バベルの図書館 国書刊行会 旧版 目次
01 『アポロンの眼』 The Eye of Apollo G・K・チェスタートン(G. K. Chesterton)
「三人の黙示録の騎士」「奇妙な足音」「イズレイル・ガウの名誉」「アポロンの 目」「イルシュ博士の決闘」。5編中4編がブラウン神父もの。
02 『無口になったアン夫人』 The Reticence of Lady Anne サキ(Saki)
セールスマンのアンリ・デプリは、遠縁の遺産で大家ピンチーニ一世一代の傑作を刺青してもらったばかりに出国を拒否される。美術品の国外搬出は禁止されているのだ。そればかりか彼は……(『名画の額ぶち』)。ミスター・アピンの調教により人間の言葉を話せるようになった猫のトーバモリーは、居ならぶ人びとの醜聞を次々とあばきたて、パーティはパニックに……(『トーバモリー』)。ユーモアと残酷と無垢とグロテスクの世界を描くサキの短篇、改訳決定版。ほかに「お話の上手な男」「納戸部屋」「ゲイブリエル-アーネスト」「非安静療法」「やすらぎの里モースル・バートン」「ウズラの餌」「開けたままの窓」「スレドニ・ヴァシュター」「邪魔立てするもの」。
03 『人面の大岩』 The Great Stone Face ナサニエル・ホーソーン(Nathaniel Hawthorne)
突然理由もなく妻のもとから失踪し、ロンドンの大都会のなかで「宇宙の孤児」と化した1人の男の物語「ウェイクフィールド」に「人面の大岩」「地球の大燔祭」「ヒギンボタム氏の災難」「牧師の黒いベール」の全5篇。
04 『禿鷹』 Der Geier フランツ・カフカ(Franz Kafka)
アフリカの黄金海岸で捕獲された1匹の猿が、さまざまな訓練・授業によってヨーロッパ人の平均的教養を身につけ、自らの半生をアカデミーに報告する(「ある学会報告」)。悪夢の世界を現出する短篇11篇。
05 『死の同心円』 The Minions of Midas ジャック・ロンドン(Jack London)
まったく逆の発想から透明人間になる方法をあみ出した2人の科学者が、透明状態のまま宿命的な闘争をおこすSF的物語「影と光」ほか「マプヒの家」「生命の掟」「恥っかき」「死の同心円」全5篇を収録。
06 『アーサー・サヴィル卿の犯罪』 Lord Arthur Savile's Crime オスカー・ワイルド(Oscar Wilde)
一羽のつばめに託して、みずからのサファイヤの眼や体をおおう金箔を貧しい人びとにわかちあたえる王子の像、自分の生命とひきかえに心臓の血で赤い薔薇の花を染めあげるナイチンゲール……いまなお世界中で読まれつづけているワイルドの童話に、手相師に殺人を犯すことを予言された貴公子の奇妙な運命譚『アーサー・サヴィル卿の犯罪』、売家に住みつく幽霊を逆にふるえあがらせてしまう愉快なアメリカ人一家の話『カンタヴィルの幽霊』の2短篇を併録。
07 『ミクロメガス』 Micromegas ヴォルテール(Voltaire)
シリウス星の超特大巨人と土星の超巨人が地球を訪問する「ミクロメガス」ほか、「メムノン」「慰められた二人」「スカルマンタドの旅行譚」「白と黒」「バビロンの王女」ゴーロワ的エスプリあふれる作品集。
08 『白壁の緑の扉』 The Door in the Wall H・G・ウェルズ(H. G. Wells)
夢と現実のはざまで破壊する1人の男を描いた名篇「白壁の緑の扉」。不思議な光をはなつ水晶球の物語「水晶の卵」ほか、「プラットナー先生綺譚」「亡きエルヴシャム氏のこと」「魔法屋」全5篇を収録。
09 『代書人バートルビー』 Bartleby the Scrivener ハーマン・メルヴィル(Herman Melville)
法律事務所を経営する「私」の前にあらわれた、癒しがたいまでに孤独な姿をしたバートルビー。生の徒労感を知り究めたかのごとき一代書人、世界からの疎外者バートルビーを通して描かれる人間悲劇の書。
10 『聊斎志異』 editor:ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)中野美代子訳
氏神試験
老僧再生
孝子入冥
幻術道士
魔術街道
暗黒地獄
金貨迅流
狐仙女房
虎妖宴遊
猛虎贖罪
狼虎夢占
人虎報仇
人皮女装
生首交換
夢のなかのドッペルゲンゲル
鏡のなかの雲雨
11 『盗まれた手紙』 The Purloined Letter エドガー・アラン・ポオ(Edgar Allan Poe)
臨終の人間に催眠術をかけて、死の侵入をどこまで阻止できるかをはかる奇怪な実験の物語『ヴァルドマル氏の病症の真相』。大都会の雑踏を意味もなくさまよう一人の男を描き、近代人の心理を透徹した眼でえぐった『群衆の人』。四千トンにもおよぶ巨大な幽霊船に乗って地球の極へ流される船員の驚異の告白『壜のなかの手記』。スペイン異端審問所の恐怖と残酷の拷問『落し穴と振子』。分析的知性の名探偵デュパンものの最高作『盗まれた手紙』全5篇を収録。
