないか……」と思えるほどに美麗、かつ緻密になっており、今作の制作会社たるマッドハウスは、ジブリなどと並んでそういった技術向上を先導してきた会社のひとつだ。
公式HPにいしづかあつこ監督へのインタビューが載っているが、第1話から5話までの舞台となった群馬県・館林近辺には、ロケハンを組んで、念入りに取材をしたそうだ。ネットにあふれる「聖地巡礼」サイトを拝見しても、「どのカットがどこ」というレベルまで、照合ができるようである。空気感までも伝わってくる。この裏打ちがあってこそ、キマリたちの織りなす日常のドラマがあれだけ力強いものになった。
第6話のシンガポールと、第7話のフリーマントルへは、さすがに行っておられぬらしい。南極には、「行きたいと駄々をこねたが駄目だった。」とのことで、その代わり徹底した取材によってディテールをきっちり作り込んでいる。なにしろ協力者がすごい。文部科学省、国立極地研究所、海上自衛隊、SHIRASE5002(WNI気象文化創造センター)などが、名を連ねているのだから。
第7話「宇宙(そら)を見る船」と第8話「吠えて、狂って、絶叫して」、そして第9話「南極恋物語(ブリザード編)」では、おもに砕氷艦「しらせ」(作中では「ペンギン饅頭号」)の中が舞台となる。この船には、じっさいに乗り込んでロケを敢行したそうだ。外観も内部も、正確に再現されている。
船橋
廊下
雪上車
調理室
このあと、日向と結月が「4人部屋か……」「ケンカしそうですね」「だな」と言い合い、キマリが「なんで? ねえ、なんで?」と訊く(キマリは寝相のみならず寝言も豪快なのである)
なにぶん物見遊山ではなく、極地へと向かうわけだから、もちろん楽しいだけの船旅ではない。ここでもとうぜんドラマは生まれる。「出航」までを描く第7話と、「南極圏到達」までを描く第8話、そして「上陸」までを描く第9話もまた、「それぞれに輝きの異なる13粒の宝石」のなかの、なくてはならない3粒だ。