ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

生きちゃった

2020-10-03 23:22:09 | あ行

生を、振り絞る。

 

「生きちゃった」72点★★★★

 

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2019年、東京近郊の工業地帯。

山田厚久(中野太賀)と奈津美(大島優子)、武田(若葉竜也)は

幼なじみ。

 

が、青春の時代を過ぎ、それぞれもう、30歳。

そんななかで

厚久と奈津美は結婚し、5歳の、娘をもうけていた。

 

狭いアパート暮らしでも、一見、幸せそうにみえた家族。

 

そんなある日、厚久が仕事先から早退すると

奈津美が、見知らぬ男と肌を重ねていた――。

 

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「川の底からこんにちは」(10年)、最近では

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」(17年)の石井裕也監督が

幼なじみの男女の「それから」を描いた作品。

 

自主映画っぽいざりざりした手触り。登場人物たちの振り絞るような叫び。

むき出し!な感覚に、原点回帰な魂と意欲を

ガツンと感じました。

 

なにより

大島優子氏演じる

人生諦めたくないのに、諦めざるを得ないような

30歳の主婦・奈津美がいい。

 

幼なじみと結婚し、かわいい娘もいるのに

どこか満ち足りない。

結局は離婚しても、一人では立てず、

だめんずに依存して、デリヘル嬢にまでなっていく。

 

厚久との暮らしが破綻した根底には、ある理由があるんですが

そのフクザツな心境が

ことさらに描かれるわけでもなく

でも、ちょっとしたシーンに生々しいすごみがあるんですよね。

 

自分はパートで疲れて帰ってきて

これから娘を迎えに行かなきゃいけなくて、

「ああ、忙しい」というときに

 

家で寝っ転がってだらだらするだめんずをみたときの

あの、なんともいえない「あきらめ」の感じ。

「はあ~」というため息を押し殺した背中に

全女性の共感が集まると思う(苦笑)。

 

髪バサバサ、生活にやつれまくったリアルもすごいし。

 

ワシ、大島さん

「紙の月」(14年)はもちろん

「ロマンス」(15年)

でも好きなんですよね。

フツーさと、あきらめ感、ちょっと投げやりな感じや、秘めた狂気を、

いまの時代に暮らす女性として

自然に表現できる女優さんだと思う。

 

おなじみ「AERA」10/5発売号で

石井裕也監督×大島優子さんの対談記事を書かせていただいております。

撮影に挑んだ大島さんの気持ち、それを受け取った石井監督の思い――

ぜひ、映画と合わせてご一読くださいませ!

 

★10/3(土)からユーロスペースで公開。

「生きちゃった」公式サイト

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ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン

2020-10-02 23:18:10 | ら行

ピエール・カルダン、ブランドの名前じゃなくて

人の名前だって、知ってました?

 

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「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」71点★★★★

 

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ファッションだあ?知らねえナァ?という昭和のおじさんだって

知ってるであろう「ピエール・カルダン」の名前。

そのご本人を追うドキュメンタリーです。

 

ご本人がいまだバリバリ現役、かくしゃくとした98歳(!)

ってことにまずびっくり。

 

というか、失礼ながらご存命だったのか!

いや、それ以前に

デザイナーの名前だったのか!と驚く人も少なくないんじゃないかなあ。

 

だって本人も言うんだもの。

「“ピエール・カルダン”が実在すると驚かれるよ。

ブランドの名前だと思われている。広告の成功だね」

 

ええ、ホントにそのとおりでございます。

 

1922年、イタリア・ヴェニス近郊に生まれた彼は

2歳でフランスへ移住。

ディオールのもとで働き、1950年、28歳で独立し

「ピエール・カルダン」を創り上げたデザイナーなんですよ。

 

あまりにその名が偉大で、実は知らないことだらけ――ということが、まず驚きでした。

 

ドレスを作るだけでなく、

1950年代後半から

日本人モデルを始め多様なモデルを起用し、

 

ファッション未開の地だった日本、中国、ソ連にも行き、

ファッション業界だけでなく

世界の美の基準にも革命を起こした、すごい人だったんですねえ。

 

 

各国とライセンス契約をどんどん結び

事業を拡大していった背景には

金儲けだけでない、

ファッション途上国の産業の促進もあったようです。

 

もちろん、商人(あきんど)魂もあったと思いますが

なにより、知らないことを知る、好奇心が大きかったのかなあと思う。

 

特に日本との、浅くないつながりに驚きました。

 

そして、いつも海外のドキュメンタリーを見ながら、思うこと。

1950年代から最近まで

それぞれの時代でピエール・カルダン氏にインタビューをする人たちの

まあ、敏腕なこと!

さまざまに練った質問を繰り出して、本音を引きだそうとする。

 

勉強させていただいてます!

 

★10/2(金)からBunkamura ル・シネマほか全国で公開。

「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」公式サイト

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浅田家!

2020-10-01 23:56:04 | あ行

中野量太監督らしい、やさしさと少しのビターが詰まってる。

 

「浅田家!」73点★★★★

 

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三重県の、ある町に暮らす浅田一家。

 

マイペースな次男坊・政志(二宮和也)は

幼いころ、写真好きの父(平田満)から

カメラをゆずってもらい、写真に夢中になる。

 

なにかと助けてくれる兄(妻夫木聡)と

一家の大黒柱な母(風吹ジュン)に見守られて成長した政志は

やがて写真の学校で、写真を勉強することに。

 

だが、なかなか撮るべきものを決められない。

 

そんな折、あることから政志は

「浅田家」にとって、忘れられない、ある1シーンを

家族全員で再現することを思いつく。

 

「ええ??」といいつつやってくれた家族の協力で、

誰もやったことのない

ユニークな作品を作り始める政志だったが――?!

 

 

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スチャスチャスチャ♪のリズムに乗って描かれる

ちょっと変わってて、愛おしい

家族と、そのなかで育まれた写真家の物語。

 

実在写真家をモデルにした物語で

「湯を沸かすほどの熱い愛」(16年)「長いお別れ」(19年)

中野量太監督らしい

やさしさとあたたかさに満ちていていました。

 

なによりまず実在の浅田家が

おかしすぎるというか(笑)

 

主人公である次男を中心に

迷惑かけられつつも、弟がかわいい兄(演じるは妻夫木聡)、

とらえどころのないお父さん(平田満)と、

シャキシャキしてて一家の大黒柱たるお母さん(演じるは風吹ジュンさん)。

 

この家族のゆるーい団結ぐあいが、実にいいあんばいで。

 

息子のリクエストに応えて

一家全員で消防士とか、ヤクザと極妻、とか

おかしすぎるコスプレを許容し、のってくれるんですよね。

なにより、けっこう本人たちが楽しそうってのがね(笑)

 

そんな家族の肖像を残しただけでも価値がある。

(実は観ながら「うちの家族もやりそう……」とか思ってしまった(笑)

うちもちょっと特殊なんだろうなア)

 

また、この映画は

浅田さんの発表してきた写真を

このキャストで再現してるのも大きなポイント。

みているだけで可笑しくなってしまうんですよ。

 

ぜひ、実際の写真も見ていただきたいと思います。

 

家族の話だけにフォーカスしてよかった気もするけれど

後半、東日本大震災のパートも

忘れてはいけない、大事な記憶ですよね。

 

ラスト、実は・・・のオチも

割と好きっす(笑)

 

★10/2(金)から全国で公開。

「浅田家!」公式サイト

コメント (2)
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