12 『ナペルス枢機卿』 Der kardinal Napellus グスタフ・マイリンク(Gustav Meyrink)
世界大戦の機械大量殺戮を背景に、主人と従僕が月遊病幻覚のなかで入れかわる多重人格綺譚(『月の四兄弟』)。人間の時間を吸う怪物〈時間-蛭〉、その呪縛を逃れて永世を可能にする呪文〈VIVO〉の秘密(『J・H・オーベライト、時間-蛭を訪ねる』〉。恐るべき毒草アコニトゥム・ナペルスの秘密をにぎるナペルス枢機卿とその秘密結社の呪い(『ナペルス枢機卿』)。オカルティズムの世界を背景に、神秘と怪奇のあやなすマイリンクの短篇3篇。
13 『薄気味わるい話』 Histoires Desobligeantes レオン・ブロワ(Léon Bloy)
煎じ薬
うちの年寄り
プルール氏の信仰
ロンジュモーの囚人たち
陳腐な思いつき
ある歯医者へのおそろしい罰
あんたの欲しいことはなんでも
最後に焼くもの
殉教者の女
白目になって
だれも完全ではない
カインのもっともすばらしい見つけもの
14 『友だちの友だち』 The Friends of the Friends ヘンリー・ジェイムズ(Henry James)
復讐の年代記「ノースモア卿夫妻の転落」、分身物語「私的生活」他「オウエン・ウィングレイヴの悲劇」「友だちの友だち」4篇を収録。「われわれの時代の最高級の作家」とボルヘスが呼ぶジェイムズの短篇小説集。
15 『千夜一夜物語 -バートン版』 Le Mille E Una Notte
ユダヤ人の医者の物語
蛇の女王
プルキヤの物語
ヤンシャーの物語
16 『ロシア短篇集』 editor:ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)
「文学が我々に提供しうるもっとも賞賛に値する作品」とボルヘスが絶讃するトルストイの「イヴァン・イリイチの死」。他にドストエフスキー「鰐」、墓より蘇った男の物語「ラザロ」(アンドレーエフ)を収録。
17 『声たちの島』 The Isle of Voices ロバート・ルイス・スティーヴンソン(Robert Louis Stevenson)
『宝島』の作者として名高いスティーヴンソンの絶妙な短篇4篇を収録。タヒチに伝わる超自然的な話を換骨奪胎した表題作に、死んだ魔女を侍女にした牧師の戦慄譚「ねじれ首のジャネット」、ほか「壜の小鬼」「マーカイム」。
18 『塩の像』 La estaua desal レオポルド・ルゴーネス(Leopoldo Lugones)
ボルヘスに多大な影響を与えたアルゼンチン作家の、百科全書的知識を駆使した幻想短篇集。チンパンジーに言語を教える男の話「イスール」、聖書を題材にした「火の雨」「塩の像」他「アブデラの馬」等7篇。
19 『悪魔の恋』 Le diable amoureux ジャック・カゾット(Jacques Cazotte)
悪魔が変身した美女ビヨンデッタと、ナポリ王親衛隊大尉ドン・アルヴァーレの間にかわされる不思議な恋の物語。オカルティズムと東方趣味のうえに織りあげた、フランス幻想小説の嚆矢と目される傑作長篇。
20 『アルゼンチン短篇集』 Racconti Argentini editor:ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)
姉を毒殺して手に入れた膨大な遺産を隠しもってブエノスアイレスに向かう馬車に乗ったカタリーナは、自分と同じマントをはおり同じ頭巾を被った一人の女性客に気づいた。朝もやの中に浮かんだその顔は、なんと死んだはずの姉ではないか。とその時、大音と共に馬車が傾き、カタリーナは外に投げ出される……(ムヒカ=ライネス『駅馬車』)。他に、コルタサル『占拠された家』、ビオイ=カサーレス『烏賊はおのれの墨を選ぶ』、シルビーナ・オカンポ『物』フェデリコ・ペルツァー『チェスの師匠』など全9篇
21 『輝く金字塔』 The Shining Pyramid アーサー・マッケン(Arthur Machen)
英文学のなかでもっともデカダン的といわれるマッケンが、聖性と邪性の彼方に繰広げるあやかしの世界。〈サバトの酒〉と呼ばれる薬を服用したため、醜悪な姿に変身する青年の話(「白い粉薬のはなし」)他
22 『パラケルススの薔薇』 La rosa de Paracelso ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)
本邦初訳3篇を含むボルヘスの小説「一九八三年五月二十五日」「パラケルススの薔薇」「青い虎」「疲れた男のユートピア」4篇と、インタビュー「等身大のボルヘス」で構成。巻末にボルヘス年譜・書誌を付す
23 『ヴァテック』 Vathek ウィリアム・ベックフォード(William Beckford)
正篇のフランス語からの新訳と、本邦初訳の挿話篇「アラーシー王子とフィルーズカー王女の物語」「バルキアローフ王子の物語」を2分冊に収める。官能と知の極限を求める男の恐るべき地獄下りの物語。
