このオゾンホールですが、じつはここで観測していた隊員が発見し、世界で最初に報告したんですよ。その観測には、こうした、高層気象観測用の気球が使われ、毎日2回、世界で同時に放球されます
例によって、南極での暮らしや研究・観測のもようを織り込みながら、キャラたちの心情や、置かれた情況をビジュアル化する詩的な暗喩。ここでの発見が世界初のものになりえたのなら、藤堂たちが計画している天文台にだって同じことができるかも知れない。そうやって今回のプランに一定のリアリティーを持たせつつ、ほんとうに描きたいのは、この映像が人のこころに喚起するもの。
さながら「魂」のように宇宙(そら)を目指して駆け上っていく気球。それを見上げるキマリたちもこんな目になる。
結月「報瀬さん、来ませんでしたね」
日向「ひとりで考えたいんだろう。隊長から話きいてから、ずっと口数少なかったし」
報瀬もまた、すこし離れた場所で見上げている。そこに、中学時代の情景が重なる。
訪問した担当者が「ここです。このポイントで、通信が途絶えました」と祖母に説明している。それを背中で聞きながら……
母に向けてメールを打つ……いや、打とうとして、この時はまだ言葉が紡げない
「おー、峠の茶屋復活したんだね、ビールある?」という敏夫の声が、報瀬を現実に引き戻す。いつの間にか側まで来ていたキマリが「冷えてますよー」と缶ビールを差し出す(冷えてますよ、は南極ジョークとでもいうべきか)。「気が利くね。サンキュー」
そのあと……。
「今日はあったかだよね」「さっき気球飛ばしたんだよ」「今日のおやつはアンパンだって」と、どうにかして話の糸口を見つけようとするキマリだが、ことごとく空回り。
あげくに……。
どーじよう
報瀬の「それはこっちの台詞……」という声が入って、シーンチェンジ。
食堂。ここで涙腺を刺激する玉ねぎを剥いているのがまた巧い演出なのだが、ジャージの袖で目をこするキマリに対し、報瀬はまったく泣いていない。
いったいに、最初に女子トイレで「しゃくまんえん」を返してもらったとき以来、報瀬はけっこう泣いてるようだし、昂れば、目じりに溜まった涙を溢れさせたりもするけれど、結月が10話で、日向が11話で見せたような、「心の底からの涙」を見せたことは一度もない。
日向「キマリがノープランすぎるからややこしくなるんだ」
結月「どうして話してくるなんて言ったんです?」
キマリ「だって……」
ごめん。べつに落ち込んでいるとか、悩んでいるとかじゃないの。むしろふつうっていうか。ふつうすぎるっていうか。
日向「ふつう?」
私ね、南極きたら泣くんじゃないかってずっと思ってた。これがお母さんが見た景色なんだ、この景色にお母さんは感動して、こんなすてきなところだからお母さん来たいって思ったんだ。そんなふうになるって。
中学時代。自宅の縁側。見ているのはもちろん貴子の『宇宙よりも遠い場所』
でも、じっさいはそんなことぜんぜんなくて、なに見ても写真といっしょだ、くらいで。
これは現在。基地の自室にて
日向「たしかに、到着したとき最初に言ったのは、ざまあみろ、だったもんな」
え? そうだっけ。
結月「忘れてるんですか?」
うん……。
キマリ「でも、報瀬ちゃんはお母さんが待ってるから来たんだよね。お母さんがここに来たから来ようって思ったんだよね」
うん……。
キマリ「それで何度もかなえさんたちにお願いして、バイトして、どうしても行きたいってがんばって」
わかってる。
キマリ「お母さんが待ってるって、報瀬ちゃん言ってたよ!」
3人の中でも、報瀬にここまで言える「資格」があるのはキマリだけだ。あとの2人もそれはわかっているけれど、さすがにどこかで口をはさまざるをえない。
日向「キマリ」
結月「そんなふうに言ったら、報瀬さん可哀想ですよ」
キマリ「う……」
わかってる。なんのためにここまで来たんだって。
でも……
キマリ「でも?」
(声がふるえる)でも、そこに着いたらもう先はない。終わりなの。
もし行って、なにも変わらなかったら、私はきっと、一生いまの気持ちのままなんだって。
あ……