ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

プレヴェール詩集。

2020-01-03 | 雑読日記(古典からSFまで)

 本日は本のご紹介。




 歌とアコーディオンの姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンの『フランスかぶれ』で、

(略)
天気がいい日だよん
自転車こぎ出すよん
枯葉の道行く私はそう
フランスかぶれだよん


代々木公園だよん
プレヴェールを読むよん
(略)
固いパン食べるよん
イヤホンからピアフだよん
(略)
アメリを観てから髪型は
パッツンオカッパよん


 と歌われるジャック・プレヴェール(1900 明治33 ~ 1977 昭和52)。これ、「ランボーを読むよん」だったら気障すぎるし、「ボードレール読むよん」だったら退廃的だし、「ドゥルーズを読むよん」だったらマニアックすぎてちょっと何言ってるんだかわからないし、じつに絶妙のチョイスなんだけど、じっさいこのプレヴェールくらい、ふだんぼくたちの話してるようなふつうのことばだけを使って「詩」をつくるひとは古今東西ほかにはいない(追記。21.05.14  ここ訂正します。金子みすゞがいましたね)。
 谷川俊太郎さんが若い頃からこのプレヴェールのファンで、谷川さんといえば平易なことばで深い詩をつくる詩人として知られているけれど、その谷川さんの作品ですら、プレヴェールと並べたらまだ「現代詩」くさく見えてしまう。それほどのもんなんである。




参考)
谷川俊太郎インタビュー「王と鳥」とジャック・プレヴェールの詩的世界 - 映画『王と鳥』公式サイト
http://www.ghibli-museum.jp/outotori/special/np05/





 こちらのサイトにもあるように、プレヴェール氏は詩人であると共に映画の脚本家/シャンソンの作詞家でもあり、前者としては映画史上のベストワンじゃないか?とまでいわれる『天井桟敷の人々』、高畑勲・宮崎駿両氏にも大きな影響を与えたアニメ『王と鳥』(かつての邦題は『やぶにらみの暴君』)で知られ、後者としては上の歌詞にも出たエディット・ピアフの『枯葉』で知られる。よほど世情に通じてなきゃ、そんな仕事は残せまい。
 日本語訳としては小笠原豊樹さん(詩人としては岩田宏の筆名で知られる)のものが有名で、1956年にユリイカから出た訳詩集が版元を変えて何度か復刊されたんだけど、長らく絶版になっていた。それが2017年、七編の詩と、『枯葉』の歌詞と、小笠原・谷川両氏の解説を追加のうえ、岩波文庫に入った。840円+税。
 そのなかから、ぼくが気に入った詩句を抜粋。




天にましますわれらの父よ
天にとどまりたまえ
われらは地上にのこります
地上はときどきうつくしい
(われらの父よ)より




一週間のどの日でも
冬でも 秋でも
パリの空へ
工場の煙突が吐き出す煙はいつも灰いろ


でも春はやってくる 耳たぶに花びらを飾り
きれいなむすめを腕にかかえて
ひまわり ひまわり
それは花の名 むすめの渾名
(ひまわり)より




貧乏がおふくろ 酒場がおやじ
ゆりかごまがいの 抽斗(ひきだし)でそだてて
はだかのぼくらを 川に溺らす
(結構なくらし)より




怒りやさげすみ わらいやそねみ
恋する二人にはだれもみえない
夜より遠く 昼より高く
二人はいまや
目くるめく初恋の光のなか。
(恋する二人)より




ぼくはどうせ規格はずれ
あんたがたの戦争の小径で
ぼくの平和の煙管を
ふかすよ
おこらなくてもいいでしょう
灰皿をよこせたぁ言わないから。
(練兵場にて)より




ロバと王様とわたし
あしたはみんな死ぬ
ロバは飢えて
王様は退屈で
わたしは恋で
時は五月
(五月の歌)より



 まだまだあるけど、これくらいにしておきましょう。もっと物騒なのもあるけど、あまり新春からそういうのもどうかと思って、わりと穏やかそうなのを選びました。それでも、ユーモラスで瀟洒な響きの中に漂う一抹の剣呑さ。みたいなものは伺えるんじゃないでしょうか。「書けそうでいて絶対書けない。(たぶん)」という見本みたいな詩ではないかと思います。