ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

『スター☆トゥインクルプリキュア』第46話「ダークネスト降臨!スターパレスの攻防」

2020-01-05 | プリキュア・シリーズ


何を置いてもこの画像だけは外せない。アイワーンの「デレ」顔



それともちろんこの人。ついに正体をあらわした「(旧)蛇遣い座のプリンセス」



この貫禄。今作における「悪」の表象を一身に担う勢い



 日本は正月休みでも、世界情勢は容赦なく動く。googleニュースのトップは、にわかに不穏さを増す中東の地のこと。宗教(宗派)、民族、路線、さまざまな不安定要因が十重二十重に絡み合う火薬庫のような情況のなかに、アメリカが燃え盛る松明(たいまつ)を投じた……という印象。いや勉強不足で詳しいことは知らないんだけど、予断を許さぬ事態だろうなとは思います。もともとぼくは心配性だし。
 そんな折でも日曜の朝8時半になると滞りなくプリキュアさんがはじまることはきっと幸福なのでしょう。アニメーションは平和と豊かさのもたらす果実(戦時中にも国策アニメが作られてたとか、制作現場はブラックだとか、そんな話はいったん脇に置いといて)。だとすれば、とりあえず今は、そのたわわな果実を味わうことにいたしましょう。



 最終決戦の始まりというより、その除幕というべき回でしたね。しかし宇宙空間を舞台に善と悪とが壮絶な戦いを演じるとなると、どうしてもこれは、もはや「メロドラマ」では収まらず、ぼくの大好きな例のほらあれ、そう「神話」ってことになっちゃうんだけど。
 ダークネストの正体は蛇遣い座(EDテロップにはこう表記されていた)のプリンセスで正解だったけど、彼女はスターパレスに「入れなかった」のでも「追い出された」のでもなく、自らの意志で信念をもってそこから「去った」とのこと。この違いはでかい。
 蛇という存在はほとんどすべての民族の神話において「禍々しきもの」と捉えられていて、ぼくの知るかぎり例外はネイティブ・アメリカン(いわゆるインディアン)やアフリカ、あとオーストラリアとか、そのくらいじゃないかと。これも掘っていけばキリのない話題ですけど。
 この女神様があやつるのは、ただの蛇じゃなくヒュドラ(多頭蛇)ですね。どう見ても邪まですな。蛇神であり邪神です。なるほどたしかに、鬼と河童と天狗と一つ目小僧なんだから、八岐大蛇のイメージが重ね合わされてもいるのでしょう。深いです。なんというか、民俗学的に、深い。


☆☆☆☆☆


 CVを務める園崎未恵さんの公式コメントです。


ダークネスト・へびつかい座のプリンセス役:園崎未恵さんから公式コメント到着!
https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1578131411


(一部を引用)

(へびつかい座は)12星座のホロスコープが誕生した当時には黄道からは外れていた星座で、地球の自転軸の傾きで太陽が通るようになって、新しい星占いといったような形である時期登場しましたが、あまり世の中には馴染まなかったといういわくのある星座です。

実はダークネスト初登場の際に「ダークネストの正体はへびつかい座のプリンセスです。」と早々に衝撃の説明を受けてしまい、ダークネストは“ダークネストという存在”だと思っていたわたしは、びっくりしてしばらく言葉を失ってしまったのですが、へびつかい座のプリンセスが何故そうなったのか、イマジネーションの力をどうして忌々しいと思っているのか、お話を聞くにつれ、星座占いでのへびつかい座や、わたしの中で推察された“ダークネストの部下たちの姿が日本の妖怪を模して描かれている理由”が、今回のシリーズの根幹のテーマ『多様性』に一気に結びついて、ざあッと鳥肌が立ってしまったのを覚えています。


☆☆☆☆☆


 そうですね。ぼくだって、「正体はへびつかい座だよね。」と早くに予測はしてたけど、いざこうやってご本人に登場されると「おおっ。」となりましたからね。ついにユニに対してデレちゃったアイワーンはじめ、ほかにも見どころ満載だったのに、なんか蛇遣いさんにばっかり目がいってたという。


 台詞がまたよくってね。


「我は、蛇遣い座のプリンセス。かつてはそう呼ばれていた。」
「我は、奴ら(12星座のプリンセスたち)とともにこの宇宙をつくった。だが、忌々しき想像力が蔓延るこの宇宙は、完全なる失敗作。よって、すべて消し去る。」
「本気で宇宙を乗っ取れるとでも? 見捨てられし日陰者たちが、おこがましい。」
「儀式により、大いなる闇を広げる。 (大いなる……闇?) 鈍いな。あの闇は我の力だ。(あの……ブラックホールが……)」()内はガルオウガ氏による合いの手。




 ブラックホール。この用語が一般にいきわたったのは1970年代くらいからじゃないかなあ。アニメでも漫画でもSF調のものなら必ずといっていいほど出てきた。「光さえ吸い込む」ということで、何もかもを虚無の底に飲み込んでしまう破滅の代名詞みたいに使われたけれど、最近の理論ではまた別の見方も出ているらしい。いずれにしても、「飲み込まれたら只では済まない。少なくとも現状を保ったままではいられない」のは間違いないようですが。




「忌々しき想像力が蔓延るこの宇宙は、完全なる失敗作。よって、すべて消し去る。」
 なんなんだろう。まったく訳がわからない。大丈夫かこの人。中2なのか。いやこの無茶苦茶さがたまらない。久々に痺れるキャラに会いました。神話好きにとっちゃ、このキャラはあまりに美味しすぎるよ。
 「すべて消し去る。」つってんだから、破壊神でもあるわけですね。それも破壊しっ放しってんじゃなく、「失敗作」をいったん壊して再創造するつもりなんだから、さながらシヴァ神に近い立ち位置なんだ。その方が「想像力」を激しく憎んでおられる。理由はまだわからないけれど。
 これはもう、今作の根幹テーマが「イマジネーション」だからね。そこに全編の命運がかかってくるのは当然ですが。
 だんだんと帰趨が見えてきました。これまでの数多の経験を踏まえ、それぞれの課題を乗り越えて成長を果たし、ついにカッパード、テンジョウ、ガルオウガ、アイワーンと和解を果たしたプリキュア勢が、奪われし「希望の象徴」フワを奪還すべく彼女のもとに乗り込む。
 そこで「イマジネーションの力」の真価を、その素晴らしさを、この蛇神=邪神=破壊神に知らしめることができれば「勝ち」なんだけど、さて、そのプロセスがどれほどの説得力をもって描かれるのか。そもそも彼女は、なぜ想像力を「忌々しい」と断ずるのか。まずは話はそこからですが。
 来週も楽しみです。


 訂正) コメントでもご指摘がありましたが、文中の「蛇という存在はほとんどすべての民族の神話において「禍々しきもの」と捉えられていて」というくだりは勇み足で、正確とは言えません。詳しくはこの次の記事「前回記事の補正・蛇神必ずしも邪神に非ず。」や、1月12日の記事「『スター☆トゥインクルプリキュア』第47話「フワを救え!消えゆく宇宙と大いなる闇!」考察。」をご参照ください。