24 『千夜一夜物語 -ガラン版』 La mille e una lotte
旅の途中ババ・アブダラは謎の托鉢僧に出会った。僧が差し出す小箱に入った膏薬は、左の瞼にすりこむと世界の財宝が見えてくるが、右目にすりこむと……(「ババ・アブダラの物語」)。他「アラジン」の話を収録。
25 『科学的ロマンス集』 Scientific Romances C・H・ヒントン(Charles Howard Hilton)
供奉を引き連れての狩りの途中、閉ざされた谷に一人迷い入ったペルシアの王は、デミウルゴスたる老翁に出会う。谷間のミクロコスモス的空間の進化をつかさどる高次の存在となった王は、快楽をもたらそうとするが……(『ペルシアの王』)。イギリス・日本・アメリカで数学教師を務めていた謎の作家ヒントンの形而上学的物語。他に、『第四の次元とは何か』『平面世界』を収録。
26 『ヤン川の舟唄』 Idle Days on the Yann ダンセイニ卿(Lord Dunsany)
「カフカの先駆的作品」とボルヘスが推賞する「カルカッソーネ」。ほか、「不幸交換商会」「乞食の群れ」等短篇7篇と戯曲1篇。アイルランドの詩人ロード・ダンセイニの想像力がつむぎだす黄昏の世界。
27 『祈願の御堂』 The Wish House ラドヤード・キップリング(Rudyard Kipling)
中世のイングランドの僧院を舞台にした「アラーの目」、ブラウニング流の劇独白体をとった「サーヒブの戦争」ほかに、「祈願の御堂」「塹壕のマドンナ」「園丁」の全5篇を本邦初訳。
28 『死神の友達』 EL amigo de la muerte ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン(Pedro Antonio de Alarcon)
「三角帽子」の作者として名高いアラルコンの中短篇2篇を収録。自殺をはかり意識が朦朧としているヒル・ヒルの前に死神が現れた。死神はしばらくの命と願望の成就を約束するが……。他に怪談「背の高い女」。
29 『最後の宴の客』 Le convive des dernieres fetes ヴィリエ・ド・リラダン(Villiers de l'Isle Adam)
最愛の女ヴェラを失ったダトル伯爵は、愛の力によって亡妻の存在の幻を創り上げ、ついには彼女と天使の如き天上的な抱擁をとげる……リラダンの作中最も幻想的で、ポーの夢幻の世界に最も近接している作品とボルヘスが語る神秘的物語『ヴェラ』。死刑執行人の仕事を虎視眈々と狙う偏執狂のドイツの男爵『最後の宴の客』。拷問の精神的苦痛を描いた『希望』。残虐な王妃の復讐譚『王妃イザボー』ほか全7篇。
30 『逃げてゆく鏡』 Lo specchio che fugge ジョヴァンニ・パピーニ(Giovanni Papini)
分裂する自我、死、自殺、鏡の反映のうちに逃げてゆく「時」。 哲学者、思想家、批評家、詩人、小説家、未来主義者、ファシスト、宗教界への罵声の限りをつくしたのちに回心したキリスト者……多彩な肩書きをもつパピーニが、ジャン・ファルコのペンネームで発表した知られざる幻想怪奇小説。表題作のほか、『完全に馬鹿げた物語』『〈病める紳士〉の最後の訪問』『もはやいまのままのわたしではいたくない』『魂を乞う者』『身代わりの自殺』等全10篇。
☆
《ボルヘスについて》
この宇宙を律する円環的な時間。
その投影としての世界の迷宮的構造。
個人の生が反復する祖型的運命。
作品の伝統性と見合った作者自身の匿名性。
夢見る者=創造主もまた夢見られしもの=被造物、という認識。
★
イタロ・カルヴィーノ、ボルヘスの短篇を評して
ボルヘスは、ほんの数ページのテクストに、おそろしいほどのゆたかさをもった詩と思想の燦きを、また語られ、あるいは示唆されるだけにすぎないできごとを、眩暈をおぼえるほどの無限への広がりを、そして際限なく湧き出すアイデアの数々を、みごとに封じ込めてみせます。
◎その一例。
あの無限のアレフを、わたしの怯弱な精神がほとんど記憶にとどめていないアレフを、いかにして他人(ひと)に伝達することが可能であろうか?
こういう場合神秘主義者たちは象徴をふんだんに用いる。たとえば神性を表示するために、あるペルシャ人は、見方によればあらゆる鳥であるような鳥について語り、アラヌス・デ・インスリス(1128~1202 フランスの神学者)は、その中心は随所にあるが円周はどこにもない球について語り、またエゼキエルは、同時に東西南北の四方に向くことのできる四つの顔を持った天使について語った。
おそらく神々はわたしにもこれらと同類の比喩をお許しになるだろうが、その記述は文学や虚構によって不純なものにならざるをえないだろう。実際わたしがしようとしていることは不可能なのである。というのは無限に連なるものの一つ一つをいくら列挙したところで、所詮それは微小な一部分にすぎないのだから。
「エル・アレフ」より